死の先に待っていた新たな世界
第5話


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 外を見上げると、二つの月が交差していた。
 確か、二つの月が交差するのはアルビオンが、トリスティンにもっとも近づく時だったと思う。
 俺はその月から視線を手にしていた手紙に移す。
 綺麗な字で書かれた手紙だ。
 差出人はルイズである。
 定期連絡時に一緒に送られてきた。
 アルビオンに来て、すでに三ヵ月が経っていた。
「ルイズお嬢様からの手紙かい?」
 隣に、簡単な食事を持ってきてくれたラウードが言う。
「ええ。僕が居なくて寂しいと言ってさ」
「まあ、俺も国に恋人置いてきてるから、彼女の気持ちはわかる」
 ラウードから食事を受け取る。
 どうやら気軽に食べられるようにサンドイッチを持ってきてくれたようだ。
 俺はそれを一口食べる。
「しかし、お前さんの砕けたしゃべり方もまあまあ様になって来たよな」
「ラウードは、その話し方が似合ってる」
 ちなみにこんな話し方をしているのは身分を隠すためである。
 一応、俺達は落ち貴族として、傭兵と言うことになっていたのだ。
 まあ、実際に誰かに雇われて仕事をするわけじゃないが。
 ただ帰る前に言葉遣いを直しておかないと少々、厄介だ。
「そう言えば、シルファは?」
 俺の質問に、ラウードが下を指差した。
「あの子は、また聞き込みだよ」
「仕事熱心だよね。彼女は。ただ、可愛いだけに心配だ」
「それは同感だ。一回、情報収集のために本気で体を売ろうとした時は本当に焦った」
「真面目なだけに、割り切るところは割り切るみたいだしね」
 シルファはとてもいい仕事をしていた。
 俺も聞き込みをして回ってはいるものの、彼女の情報収集能力には舌を巻く。
 だいたい、俺は前世において情報収集で自分の足を使うことは少なかった。
 資料はだいたいオフィスにあったし、知らないことは電話で聞けばよかった。
 まさか、こういう地道な情報収集がここまで大変だったとは、今更ながら実感している。
「お前はどうも、来た情報をまとめる方があってるみたいだな」
「うーん。根っから貴族ってわけだね」
「だろうな」
 俺はもらった資料をまとめて報告書にする方があっていた。
 これもたぶん、前世からの癖だろう。
 ついつい集めた情報をまとめる癖があるのだ。
「ま、適材適所だろ?」
「そうだね。で、ラウードはどうも酒場での情報収集に長けてるわけか」
「まあ、友人作るのは任せろってな」
 そう話していると、部屋のドアが開けられる。
 入ってきたのはシルファだ。
「おかえり、シルファ」
「ただいま」
 ラウードが出迎える。
 国に恋人がいるとは言っていたが、ラウードはシルファの事が好きなのだろうと思ってしまう。
 良く、彼女をエスコートすることが多い。
 今も何か食べるか? とシルファに聞いていた。
「俺、ちょっと下に食事取って来るわ」
「了解」
「お願いね」
 ラウードが下へ降りていく。
 代わりに、シルファがラウードが居た場所、つまり俺の隣に来た。
「ルイズお嬢様から?」
「そうだよ。寂しいって書かれてる」
「それなら、返事を書いてあげるといいわね」
 シルファが優しそうに俺を見て言う。
 この人には適わない。
 こう、やんわりと促すのだ。
「報告書、書かないとならないんだけど」
「それならわたしが続き、書いておいてあげるわ」
「悪くない?」
「いいわよ。可愛い恋人に返事を書いてあげるのもジェントルメンのお仕事よ?」
 人差し指で俺の額を軽く押す。
 どうも、この人は俺を子ども扱いして参ってしまう。
 ただ俺も少し甘えてしまうところもあるのだが、精神年齢が、すでに四十を超えているのを意識すると複雑だ。
「で、何か面白い情報があった?」
「あったわよ。とんでもない情報が」
 真剣な表情だ。
「じゃあ、ラウードが戻ってきてからにしようか」
「ええ」
 そういうと、シルファに報告書を渡す。
 代わりの俺は、紙とペンを渡された。
 ラブレターなんて、前世では中学以来だ。
 そのせいだろうか? 妙に緊張してしまう。
 見た目がアレスでなければ、四十過ぎの親父が十一歳の女の子へのラブレターを書くのだから滑稽だ。
 まあ、向こうは純粋に俺の帰りを待っているんだ。
 俺も、それに応えよう。
「出だしはどうするか」
 俺はそんなことを呟きながら、まずは失敗した報告書の裏を使って下書きを始めるのだった。
 ラウードが戻って、シルファが食事を終えると、サイレントを掛けて俺達は整理した情報を確認する。
 情報をまとめた紙を俺は読み出した。
「それじゃ、今までの情報のまとめ。
 共和制推進組織パブリック・ユニオンが最近活発な動きを見せている。
 活動内容は、情報操作による王国への信頼失墜、街道での生活物資の輸送馬車襲撃、王軍の駐屯地への襲撃が主。
 メンバーは下級貴族がほとんどと言っていいが一部、金のある貴族が支援をしている。
 またパブリック・ユニオンに参加する貴族は全員偽名。セカンドネームを持っている。
 王軍の駐屯地襲撃と補給路を経つ事から組織を指揮する人間はそれなりに王軍の情報を得られる人間と推測できる。
 また近いうちに大規模な反乱を起こす計画が進行中。
 アルビオン王軍が一番規模の小さい北部をターゲットにしている」
 そこまで言って、俺が区切ると情報を持ってきたシルファが頷いた。
「次に聖地奪還組織レコン・キスタ。
 彼らはオリヴァー・クロムウェルを筆頭にほぼ本気で聖地奪還を願う信者を集めている。
 その規模は小さくせいぜい百人ほど。
 活動は地味で、呼びかけて街で演説をするくらい。
 最近、クロムウェル氏がパブリック・ユニオンとの接触回数を増やしているらしい。
 パブリック・ユニオンはあまり相手にしていないものの、全く無視をしているわけじゃない。
 彼らは聖地奪還に向けてハルケギニアの統一も掲げているらしい。
 パブリック・ユニオンの中には彼らの必死な姿に共感するものも徐々に増えている。また聖地奪還はともかくハルケギニア統一の思想自体はかなり好ましいという声もある。
 パブリック・ユニオンが全く無視しない理由はたぶんここだね。
 脅威ではないものの、注意が必要っと」
 言葉を区切ると、ラウードが頷いた。
「これらの情報からすると、まだ二つの組織が脅威と言うほどじゃないものの、将来的な脅威になりうることも考えられるわけだ」
「そういうことね」
「レコン・キスタはともかく、パブリック・ユニオンが暴走し始めているのは確かだ」
 俺の言葉に二人が頷いた。
 そして、一番厄介なのが。
「アルビオン王国の反応だ」
「一部の貴族が過剰な反応を示していて、やられる前にやるという考えが先行し始めているわ。このままだと、他の貴族にも影響が出始めると思う」
「で、過剰反応で貴族を潰せば、正気を疑う貴族も出てきて、パブリック・ユニオンについてもおかしくない」
「一応、国王がそれを何とか押し留めようとしてるけど、心無い貴族がそれを台無しにしているのも頭が痛いわ」
 このままだと、パブリック・ユニオンへの賛同者が増えてもおかしくない。
 特に地方貴族は実情を良く知らないため、いきなり王軍が攻め込んできたと思ってもおかしくないのだ。
 レコン・キスタのハルケギニア統一。これは場合によっては危険な考えだ。
「パブリック・ユニオンの情報操作は上手く行っていると考えた方がよさそうだね」
「確かにな。これが幸をなして、内部から切り崩しに掛かれるわけだ」
「それでも、アルビオン王家を打倒するにはまだ数年時間が掛かるわ」
「僕達はあくまで情報収集だから、手出しできないわけだけど、警告くらいした方がいいのかな?」
「いや、アルビオンも馬鹿じゃない。このくらいの情報は向こうも押さえているだろうさ」
 そこまで話すと、俺は一度話を区切った。
 異変を感じたからだ。
 俺はサイレントを掛けたと時に同時に、結界も張っておいた。
 これは風の魔法の一つで、空気の流れと温度から異変を察知できる。
「どうも外の様子がおかしい」
 俺はそういうと必要な荷物だけ持って、杖の代わりの手袋をはめる。
 それを見て、二人も必要な荷物を持ち杖を構えた。
 壁に背を付けて、そっと外を見る。
 外には十数人のメイジと思われる人間達がいた。
 廊下の方には七人くらいのメイジと思われる人間が配置している。
 いや、あの服装は……。
「アルビオン王国正規兵? ラウード、何かへました?」
 シルファがやや冗談交じりでラウードを見る。
「まさか」
 ラウードは冗談はよしてくれと手を振る。
 それは冗談だろうとして、だ。
 もしかしたら、動きに敏感になった王軍が何やら情報を集めている俺らを警戒したかも知れない。
「どうするの?」
「彼らに僕達の素性を話せば理解はしてくれるだろうけど、自分の国の事情を探られているとなれば気分は悪いよね」
「そうすると、逃げるしかないわけね?」
 逃げること事態は難しくは無いだろうな。
 それに場所を移しても、たぶんまた嗅ぎ付けられる。
「そうだね。活動は中止。早いけど本国に戻ったほうがいいかも」
 だいたいの情報は集まったし、ここで引き返しても問題はないはず。
 出来れば、パブリック・ユニオンの本拠地や活動拠点も抑えてたかった。
「落ち合う場所は?」
 ラウードが俺を見て言う。
「ロサイス。期限は三日以内」
「バラバラで逃げた方が生還率は高いってわけね」
 シルファの言葉に、俺は頷いた。
「かく乱は任せて。僕なら彼らを殺さずに、気絶させられる。その間に二人は逃げてほしい」
「年長者に逃げろ、ね」
「まあアレスが適任ってのは反論できないけど」
「効率的に敵と戦う方法も勉強したからね。あ、ラウードにまとめた情報は渡しておくよ」
「ああ」
 僕はさっきまで読んでいた紙をたたむとラウードに渡した。
「二人とも無事にね? 合図と共に、窓をぶち破るよ。降りたら目を閉じて合図を待って」
 俺はそういうと、一歩前に出る。
 どうやら、向こうも配置が完了したみたいだ。
「行くよ!」
 俺は思い切って窓をぶち破った。
 それと同時に、部屋のドアが破られる音が背中越しに聞こえた。
 宿が二階だったために急な落下感を感じるが、慌てずに体制を整える。
 着地すると、素早く魔法を唱えた。
「ライト!」
 明かりをつけるコモンスペルだ。
 だが、ここからは俺のアレンジが入る。
「ブレイク!」
 照明用の光の玉が、強烈な光と共にはじけた。
 その光に、外で待ち構えていた敵が悲鳴を上げる。
 それもそうだろう。
 今のはかなり強烈な光だ。何人かは目をやられただろう。
 フラッシュグレネードのようなものだ。
「行って!」
 俺の声に、二人が走り出す。
 二人が逃げやすいように俺は殿についた。
 森の中を逃げる。
 自分が引き受けたとは言え、厄介なものだった。
「くそ! 待て!」
 王軍の正規兵を一人ずつ、ライト・ブリッドで静めていく。
 逃げながらの攻撃は、精神を使いすぎる。
 足はうかつに止められない以上、逃げ続けなければならなかった。
「いい加減、諦めてくれないかな」
 向こうの余裕がなくなって来ているせいか、攻撃が激しいのだ。
 全系統の攻撃魔法が容赦ない。
 森であっても火の系統もお構いなしで、俺の進路方向にファイアーボールを放ってくれる。
 着弾した側から、風のメイジが酸素を操って過剰燃焼を誘発して爆発も起こしてくるのだ。
「あまりやりたくないんだけど」
 俺はそう言いながら、魔法を唱える。
 使うのはトライアングルスペル。
 たぶん、俺が使える非殺傷性の魔法の中では最強だ。
 逃げ切るにはこれしかない。
 詠唱を唱え終わると、俺は後ろを振り返って魔法を放った。
「ソニック・ウェイブ!」
 オリジナルの魔法だ。ウィンド・ブレイクの強化版と言ってもいいだろう。
 ちなみにネーミングセンスは昔からない。知っている言葉をそのまま命名した。
 名前のごとく、これは衝撃波。
 相手をただぶっ飛ばすだけなら、この魔法。
 幅十メートルくらいの空気の帯が、音速を超えて打ち出される。
 その音は轟音だ。
 まさに衝撃波。
 その轟音に、吹き飛ばされる王軍の正規兵の悲鳴すら聞こえない。
 魔法を放ってすぐに逃げる。
 たぶん、追っ手は来ないはずだ。
 数秒待って、後ろから王軍の正規兵が追ってくる気配がないのを確認すると、俺は走るペースを落としながら森の中は走った。
 安心していたからだろうか、俺はその接近に気が付いたときにはとっさにシールド張るのが精一杯だった。
 放たれたのはエアーハンマーだ。
 地味だが、食らえばかなり強力な魔法である。
「良く防いだものだ」
 篭った感じの声。
 俺の前に立っていたのは、黒いフードを被った仮面の男。
 男だと思うのはその声が低いからだ。
「誰だ」
 俺は物凄く警戒しながら相手を見る。
 物音立てずに俺に近づいてきた。
 しかも気配も消していたと見る。
 かなりの使い手だというのが伺えたのだ。
「知る必要はない」
 そういうと、いきなり接近してきた。
 レイピア式の杖なのだろう。
 接近と共に突きを繰り出してきた。
「シールド!」
 俺はそれを何とかシールドで防ぐ。
 だが、そのシールド越しからでも強烈な一撃だったのが分かった。
 まともに相手したらやられる。
 俺はそう思ってバックステップで下がりながら魔法を唱える。
「エアーニードル!」
 風の渦で生成される針。
 生身の人間くらいなら用意で体を貫ける。
 だが、仮面の男はそれを難なく横に避けると地を蹴って一気に詰める。
「エアーニー…」
「遅い!」
 エアーニードルで迎撃しようとするが、それより早く仮面の男が俺の杖を蹴った。
 杖は、空中を舞って大地に落ちる。
「これで魔法は使えまい」
 メイジは杖が無ければ魔法は使えない。
 だが、俺は右手に杖代用の手袋をつけている。
「甘いね。ライト・ブリッド!」
「何だと!」
 目の前に突然現れる光の弾に驚愕する仮面の男。
 その一撃が、男の左肩に当たる。
 今のは無誘導弾だ。
 ライト・ブリッドはそのまま直進して、消える。
「その手袋が杖代わりか……。子どもの割にはやるな」
「パブリック・ユニオンだな……」
 たぶん、そのはずだ。
 そして、逃げている最中での襲撃。
 王軍への情報を流したのもこいつなのだろう。
 俺らをあぶりだして、仕留めるつもりなのだ。
 そこで、気が付いた。
「二人は!」
 そう、ラウードとシルファだ。
 あの二人はまさかこいつに……。
「あの二人には興味はない。危険だと思うのはお前一人だ」
「なんだって?」
「トリスティンに新しい魔法の開発している子供が居る。噂でだが聞いていた。そして、この三ヶ月。妙にわれわれれを嗅ぎ回るネズミがいると。見慣れない魔法を使うものが嗅ぎまわっているとな」
 情報が漏れている?
 いや、単に俺の噂がアルビオンにまで行っていただけか。
 だが、そんなのは関係ない。
 目の前の敵は危険な人物だ。
「僕は見たとおり子供だ。危険だとどうして思うのさ」
「さっきの戦いを見れば十分だ」
「あの二人はいいの? 情報を持っているけど」
 二人を売る訳じゃないが、これで動揺するなら隙ができる。
 考えは甘かったが。
「外国の人間が知ったところでどうとでもなるわ。だが、来たる統一の時にお前のような人間は邪魔なのだ」
 来る統一。
 レコン・キスタとパブリック・ユニオン。
 どうやら、二つの組織の利害は一致しているようだ。
 仮面の男はかなり殺気を俺に向けてくる。
 俺は思わず怯んだ。
 ここまで殺気だった人間は知らないからだ。
 だが、それでも冷静さは失えない。
「その割にはべらべらしゃべるのはどうしてさ?」
「死に行くものには、土産が必要だろう?」
 冥土の土産ってやつだな。
 男は不適に笑うと魔法を唱える。
 この詠唱は!
「偏在か!」
 俺がそう声を上げると、仮面の男は目の前で五人になった。
 これは非常にまずい。
 偏在と言うことは風のスクウェアメイジだ。
 しかも、さっきの戦闘で分かったが、奴はかなり戦闘能力が高い。
 そんなものが五人だって?
 そして、五人が魔法を唱えだす。
 この詠唱はかなり危険だ。
「っく!」
 俺は即興で魔法を考え出す。
 この状況は理論を持って何とかするしかない。
 向こうは魔法が完成する。
「ライトニング・クラウド!」
 電撃の魔法だ。
 こんなの食らったら黒こげなのは間違いない。
 だが、向こうが完成させたのと、俺が即興で考えた防御魔法はほぼ同時だった。
「ガード・フィールド!」
 シールドの応用だ。
 それをドーム状にして、俺を魔力障壁が覆う。
 間一髪だ。
 電撃が、俺を包むのと魔力障壁が俺を守るのは同時。
 魔力障壁に電撃は阻まれた。
「恐ろしい子供だ……。新魔法で電撃を全て防いでしまうとは」
 俺は何も言えない。
 実は、かなり無理やりだったのだ。
 検証もくそもない。
 ぶっつけ本番の、文字通り力業だった。
 成功したのは良かったが、ライトニング・クラウドを五人分防いだのだ。
 今のでほとんどの魔力を使ってしまった。
 もう強力な魔法はほとんど撃てない。
「これは使いたくなかった」
 そういうと俺は懐からある秘薬を取り出した。
 俺が最近開発した秘薬だ。
 秘薬作りの方も結構試している。創作は俺の得意分野だ。
 この秘薬、飲むと一時的に異常な興奮状態になり痛覚を切り離すことができるのだ。
 つまり、攻撃を食らっても一時的にダメージはない。
 また体のリミッターを解除するのに等しい。興奮状態が異常な運動能力を引き出すのだ。
 もちろん、副作用もある。
 ダメージがなければ考えられないくらいの疲労を感じるくらいで済む。
 ダメージを食らっていれば痛覚は異常に敏感になって、針で軽く皮膚を刺すだけで激痛が走るのだ。
 例えるなら怪我した傷口に、うっかり石鹸が入ったときのような痛みである。針で軽く刺した痛みがそれだ。
 一度試したが、丸一日眠ってしまい父さんと母さんにもの凄く怒られてしまった。
 使用するのは当然禁止されたが、製造禁止も言い渡された。
 正直に言うと、自分で作っておきながら飲みたくない秘薬でもある。
 今回は万が一と思いこっそり作って持って来た。
 これを飲むの自体は、まさに生か死かという場面でもある
 今のままでは確実に殺される。
 なら、賭けるしかなかった。
「切り札かね? ただ殺すのも面白くない。使ってみるがいい」
 向こうは俺を見下しながらそういう。
 何をしようと子供と大人。
 しかもスクウェアメイジだ。余裕なのだろう。
「後悔、するなよ」
 俺はそういうと、その秘薬を一気に飲み干した。
 すると、頭がカッとなりそれと同時にとてつもない高揚感が襲ってくる。
「行くぞ!」
 俺がそういうと、一気に土を蹴った。
 あまりの踏み込みに土が抉れる。
「何だと!」
 仮面の男は驚愕した声を上げた。
 それもそうだろう。
 だいたい五メートルくらいあった間合いを一瞬で詰めたのだ。
「ライト・ブリッド!」
 そして、仮面の男の一人の頭を掴んで魔法を食らわす。
 俺の放ったライト・ブリッドでその一体目の頭が吹き飛んで、消える。
「エアーハンマー!」
 反対側にいた奴が俺に向かって魔法を放つが、俺はお構い無しで二体目に向かう。
 他の仮面の男も素早く対応し始めた。
 横から俺にレイピアで突いて来るが、俺はそれを左手で受けながらそいつの顔を掴む。
 左手はレイピアに貫かれるが、痛みは無い。
「ライト・ブリッド」
 その一撃で仮面の男は消えた。
 こいつも偏在らしい。
 その直後、俺の体が揺れる。
 右肩から金属のとがったものが見えた。
 後ろからどうやら肩を貫かれたらしい。
 だが、痛みはない。俺はすぐさまレイピアから逃れると、刺してきた仮面の男をライト・ブリッドを操って、後頭部に打撃を入れる。
 仮面の男はそれで霧のように消えた。
「なんてことだ!」 
 残りは本体含めて三体だ。
 これで引いてくれるといいのだが。
「なら、これでどうだ!」
 仮面の男はそう言いながら、杖を振り下ろす。
「エアーカッター」
 風の刃だ。
 見えない刃が高速で俺に向かってくるのを感じる。
 俺はとっさに魔法で防ぐ。
「シールド」
 だが、シールドは威力を軽減するに留まり、俺の体を切り裂く。
 もうエアーカッターを防ぎきるだけの魔力は使えないのだ。
 しかし、痛みを感じない俺はそのまま攻撃に移った。
「おおおお!」
 高速で仮面の男の一人に、接近すると蹴りで喉をつぶした。
 本来なら冷静に対処できるだろう思われる仮面の男。
 せっかく冷静さを取り戻しつつあった仮面の男。
 だが、今の俺の状態に、再びパニックを起こし始めているらしく簡単に蹴りが決まった。
「こ、この!」
 男が、化け物を相手にしているかのように忌々しく言う。
「ライト・ブリッド」
 光の弾が二個現れた。
 この二つの光の弾が、残っていた魔力の全てだ。
 それを敵に放つ。
 高速で飛ぶ光の弾が、残り二人の仮面の男に向かう。
 仮面の男も何とかそれらを避けるが、これは誘導弾だ。
 終いには腹や顔を殴りつけられて、一人は偏在のため消えて、本体の男はその場に倒れた。
「くそ……」
 本当なら止めを刺しておきたい。
 だが、この秘薬の効果はもって十分だ。
 止めを刺すにも、魔力はもう残っていない。
 しかもこの後、秘薬の副作用が襲ってくるのだ。
 今は、出来るだけこの場を離れて、残り時間で出来るだけ人がいる場所まで行くしかない。
 秘薬が切れれば、間違いなく俺は気絶をするのだから。
 人が来る可能性がある場所へ、せめて街道に出られれば誰かに発見されて生還できる可能性は高い。
 俺は仮面の男から視線を外すと、急いでこの場を離れるのだった。
 最悪だった。
 身体機能が向上していたおかげで、数分の間にあの場からかなり離れる事が出来たまではいい。
 しかし、街道には辿り着く前に、秘薬の効果が切れたのだ。
 俺の負傷は左手をレイピアで貫いたのと、右肩、それと体を切り裂かれたいくつもの傷だ。
 切り裂かれたほうは、深くは無いが、また浅くも無い。
 秘薬が切れた瞬間に、俺は形容詞することの出来ない激痛が襲った。 
 頭が一瞬、真っ白になってショートしそうになる。
 喉が潰れてもおかしくない悲鳴が口から無意識に上がった。
 俺はバランスを崩して目の前に迫る大木を避けれずに意識を失う。
 気を失う瞬間、俺の脳裏に浮かんだのは……心配して待っているだろうルイズの顔だった。