死の先に待っていた新たな世界
第9話


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 サモン・サーヴァントはハルケギニアの生物を召還する。
 幼い頃からの魔法書にそう書かれていたはずだった。
 だから少し混乱をしていた。
 呼び出された人間が日本人だったからだ。
「マスター、どうしたの?」
 ノルンの声で、我に返る。
 そう言えば、ノルンはハルケギニア出身なのか?
「ノルン、君はハルケギニアのフェアリーだよね?」
「え? ええ、そうね。人間が言うならガリアって国の方面かしら?」 
「そうか、ありがとう」
 普通はノルンのような回答が普通だろう。
 ルイズ達の方に視線を向ける。
 呼び出された側はいきなりの事に驚き、混乱をしているようだ。
 ルイズが、その彼を落ち着かせようとしている。
 このまま使い魔の儀式を続けていいのか?
 彼はこの世界の人間じゃないんだぞ?
 ルイズと少年のやり取りを見ながら、俺はここから先の行為を止めるべきか迷っていた。
 周りは平民を召還したと驚いている。こんな事は前代未聞だとか、ゼロのルイズだから変なものを召還したとかだ。
 そんな周りをお構いなく、ルイズは少年に何かを話している。
 いろいろ言っていた少年は一応何かに納得したように頷き、大人しくなった。
 ルイズが、彼の前にしゃがんでコントラクト・サーヴァントを唱える。
「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我の使い魔となせ」
 儀式を止めるか否か決めることが出来ず俺はただ成り行きを見守るしかなかった。
 ルイズは少年に唇を合わせる。
 少年はそのことに驚いて飛びずさると、顔を真っ赤にして口を押えた。
「い、いきなり、何をするんだよ!」
「ごめんなさい。こうしないと儀式が終わらなくて」
 申し訳無さそうに謝るルイズに、少年も強く言えずに黙る。
 次の瞬間、少年の左手が急に光りだした。
「なんだよ、これは!」
 痛みがあるのか、苦痛に顔をゆがめながら少年は左手を押さえる。
「ちょっとだけ、我慢して。すぐに終わるから」
「ちゃんと、説明しろよ!」
 少年は痛みに耐えながら抗議をするが、ルイズもこうなるとは思わなかったのだろう。
 ルイズは少年に説明をするからと言う理由で、とりあえず先に進めたようだ。
「ノルン」
「何、マスター?」
「君は彼から何か感じる?」
 俺の言葉に、ノルンが目を閉じる。
 少しだけそうしてから、驚いたように目を開けた。
「今、風の精霊に聞いてみたんだけど、彼のこと異質だって」
「異質か……。ありがとう」
 精霊は人間と違い、彼が少なくともこの世界から来たものじゃないことはわかるようだ。
「異質といえば、マスターも少し人違うみたいね」
 この言葉には俺は驚いた。
「わかるのかい?」
「うーん、何となくだけどね? こう二つ魂があるというのかな? そんな感じに思えるの」
「そうなんだ」
 二つの魂。
 本来の俺とアレスのものと言うことか?
「アレス、さっきからどうしたんだい? 確かに平民が召還されて驚くのはわかるが、様子が変じゃないか」
 ギーシュが不思議そうに俺を見て尋ねてきた。
 モンモランシーも同じく俺を見てる。
「そうよ。何かを感じるだとか、どうしたって言うの?」
「ごめん。今はまだ何も言えないよ。ちょっとだけ混乱することがあってさ」
「平民を召還しちゃったからかしら?」
 その声に俺は振り向いた。
 そこにはルイズと、さっきの少年がいたのだ。
「平民、平民言うなよ」
 少年は不満そうにそう言ってルイズを見る。
 ルイズは悪気は無かったらしく、すまなそうに少年に謝罪をした。
「ごめんなさい。えっと、サイトでいいのよね?」
「ああ。で、どうすんだよ? これから」
 サイトと言われた少年は、俺達を見ながらうさんくさそうに言う。
 その時、丁度最後の人間が召還し終わったらしくコルベールが生徒全員にこう言った。
「それでは、全員召還が終わったので教室に戻りますぞ」
 その声に皆がレビテーションで空に浮びながら学院へと戻っていく。
「な! 空を飛んでる!」
 そんなサイトにギーシュが呆れながら言った。
「何を驚いているのかね? 魔法が使える貴族が空を飛ぶのは当たり前だよ。モンモランシー教室に戻ろう」
「ええ。じゃあ、アレスにルイズ。わたし達は先に戻ってるわ」
 ギーシュとモンモランシーが空を飛んで帰っていく。
「じゃあ、わたしは彼に説明しないとならないことが多いから授業は一先ず休むわね」
「わかったよ。サイト君って言ったね?」
「ああ、何だよ」
「彼女、ルイズといろいろと話してみてよ。そして二人とも話して、混乱が生じるようなら僕のところに来て欲しいんだ」
 俺の言葉に、サイトはどうして?と言うように首をかしげる。
 会ったばかりの人間の事情を知っているような言い方だからだろうか。
 ルイズは何か感じることがあるのか素直に頷いた。
「さて、それじゃ僕らもとりあえず校舎に戻ろう。ルイズとサイト君は僕のレビテーションで連れて行くよ」
「わかったわ。お願いするわね」
「それじゃ、ノルンも行こう」
 俺はサイトとルイズ、自分にレビテーションを掛けると、三人とノルンで校舎へ戻るのだった。
 戻る途中、サイトが空を飛んでいることに興奮して少し賑やかだったのを追記しておく。
 その後、俺はルイズ、サイトと別れて残りの授業を受けて放課後になった。
 ノルンも授業が終わったら呼ぶからということで別れていた。
「ふう、終わったね」
 隣のギーシュがそう言って伸びをする。
「ねえ、アレス。ルイズのこと何だけど」
「何かな?」
 モンモランシーが俺の机に来て、少し不安そうにしていた。
「あの子の使い魔のこと。彼って平民じゃない? だからルイズが周りから凄く馬鹿にされて傷ついたりはしないかしら」
「それは確かに心配だね」
 そういうのはギーシュだ。
「大丈夫だよ」
「どうして?」
「ルイズは系統魔法が使えないよね?」
 俺の言葉に二人は頷いた。
 これはもう学院にいるものならメイドですら知っている事実だ。
「僕はルイズと一緒に育ってきたのは知ってるね? 昔はコモンスペルすらルイズは爆発したんだ」
「コモンスペルも爆発!」
「とんでもないことじゃないか」
 ルイズの爆発を俺はただの爆発じゃないことをすでに周りに説明していた。
 失敗だとしてもあの威力は脅威だとね。
「それは置いておいて、ともかくルイズはどの系統にも当てはまらない。未知の系統かも知れないと思ったんだ」
「虚無とか、かい?」
 ギーシュの質問はなかなか鋭い。
 どの系統にも属さない、未知の系統、ならば虚無では?と考え付くのはなかなか無い。
「でも、それって伝説じゃない? 伝説の系統がそうほいほい出てくるものかしら?」
「僕も、それはわからない。ただ、どの系統にも属さないルイズが召還するんだ。
 どんな生物が召還されるかはわからなかったんだ。
 だから、それを不安だとルイズが言ってきたときがあってね。
 で、僕がもしかしたら人間とか、亜人とか、エルフを召還することもありえるかもしれないって言ったんだよ」
「エルフはともかくとして、アレスの言うことは確かにそうね」
 モンモランシーが納得したように頷いた。
「しかし、そうなるとルイズは少なくとも確認されている系統には属さないと言う事になるのかい?」
 ギーシュの質問に俺は頷いて見せた。
 モンモランシーが何か気が付いたのか青ざめた顔で俺に尋ねた。
「ねえ、アレス。ルイズは大丈夫なの?」
「どういうこと?」
「だって、どの系統にも属さない未知の系統ってことならアカデミーが黙ってないと思うわ」
「そこも大丈夫。昔にルイズの家族と、この事は話してあるんだ。もちろんオールドオスマン学院長もね。
 で、単に系統に目覚めてないだけと口裏は合わせてあるんだ。
 だから国になんて報告は行かないよ」
 俺の言葉に、モンモランシーとギーシュは感心したように俺を見た。
「アレス、君は凄いな。先を見越して、先手を打っておくなんて」
「ルイズもとても頭がいいけど、こんな婚約者が相手なら頭もよくなるわね」
「そんな、僕はただ不安な要素を消していっただけだよ」
 そういう俺に二人とも謙遜だと言った。
「マスター!」
 そこで、ノルンがやや怒ったような口調で俺のところへやってきた。
「ノルン。どうしたの?」
「どうしたの? じゃない! 授業終わったんでしょ? いつまでも待たさないでよ!」
「あ、ごめん。ちょっと二人と話してたから。他の使い魔たちと話したりとかはしてなかったの?」
「それはそれ、マスターが呼ぶっていうから待ってたのよ。すぐに来ると思って待ってても来ないんだもん」
 ふくれてそっぽを向くノルン。
 そんな僕達のやりとりにギーシュとモンモランシーが笑いながら言った。
「まるで、恋人同士のやりとりね」
 だとしたら俺は尻に敷かれた恋人ってとこか?
「全くだ。さて、もう行くよ。疑問はだいたい解けたからね」
「そうね。じゃあ、ルイズによろしく」
 二人は談笑をしながら、教室を去っていった。
「僕達も行こうか。お腹空いたでしょ? 厨房に行って食事の準備をしてもらおう」
「うん」
 俺達も教室を後にするのだった。
 夜。
 部屋で俺は、秘薬の研究をしていた。
 ノルンは、小箱にハンカチなどをつめた寝床を作ってあげてそこで横になっている。
 研究している秘薬は、五年前に使った興奮と共に身体能力を上げる秘薬の改良版である。
 あまり褒められたものではないが、いわゆる興奮剤のようなものに変えていた。
 五年前の正直やり過ぎだった。
 下手をすれば命の危険すらあるもの。
 だから、今度は危険性が少ないものに変えているのだ。
 あとは依存性を低くして、人体への影響を抑える。
 こうすることで、戦場でも使える代物になるはずだ。
 夕方に伝書鳩が来て、定期連絡を受けたがやはりレコン・キスタの勢いが尋常じゃないらしいのだ。
 その勢いに、兵士もやや弱り始めているらしい。
「そろそろ、俺も出るのかな?」
 そんな事を考えていると、部屋の戸がノックされた。
「どうぞ」
 そういうと入ってきたのはルイズとサイトの二人だった。
 二人とも眉間にしわを寄せながら入ってきたのだ。
 ある意味予想通りである。
 俺は二人を部屋に招き入れるとベッドに座り、二人には椅子を薦めた。
「さて、ここに来たと言うことは話がまとまらないってわけだね?」
 俺の言葉に二人は頷く。
「なあ、あんたはここに来いと言ったけど、あんたなら解決できるのか?」
「アレス、正直に言ってわたしも彼もお互いの言っていることが食い違ってどうにもならないのよ」
 それはそうだろうと思った。
 サイトは恐らく地球の人間。
 そして、ここはハルケギニアだ。
 話が纏まることなんてない。
「たぶん、大丈夫だよ。さて、まずはサイト君」
「何だよ?」
「月はもう見たかい?」
「ああ、二つもあるなんて信じられない。少なくとも俺は違う世界へ来てしまったとしか思えないんだ」
「でも、月が一つしかない世界なんて聞いたことないわ」
「だから、さっきから言ってるだろう!」
 言い合いになりそうなので、俺が割って入る。
「まあ、まずサイト君の言っている事は本当だよ」
「え?」
「な、何言ってんだ? お前、俺の話聞いてなかったんじゃないか?」
「聞いてたよ。この世界には月が二つあるのは確かだけど、月が一つしかない世界も知っているってこと」
 二人が不思議そうに俺の顔を見ている。
 今しがた月の数で口論になりそうだったから尚更だろう。
「まずはこれかな。日本、アメリカ、ロシア、イギリス、フランス。二人とも今言った国名に聞き覚えは?」
 俺の言葉に二人とも驚いたように言う。
「なんで、知ってるんだ!」
「どうして、アレスが彼と似たようなこと言うの!」
「まあ、まずは二人とも落ち着いてほしいんだ」
 そう言って二人にとりあえず深呼吸をさせる。
 何度か繰り返すと、二人とも落ち着いたようだ。
 まあ俺も勿体ぶった言い方だけに混乱させているわけだが。
「僕、いや、ここからは俺と言わせてもらうか。
 俺が何で彼と似たようなことを言っているのか? それをこれから話すことにする」
 口調が変わったことにルイズは驚いたように俺を見た。
 サイトもさっきまでの口調と違うことに首をかしげている。
「まずは信じる信じないは別として、前世、過去世でもいい。そう言う概念があるのを二人は知ってるか?」
「ああ」
「一応、概念はわかるわ」
 その言葉に俺は一度頷く。
「単刀直入に言おう。俺は前世の記憶を引き継いだまま、このハルケギニアに生れ落ちた。
 前世では彼、サイトと同じ世界に住民だったんだ」
 ルイズは俺が何を言っているという表情で俺を見る。
 サイトもまた、同じ様だ。
「まずはサイト、君から言おう」
「あ、ああ」
「俺は前の世界ではプログラマーと言う仕事をしていた。システムエンジニアの仕事も兼任していたがな。俺の仕事がどういうものかは、わかるか?」
「あ、ああ。ソフトウェアの設計や開発ってことでいいか?」
「その通りだ。そして、俺はその前世で、不幸にも飛行機事故で死んだ」
「死んだ……」
「そう。そして気が付いたらこの世界の赤ん坊だったんだ」
「前世では、日本の東京に住んでいたよ。毎日通勤が大変だった。サイト君の出身は?」
「東京だ」
「なら聞いたことはあるだろう? 中央線の混雑ぶりは」
 あれは死ぬ。
 正直に言って、あれを毎日体験するのは拷問に近い。
 通勤だけで恐ろしい程の体力と気力が奪われるのだ。
 俺は客先に行くのに何度か使っただけだったが、通勤で毎日となるとどうしようもない。
「うげ、中央線かよ……」
「乗ったことあるみたいだな。じゃあ地獄を味わっているってことか」
「俺、もう絶対あの時間帯に乗りたくないね」
 そう言ってうんざりした表情になる。
「で、だ。君から見て俺はどう見える?」
「金髪の外人さんってとこか? 今の話聞かなきゃ信じられないところだな」
「そうだろうな。と、ルイズ」
「はい!」
 俺の口調が変わったからだろうか。
 ルイズがやや緊張した面持ちで答えた。
「今の会話で理解できることはあった?」
「いいえ。ほとんど聞いたことの無い単語ばかり。でも、分かったことが二つあったわ」
「何?」
「サイトとアレスが会話できるということ。これは共通の知識があるって意味でね?
 もう一つは、もし普通にハルケギニアの人間として生まれて育ったなら絶対に知りえない知識をアレスが持っていること。
 つまり、アレスもサイトも嘘をついていないってこと」
 ルイズのじっと俺達の会話を聞いていた。
 それで考えた。
 二人とも言っていることが間違っていないと。
「ご名答。少なくとも、サイトがこの世界の住民じゃないっていうのがわかったな?」
「え、ええ。ねえ、アレス。話し方なんだけど」
「これが前世での話し方なんだよ。今の俺はアレスじゃない俺で話してるからな。あとで元に戻すさ」
 そう言って今度はサイトを見る。
「で、サイト。君も理解できたかな? 君は別の世界に呼び出されてしまったということを」
「あ、ああ。で、実は問題があるんだけど、いいか?」
 サイトの言葉に頷いてみせる。
「俺を元の世界に戻す魔法がないのはホントなのか?」
「確かにないな。俺も小さい頃からこの世界の魔法書を読み漁ったが、少なくとも送り返すような魔法は無い」
「はあ……。本当なのかよ」
 サイトは力が抜けたように言う。
 確かに、召還したものを送り返す魔法はない。
 だが、サモン・サーヴァントで呼び出すことは出来た。
「送り返す魔法はないが、研究次第では送り返す魔法を作り出すことも出来るかもしれない」
 サモン・サーヴァントはコモンスペル。
 コモンスペルで、世界すら超える魔法が存在するのだ。
 サイトを呼び出す事が出来るということは、少なくともコモンスペルで世界すら超越する魔法の開発が可能と言うことだ。
 これは、サイトが呼び出されてからずっと考えていた。
 実はそのせいで授業の九割は聞いてなかったりする。
「なに!」
「それ、ホント!」
 ルイズもサイトも前に乗り出すように聞いてきた。
「ま、待て。あくまで研究次第で、と言うわけだ」
「だとしても帰れるかも知れないってことだろ。え、っと、あんたの名前は?」
 そう言えば自己紹介をした覚えがない。
「自己紹介がまだたったな。さて、ついでだから口調も元に戻すことにするよ」
 そういうとルイズが安心したように胸をなでおろしている。
 自分の知らないアレスだったから戸惑っていたからな
「じゃあ、改めて。僕の名前はアレス。アレス・ジルアス・ド・ヴァルガード」
「俺は平賀才人。才人でいい」
「よろしく、サイト君」
「ああ」
 そう言って俺達は握手を交わした。
「話を戻すけど、ルイズ。君はコモンスペルがメイジなら誰でも使える簡単な魔法だというのは知っているよね?」
「ええ」
「その簡単な魔法で、今回世界の壁さえ無視して召還が出来たんだよ?」
「どういうこと?」
「つまり、コモンスペルは世界をも超える魔法が作れるってことさ。少なくとも今日、サモン・サーヴァントは世界すら超えたんだからね?」
「あ!」
 ルイズも気が付いたらしい。
 この世界は系統魔法ばかり重視しているが、実はメイジにとって重要な魔法であるサモン・サーヴァント、コントラクト・サーヴァントはコモンスペルだ。
 そのコモンスペルを、始祖ブリミルが作ったとは言え、少なくともブリミルには世界を超える魔法が作れたのだ。
 なら、研究次第で世界を超える魔法が作れないという道理はないのだ。
 この場合、悪用されないように気をつける必要はあるが。
「じゃあ、俺は帰れるんだな?」
「確証はないよ? 戻れないって事もありえる。でも、その場合は僕が力になるよ」
「そうか。ま、帰れるかも知れないならそれでいいや。それに魔法とか面白そうだし」
 あ、そうか。サイトは知らないんだな。
「サイト君、この世界の魔法。少なくともメイジといわれている人たちが使う魔法は遺伝によるものなんだ」
「へ?」
「つまり、遺伝子レベルで魔法が使える使えないが決まっているわけ。だからサイト君は使えないんだ」
「そ、そんな……」
 そういうとサイトが床に手をついてうなだれる。
 そこで、彼の左手のルーンを見た。
「そう言えば、使い魔の契約はしたんだよね。ルイズ、使い魔についての説明はした?」
「ええ」
 そういうとサイトが再び復活する。
「そうだよ! 使い魔ってのは死ななきゃ解除出来ないって聞いたんだけどどうなんだ!」
「事実だよ」
「何だよ、それ!」
 憤るのも無理は無い。
 勝手に呼び出して、勝手に使い魔にして、死ぬまでいろって言うほうが無理がある。
 ハルケギニアの人間ならともかく異世界から呼び出されれば尚更だ。
「まあ、それも研究してみるよ」
 どうして契約出来るのか?
 それを探って、根本が理解できればこちらも何とかなるだろう。
「頼むぜ!」
「だけど、これも確証がないってことだけ覚えておいてもらえるかい?」
「あ、ああ」
「それで、その使い魔の力なんだけど」
 そう言って俺は立ち上がって引き出しからナイフを出す。
 メイジがナイフを持っているのはおかしな話だが、まあ杖がないメイジほど無力なものはない。
 護身用に持っていて損はないのだ。
「君のルーンだけど、ちょっと見せてもらえる?」
 そう言って、俺はサイトの左手を見た。
 刻まれたルーンは、俺の予想通りのもの。
 ルイズが虚無だったらの場合のため、伝説の使い魔のルーンは記憶しておいた。
「やっぱりガンダールヴだ」 
「がんだー、なんだ?」
「ガンダールヴ。伝説の使い魔のルーンだよ」
「伝説! 俺って伝説なのか!」
「あ、ちょっと落ち着いてね? で、ナイフなんだけど?」
「いや、ナイフなんて握ったことくらいしかないぞ」
 サイトの話を聞きながらナイフを渡す。
 ナイフを握ったサイトの左手のルーンが淡く光を放つ。
「なんだ! 何か頭に何かが流れてくる!」
 サイトはそう言って戸惑いを隠せないようだ。
 俺の予想が正しければナイフの扱い方かもしくは戦闘方法が頭に流れ込んでいるはず。
「サイト君、今度はどう?」
「信じられねえけど、どう動いたらいいかとか何となくだけど知っているって感じだ」
 ナイフを見ながら驚いたように言う。
「やっぱり、ね」
「どういうこと?」
 ルイズが尋ねてきた。
「うん。彼は向こうの世界でも平民。しかも平和な国に生まれているんだ。そんな彼が武器を使って戦えるわけが無いんだよ」
 そうなのだ。
 俺達の世界。とりわけ日本に生まれたなら武器を使って戦うようなことはまずない。
 自衛隊にでも居ればいいが、普通に暮らしているならちょっと喧嘩が強いくらいである。
「そんな彼が、ガンダールヴのように戦いに適しているとは思えないんだ。だからルーンの力で武器が使えるようになる、もしくは戦い方が分かるようになるんじゃ?って思ったんだ。あ、サイト君、他に何か変わりはある?」
「体が異様に軽い。なんか今なら何でも出来そうな気がするぜ」
「身体強化も能力にあるってことかな? サイト君、そのナイフは君にあげるよ。それでいろいろと試してみて」
「ああ」
 さて、これでほとんど問題は解決ってとこか?
 しかし、ノルンはこんなに騒いでもびくともしないな。
「ね、ねえ。アレス」
「どうしたの?」
「今更になってなんだけど、サイトが伝説の使い魔ガンダールヴってことは……」
 そうだった。
 サイトが伝説の使い魔と言うことは、そうルイズは。
「虚無ってことになるね」
 その言葉にルイズの表情は暗くなっていた。