死の先に待っていた新たな世界
第8話


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 魔法学院に入学して、一年が過ぎようとしていた。
 この一年間はアルビオン情勢も落ち着いていたのもあり、出兵することなく学院生活を送ることが出来ていた。
 ただ最近は情勢が悪くなって来ているらしく、状況は変わりつつあった。
 パブリック・ユニオンとレコン・キスタは合併をして、貴族連合レコン・キスタを名乗ってアルビオン王軍と衝突を繰り返している。
 レコン・キスタの勢力はおおよそ三万。
 アルビオンは押され続けて、二万まで勢力を落としていた。
 特に空軍を抱える貴族の寝返りで、一気に後退しざるを得なくなっていたのだ。
 不利な立場に陥ったアルビオンにトリスティンは同盟を持ちかけた。
 トリスティンはこの四年もの間に、軍事力の強化を図った。
 特に、アルビオンへの援軍を意識して空軍は従来の二倍の戦力を有している。
 トリスティン王軍は現在、陸空で計五万の兵力を蓄えていた。
 俺の武器の改良、新魔法の効果もあり、小国でありながらも軍事力は侮れないものになっていたのだ。
 現在、アルビオンの国土の三分の二がレコン・キスタに奪われている。
 残っている砦の数も少なくなっているがトリスティンからの派兵が約一万、アルビオン王軍が二万で計三万の兵力に増強し、あまり兵力を分散させない事で侵略を何とか防いでいた。
 だが、このままではアルビオン陥落が時間の問題である。
 そのため、現在タルブ領の駐屯地に兵を集中させていると話も聞いている。
 情勢次第だが、俺も学院を休学して出兵することになるかも知れなかった。
 それはヴァリエール公爵と父さんと三人で会った時に、そういう話が出ていたのだ。
 魔法学院での生活は平和で久しぶりに学生生活と言うものを楽しんでいた。
 授業の単位は俺もルイズも問題なく取って、共に二年への進級がほぼ確定している。
 あとは二年への進級で必須になる春の使い魔召還儀式が残っているだけだった。
 これは春休み後の最初の授業で行われることになっている。  
 春休みが終わる日。
 この日は、朝から国に帰っていた生徒の全員が学院へ戻ってくる。
 二年に進級する生徒達は戻ってくると、翌日の春の使い魔召還儀式で話題がにぎやかだ。
 俺はルイズと共に魔法学院に戻ってきていた。
 俺とルイズは魔法学院を卒業すると、結婚することになっていて今回はその準備も多少含まれていた。
 ヴァルガード家にルイズがいることも多くなり、着実に話は進んでいたのだ。
「母さんには参ったよ。まだ一年以上も先なのに、子供の話まで出すなんて」
 俺は馬車から荷物を降ろしながら、隣にいるルイズへと話しかける。
 ルイズも顔を赤くしながら頷いて言った。
「ええ。おば様も早く孫の顔を見たいって言ってたけど、やっぱりあの手の話は恥ずかしいわ」
「父さんも、さすがに話が早いと焦ってたしね」
 下ろした荷物のうちルイズの分を渡す。
 ルイズはそれを受け取りながら、小さく笑った。
「おじ様があんな風に慌てるのは、おかしかった」
「僕も同じだよ。あ、ここまでありがとう。帰りは気をつけてくださいね」
 俺は御者の人にそういうと、御者の人は気遣いのお礼を言って馬車を走らせた。
 その馬車を見送る。
 馬車が門を潜るのを確認すると、俺はルイズの方を向いた。
「それじゃ、行こうか」
「ええ。荷物を置いたら、アレスの部屋に遊びに行くから」
「わかった」
 自分の部屋に戻ると、俺は荷物を整理した。
 持って行ったものは、ほとんどが書物。
 着替えなどは向こうにあるためその手の荷物は無かった。
 ルイズはやはり女の子と言うこともあり、着替えの類で多かったが。
「結婚か」
 俺はベッドに倒れこむとそう呟く。
 前世と含めると精神年齢はそろそろ五十代だ。
 もういい年である。だが、肉体は若く、頭もまだ柔軟に動く。
 妙な感覚だ。
「前世では彼女は居た事もあったけどな。結婚とは無縁だったよな」
 それが、今度はちゃんと結婚の話が進んでいる。
 これは俺の中では少し戸惑うものだった。
 ルイズが婚約者と言うことは間違いないのだが、前世の記憶があるせいか、歳の離れた妹、もしくは娘のような感じだ。
 ルイズもだいぶ大人になり、落ち着いている。
 ゼロのルイズと罵る人間にも、なら爆発する理由が講義できて?と言う風に返すのだ。
 面と向かってゼロと言う人間はそれでかなり減ったが、それでも陰口は叩かれているのは知っていた。
 精神的に成長したルイズは、魅力的である。
 見た目以上に、彼女の魅力は華やかだ。
 他人への思いやりの心もあり、母さんの影響か平民の生活改善にも最近は力を入れていた。
 考え方も母さんに似てきており、俺への発言もだいぶ大人びていた。
「だからだろうか? 俺では勿体無い気もする」
 俺の中で引っかかる理由のもう一つが、ルイズが本当に俺と結婚していいのだろうか?と言うことだった。
 俺は彼女を愛すると決めている以上、何を今更なのだが、それでも俺以上の人もいるのではないか?
 そう俺は考えてしまうのだ。
 部屋の扉が、ノックされて、思考はそこで終わる。
「アレス、入るわね」
 断りを入れてルイズが入ってきた。
 当たり前だが、制服姿である。
「お茶菓子持ってきたわ」
 そう言いながら、包み袋を二つ持ってきていた。
「あ、そうなんだ。じゃあ、紅茶を入れるよ」
 魔法で水を沸かして紅茶を入れる。
 十年以上、魔法を使っているが、本当に便利でいい。
 ティーカップに紅茶を注ぎ、それをテーブルの上に置いた。
「ありがとう」
「お茶菓子はマルトーさんからかい?」
「ううん。シエスタよ。彼女が今日のおやつに作ったらしいの。今日わたし達が帰ってくるの知ってからわたし達の分も用意してくれたらしいわ」
 前述したようにルイズは平民の生活改善にも力を入れている。
 それは、この魔法学院においても変わらないのだ。
 一年目から、平民のメイドやコック、衛兵の待遇の改善を求めたのはルイズだった。
 俺も協力はしたが、主立ってやっていたのはルイズである。
 だから、ルイズはこの学院の平民の使用人たちからとても好かれていた。
 俺も彼らと良く話しているため、同じく好かれている。
 ちなみにマルトー学院の料理長。貴族嫌いで有名だが、俺やルイズあと俺達とつるむ友人には良くしてくれる。
 シエスタはメイドの女の子で、とても気の回る子だ。
「じゃあ、いただこうか」
「ええ」
 包み袋を開けると、そこにはクッキーが入っていた。
 なかなかに凝ったクッキーだ。
 犬や猫の形を象ったものが焼かれている。
 向こうの世界なら、お料理教室くらいは作れそうだ。
 それを一口食べる。
「おいしいね」
「ええ、おいしいわ。いいわよね、シエスタは料理が得意で」
 ルイズも料理はするが、やはり貴族である。
 あまり調理場に立たせては貰えず、腕は悪くないがルイズには不満だった。
「ルイズも悪くないんだよ?」
「悪くないじゃ、やっぱり納得行かない」
 ぷくっと膨れて紅茶を飲む。
 こういう仕草はまだまだ可愛らしい。
 そうして雑談していると、ふと暗い表情になる。
「ねえ、アレス。アレスは明日の使い魔召還儀式に不安はないのよね?」
「そうだね。僕は風のメイジだし、何が召還されるか大体は予想できるからさ」
 風竜や風の妖精、グリフォンやふくろうと言った使い魔になるのだろうと思う。
 使い魔はその人にとってもっとも必要となるパートナーを召還するといわれている。
 だから、俺の性格上から偵察や情報収集といったことが得意な使い魔になると思っていた。
 まあ、小鳥や大型でも鷲や鷹と言ったものだろうと考えていた。
「ルイズはやっぱり不安は無くならないか?」
「だって、アレス。わたしの系統は虚無かも知れないのよ? アレスが調べたんだからアレスの方が詳しいと思うけど」
 そう、ルイズの系統は虚無の可能性が高いのだ。
 結局、証明するには至らずにコモンスペルが使えるようになったというのと、相変わらず系統魔法は爆発すると言う状況証拠から虚無であると推測するまでに留まっているのだ。
「もし、ルイズが虚無なら明日の使い魔は人間、もしくは亜人。エルフということも考えられるよ。それらが召還されれば虚無である証拠だ」
「人間と亜人はともかく、エルフって言ったらわたし達の敵よ。って言ってもアレスから散々、種族間の相互理解に関して聞かされてるから今更敵視すつもりはないわ」
 人間と亜人なら十分対応できるだろう。周りが。
 だが、エルフとなると敵視する人間も出てくるのだ。
 俺としては人種差別と同じレベルとしか思えない。
 エルフも人間も意志の疎通ができるのだ。歴史が互いを憎むが、対個人で接すれば誤解を解くのも難しくは無い。
 まあ、使い魔がエルフとなると、攻守ともにかなり凄いことになりそうだ。
「わたし、ね」
 ティーカップを両手で包むように持ちながら、小さく言う。
「本当は系統なんてどうでもいいの」
「ルイズ?」
「伝説じゃなくていいの。本当に系統魔法が単に使えないだけでもいいの。
 わたしは、アレスさえ居てくれたら、メイジとかそんなのどうでもいいのよ」
 小さい頃から見てきたルイズ。
 最初は魔法が使えなくて、悔しいと思っていたルイズ。
 いつの間にか、魔法よりも大切なものに気が付いたようだ。
「それにね、貴族でなくても良かったと思うの。アレスと一緒に小さい家で二人で暮らす。そんなささやかな暮らしでいいって」
 華やかさはいらない。
 一緒に愛する人が居れば、生活できるだけのものでいいと言うのだ。
「ルイズ……」
 俺は、どうなのだろう?
 前世においても激動とも言える人生だった。
 こっちに生まれても、やはり激動といわざるを得ない人生を歩んでいる。
 ルイズの言うささやかな、と言う人生からはほど遠いものだった。
「秘薬に関してはもう、十分知識を身につけたし、魔法もアレスからコモンスペルの開発を教えてもらったわ。わたしの爆発の魔法も制御出来てるし、ね。
 強くなるって決めたんだけど、明日のことを考えたら急に、アレスと静かに暮らしたいって言う願望が出てきたの。
 弱いなって思うわ」
 俺はすっと立ち上がると、ルイズを後ろから抱きしめた。
 少女から大人への成長段階。
 細いが、それでもルイズの体は女性のそれである。
 柔らかい。そして儚く壊れそうな程だ。
「アレス?」
「ルイズ、君は十分強いよ。一緒にいたからね? ずっと見てきたから分かるんだ。
 君は強い。だから、悩みながらも前に進もうと思ってる。
 本当に弱い人間は悩みから逃げるだけだからね」
 実際、俺の下についた部下で、困難な仕事を与えたときすぐに音を上げてチームを抜けていた。
 強い者は、自分の手に余るとわかるとすぐに相談して、どう対処するべきかを仰いできた。
 自分で出来なさそうなら、出来る人間のサポートが欲しいと言うのだ。
 強いものは辛い環境下でも、前を見る。
 弱い人間は、環境が悪いと、人が悪いと、全てを他人のせいにして後ろを向いてただ逃げるだけだ。
 もっとも、俺もそうやって逃げたり逃げなかったりしながら成長したわけだが。
 結果、逃げないことがどれ程重要かが分かったが。
「アレス……。でも、わたしはやっぱり怖い」
「怖いなら、僕がその怖さを取り除いてあげるよ」
 そう言って俺はルイズの頬に手を当てると優しく自分の方を向かせる。
 ルイズも何をするのかわかるのか、顔を朱に染めながら静かに目を閉じた。
 ルイズの唇に、自分のそれを優しく重ねて、優しい大人のキスをした。
 そっと唇を離すと、ルイズは目を潤るませて俺を見ている。
「ずるいわ。わたしが弱気になっている時に、キスを迫るなんて」
「でも、怖いのは消えたんじゃない?」
「もう、ホントにずるい」
 そう言ってルイズは立ち上がると、窓の方に歩いていき、窓から空を見た。
 外はもう陽が傾き、空を赤く染めている。
 赤い光に照らされたルイズは危うい雰囲気を出している。
 儚く散ってしまいそうな、どこか遠くへ行ってしまいそうな、そんな雰囲気を漂わせていた。
「ねえ、アレス。ずっと、一緒に居てくれる?」
「僕が生きている限り、いるよ」
 俺もルイズの隣に立つと、そっとルイズを引き寄せた。
 ルイズは何も抵抗せずに、寄りかかる。
「うそつき」
 聞こえるか聞こえないかくらいの小さい声で、ルイズはそう呟いた。
 それは本当の意味で、ずっと一緒にはいられないという事を意味しているのだと感じた。
 翌日、朝から新二年生は大騒ぎだ。
 どんな使い魔が召還されるかだの、わたしはこんな使い魔がほしいだの、お前よりいい使い魔を召還するだのかなりはしゃぎ捲っていた。
 使い魔の召還はメイジとして一人前と認められる儀式でもある。
 使い魔を持って、初めてメイジになると言う人もいるくらいだ。
 騒がしくもなる。
 新二年生は全員広場に集まることと昨日、全員に言い伝えられていた。
 俺は、ルイズと共に広場へと向かっていた。
「ルイズ、アレス!」
 俺達を呼ぶ声で、後ろを振り向くとモンモランシーとその彼氏であるギーシュ・ド・グラモンがこちらに来るところだった。
 ギーシュはそこそこの二枚目で女の子にモテる。やや細身のキザな少年だ。
 俺は二人に手を上げると、ルイズと共に彼らが追いつくのを待った。
 そして互いにあいさつ交わす。
「久しぶり、ルイズ」
「モンモランシーも、久しぶり。実家はどうだった?」
「相変わらずよ、そっちは?」
 二人はお互いの実家のことを話しながら歩き出す。
 俺もギーシュとその後をついていった。
「アレス、久しぶりだね」
「そうだね。久しぶりの実家はどうだった?」
「アルビオンの情勢が悪いせいか、少しピリピリしていたよ。アレスの方も似たような感じだったんじゃないのかい?」
 ギーシュの家、グラモン家は父親に元帥を持つ名門の家系だ。
 戦略家としても知られるグラモン家は、どんな戦でも常に先陣を切るので有名である。
 彼はグラモン家では末っ子で、まだ部隊は任されていない。
 そのため学院に戻ってきたのだが、彼とて今後の情勢次第ではどうなるかはわからないのだ。
「まあ、ね。僕も一応指揮官を任されているから、情報は大抵知ってる」
「そうだったね。“創造”の二つ名を持つ君は、王宮への出入りもしていると聞いているよ」
 “創造”の二つ名はルイズの姉、エレオノールに付けられた名だ。
 俺が新魔法の開発と、武器の改良や創作をすることからエレオノールに付けられた名だ。
 エレオノールはアカデミーで知らぬものは居ないくらいの名のあるメイジ。
 そんな人から付けられた名は瞬く間にトリスティン中に知られることになったのだ。
 そうこう話しをするうちに、俺達は広場に着いた。
 
 広場に集まった生徒達を、壮年の教師、コルベールがまとめる。
 彼の周りに集まった生徒を見て、授業を開始した。
「さて、今日は春の使い魔召還儀式です。この儀式はメイジとしても重要で、今後の進路を左右するものでもあります。みなさん、心して儀式に望んでください」
 召還の順番は、名簿順で一人一人呼ばれて、広場の中央で召還をする。
 あるものは、猫を。あるものは犬を。また様々な使い魔を召還していく。
 そこで一際大きい歓声があがった。
「竜だ! 風竜だぞ!」
「凄い! 竜を召還するなんて!」
 その騒ぎの中心にいたのはタバサと名乗る少女だ。
 母さんと同じ青い髪をしていて、背は小さいが美少女だ。
 ただ、とても無口なため冷たい人間と誤解を受けている。
 ガリアからの留学生と言う。
 一年から成績優秀で俺と同じくトライアングルだ。
「さすが、タバサね」
 そういうのはモンモランシーだ。
 タバサとはあまり接点はないのだが、その実力をいつも目の当たりにしていてるだけに納得が行くらしい。
「ええ。彼女の実力にはいつも驚かされるわ」
 ルイズもそう言って頷く。
 ルイズはゲルマニアの貴族キュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストーと友人関係にあり、そのキュルケという少女の友人がタバサなのだ。
 ちなみ、ヴァリエール家とツェルプストー家は互いに国境を守る貴族。
 ヴァリエール家もツェルプストー家も時代によっては殺し合いをしてきただけに互いに因縁のある家柄だが、ルイズがそんな不毛な戦いはわたしの代で終わらせるわと言って彼女と仲良くし始めたのだ。
 外交でお互い、協力関係にあった方が余程建設的だと言っていた。
「彼女はやはり凄いな」
 隣に立って、周りと同じく感心しているギーシュ。
 彼も召還は終えている。
「だが、僕のベルダンディーの可愛さには敵わない」
 召還した直後にも関わらず、すでに使い魔に彼は惚れ込んでいた。
 即興で名前までつけてしまう惚れっぷりである。
 俺も見たが、巨大モグラだ。
 しかし、彼の言葉も満更ではなく、目が異様に可愛らしかった。
 手のひらサイズなら、ぜひとも飼いたいものだ。
「そう言えば、モンモランシーはカエルを召還してたね」
 ルイズを挟んで、モンモランシーに話しかける。
 ルイズはカエルと言う言葉に反応していた。
「ええ。ロビンって名前をさっき考えたわ」
「ね、ねえ、モンモランシー? 出来ればわたしのいるところでは使い魔を出さないでね?」
 実はルイズはカエルが嫌いなのだ。
「わかってるわ。大丈夫だからそんなに震えないでよ」
「う、うん。お願いね」
 そう話していると再び歓声があがった。
「サラマンダーだ!」
「これもまた凄いぞ!」
 歓声の先を見ると、赤毛の美少女キュルケが自慢げにサラマンダーを見せていた。
 女性としては背が高く、かなり魅力ある女性である。
 そのプロポーションはおそらく学年一で、多くの男子生徒を虜にしていた。
 実は俺も何度もアプローチを掛けられては、やんわりと受け流している。
 また、見た目の軽さとは裏腹に知的で、知識に富んでいた。
 火の系統で、トライアングルでもある。
「キュルケもさすがだね」
 俺の言葉に三人は頷いた。
 召還が進んで、俺の番になる。
 ルイズ達の方を見ると、期待と若干の不安が篭った視線が送られてきていた。
 俺は広間の中央に出て、魔法を唱えた。
「我が名はアレス・ジルアス・ド・ヴァルガード。五つの力を司るペンタゴン。我の運命に従いし、使い魔を召還せよ」
 光の鏡が、俺の目の前に現れる。
「おいで、僕の使い魔」
 そう優しく語り掛けるように、言うと光の鏡が一際輝いた。
 そして、光の中から声が聞こえる。
「あなたが、あたしを呼んだのね?」
「そうだよ。君が、僕の使い魔かい?」
 まばゆい光が収まると目の前に居たのはフェアリーだった。
 身長はせいぜい三十センチ程度、髪は金色で長い、緑色のワンピースを着ていて後ろは半透明の羽がある。何より可愛らしかった。
「フェアリーだ!」
「小さくて可愛い!」
 ところどころから声が上がる。
 確かに可愛い。
 だが、俺は周りの声を気にしない。
 そして、静かにフェアリーに問いかけた。
「君は使い魔になるのを許可してくれるんだね?」
「そうじゃなかったら、光の鏡を通らないわよ」
 やや気性が荒そうなフェアリーだが、使い魔となるのは問題ないらしい。
 俺はそのまま、儀式に入る。
「我が名はアレス・ジルアス・ド・ヴァルガード。五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我の使い魔となせ」
 俺はフェアリーを手に乗せると、彼女には大きすぎる唇を彼女の唇に合わせた。
 この時、思った。なぜこの魔法はキスなんだと。
 それはともかく、これで儀式は終了。
 フェアリーの手にルーンが刻まれる。
「ふーん、これが使い魔のルーンね」
 刻まれたルーンを見ながら、面白そうに言うフェアリー。
「これからよろしく」
「オッケー、あたしのマスター」
 フェアリーは可愛らしくウィンクするのだった。
 その後、コルベール先生にルーンを見てもらい、召還終了のチェックが名簿に付けられた。
 俺はフェアリーを肩に乗せてみんなの待つところへ行く。
「そう言えば、君のことなんて呼べばいいかな?」
「うーん。フェアリー同士の名前ならあるけど、人間には発音しにくいわよ? だからマスターがつけて」
「僕がかい? そうだね……」
 こんな可愛らしい使い魔だとは思わなかったから俺は名前なんて考えてなかった。
 フェアリーは風の妖精か。
 使い魔はある意味運命のパートナーだし、北欧神話から名前を引っ張ってくるか。
「ノルン。こんな名前はどうかな?」
 運命の女神を意味する名前だ。
 我ながらなかなかいい名前だと思う。
「ノルン……。いいわね。気に入ったわ! ありがとうマスター!」
 ノルンと言う名を気に入ってくれたらしい。
 彼女は嬉しそうにお礼を言った。
「アレス、それってフェアリーよね?」
 三人の下に戻ると、早速ルイズが興味深そうにノルンを見る。
「何? この子? それとか言って失礼しちゃうわね」
 それと言われたのが気に障ったのか、ノルンが怒った。
 でも、本気ではないらしい。
「ごめんなさい。わたしはルイズ。彼の婚約者。あなたは?」
 ルイズがすぐに謝ると、ノルンも気を許したのか、ルイズに自己紹介する。
「あたしはノルン。見ての通り、フェアリーよ。で、この名前はさっきマスターに付けてもらったばかりなの」
 嬉しそうに言うノルンに、ルイズが目を細めて俺のことを見てくる。
 何故だか知らないが、温度が一度下がった気分だ。
 そして、少しふて腐れたこういうのだ。
「女っ垂らし」
「ちょ、ちょっとルイズ、それはないよ」
「まあいいわ。アレスは誰にでも優しいものね」
 そう言って、今度はモンモランシーに視線を送る。
 モンモランシーは慌ててながら言った。
「あ、アレスとは何にも無かったって言ってるじゃない!」
 実は去年、ギーシュが他の女の子にちょっかいを出しているのを見て彼女が泣いていたことがあったのだ。
 偶然見かけた俺が、放っておけず声を掛けて話を聞いて慰めた。
 その時、優しい言葉を掛けたのをきっかけに、モンモランシーが再び泣き出したので胸を貸したのだ。
 泣くなら思いっきり泣いたほうがスッキリするよと言って。
 俺の胸の中で泣くモンモランシーをタイミング悪くルイズに見られて……。
 俺は五十年くらい人生を歩んでいるが、あれほどの修羅場を体験したことは無い。
「そうなんだけど、ねえ……」
 もう一度俺に視線を戻すと釘を刺すように言う。
「他の子に優しくしないでとは言わないけど、あまり誤解するようなことは避けてよ?」
 嫉妬するルイズ。
 実は可愛い魅力の一つだが、やはりルイズを困らせるのはよくない。
 俺が頷くと、ルイズもあとは何も言わなかった。
「さて、次はミス・ヴァリエールの番ですな」 
 その言葉にルイズが返事をする。
「アレス……」
 とたんに不安そうな表情で俺を見た。
 たぶん昨日言っていたように怖いのだろう。
 何が出るかわからないからこそ尚更だ。
「大丈夫だよ。僕たちが着いているから」
 そう言って背中をそっと押してやる。
 ルイズは頷くと、広間の中央へと行った。
 ルイズを見守る俺に、ギーシュがそっと俺の耳元で言った。
「アレス、君も僕のこと言えないじゃないか」
 モンモランシーが隣にいるため小声で言うギーシュ。
 ギーシュはモンモランシーがいるのにも関わらず、未だに他の女の子に手を出していたりする。
「ギーシュのは単なる節操なし。僕のは行き過ぎたお節介だよ」
 そういう俺達に、ノルンがため息をついていった。
「マスター。行き過ぎたお節介は時として、女の子に期待させるから気をつけないとダメよ? まだ節操なしの方が分かりやすいわ。ああ、こいつは遊びたいだけなんだって分かるから」
「う、反論が出来ない」
「耳が痛いね」
 俺とギーシュはもう何もいえなかった。
 そしてルイズの召還が始まる。
「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。五つの力を司るペンタゴン。我の運命に従いし、使い魔を召還せよ」
 魔法を唱えると、ルイズの目の前に光の鏡が現れる。
 光の鏡が輝きを放ち、一際眩いまでに輝いた。
 強い光に、誰も目が開けられない。
「うわ!」
 そんな声が聞こえて、徐々に光が収まってくる。
 光が収まって、俺はルイズがいる場所を見た。
 そこには俺の想定の範囲内で人間が召還されていた。
 人間だというのは想定の範囲内。
 だが、召喚された人の存在は想定の範囲外だった。
「馬鹿な……」
 俺は召喚された人を見て愕然とする。
 こんなことがありえるのか?
 一体どうなっているんだ?
 この魔法はハルケギニアの生物しか呼ばないんじゃないのか?
 そこに居たのは、パーカーにジーンズと言う明らかに現代日本人の格好をした少年。
 手に持たれていたのはノートパソコンだったのだ。