死の先に待っていた新たな世界
第4話


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 アルビオン行きが決まり、俺は父さんにあるもの作って欲しいと頼んだ。
 概要を説明した時父さんに驚かれるとのと同時に感心された。。
「しかし、お前は魔法の開発といい、ヴァリエール殿の娘の事といい、常識を悉く覆すな」
「若いからでしょうか? もしかしたら私の代でハルケギニアが変わるのかも知れません」
「ふふふ、なかなか言うな。しかし、杖の代用品に手袋に出来ないか? とはな。それなら確かに杖を使わずに魔法が使える」
 父さんに頼んだもの。
 それは、杖の代用品としての手袋だった。
 杖に使う材質のものを編み合わせて、杖から手袋にしてもらうように頼んだのだ。
 普段は杖を使うつもりだが、戦闘の際にはこれがいいだろう。
 杖は弾き飛ばされるリスクが高いが、これなら簡単には行かない。
「たしか、アルビオン行きは再来週、イングの曜日だったな? 今日から始めれば契約も出発までに間に合うだろう」
「無理言ってすみません」
 俺が頭を下げるが、父さんは笑いながら言った。
「よいよい。お前の発想は面白いからな。お前が言うことはできるだけ実現してやりたいさ」
 愉快そうに笑う。
 父親として、息子が自分を追い抜いていくのが嬉しいのだろう。
「いつか、私にお前の考える世界を見せてもらいたいものだな」
 そういうと、早速俺の杖の代用品の手袋を作るよう指示しに行くのだった。
 一週間後、ヴァリエール家にて、部下を紹介してもらい、情報収集のためのルート、定期連絡手段などを話し合った。
 部下二人は俺より年上である。
 ヴァリエール侯爵が、俺の力になってくれるだろうと、若手のメイジをよこしてくれた。
 一人は土のラインメイジのラウード。
 茶髪の短髪で、気さくなお兄さんといった感じだ。
 もう一人は水のラインメイジでシルファ。
 金髪で、ポニーテルが良く似合う女性だ。
 歳は二人とも十九歳だ。
 二人とは、出発当日にヴァリエール家の門の前で落ち合う手はずになっている。
 この打ち合わせは二日間にわたって行われた。
 そして、俺は客人として部屋が用意された。
 ヴァリエール公爵が気を利かせてくれたのか、はたまた娘に甘いだけなのか。
 まあ、ともかく必然的にルイズは俺の部屋を訪ねてくることになる。
 
 打ち合わせ初日の夜。夕食を食べ終わって、部屋でくつろいでいると戸がノックされた。
 俺が返事をすると、声が聞こえてきた。
「入ってもいい?」
 その声でルイズだとすぐに分かった。
 俺が入室を許可すると、ネグリジェ姿のルイズが入って来る。
 念のために言っておくが、彼女のネグリジェはレースではないため透けて体が見えることは無い。
「ルイズ、何て格好をしてるんだ」
 もちろん別段いやらしい格好ではないが貞操教育のために一応怒っておく。
「ご、ごめんなさい。今日はアレスが忙しくて全然、お話できなかったから」
「寂しかった?」
 俺の言葉に恥ずかしそうに頷く。
 しかし、ネグリジェ姿で来るというのはちょっと。
 まだ子供とは言え、もうそろそろ子供ではなくなる年齢でもある。
 特に、貴族の教育は早い。
 ルイズは十一歳とは言え、貴族としての常識などからすれば大人と同じだけの知識があるのだから。
 女性が、男性の部屋に、しかも寝巻きで来る意味がわからないわけでもない。
「入り口で立ってても仕方ないから、ほらベッドに腰掛なよ」
 俺が促すと、赤い顔をして、ベッドに腰掛けた。
 ネグリジェは白く、ルイズの髪の毛と合っていて思わず見とれてしまう。
 十一歳の子供に見とれるとは、俺もちょっとまずいかもな。
 そんなことを考えながら、俺も椅子から離れると、やや離れてベッドに座る。
 俺がルイズをじっと見ていたためだろうか。
「あまり見られると恥ずかしい」
 そういいながら、ルイズが上掛けをすっと自分の方に引き寄せて自身を隠す。
 ルイズが、あと五歳くらい歳がいっていたら、もしかすると理性を保つのが難しかったかも知れない。
 この子はこの歳ながら男を誘う魅力を持っているらしい。
「そう思うなら次はちゃんと普通の服を着てくること。いいかい?」
「はーい。でも、わたしアレスならいいって思うの」
 上掛けで隠しながら言う言葉じゃないだろう?
 娘に甘いのはいいですが、もう少し貞操教育もしっかりとさせてください。
 俺は心の中で、ヴァリエール公爵にそう愚痴った。
「そう言うことはあと、五年は言わないこと」
「もう、アレスは硬いのね」
「君はもう少し、自分を大切にしないとダメだよ?」
「婚約者なのに?」
「婚約者でもだ」
 恋する乙女は大胆とは言ったものである。
 俺の精神が老けてなかったらどうするつもりだったんだ。
「そう言うことは歳相応になってからだよ。体がまだ作られてないんだから」
 早すぎる行為は、心身への影響も大きい。
 この世界では十六歳で政略結婚なぞ普通にあるから、そういった医学的なことは無視されるのかもしれない。
 早い子なら、十二歳くらいで嫁ぐこともありえるのだ。
 精神的に大人にならざるを得ない環境だから仕方ないのかも知れない。
「まるで、お父様みたいな言い方をするのね」
「僕としても、ルイズは妹みたいだからね。そして大切な恋人でもあるから」
 妹と言う辺りでむっとした顔をしたが、恋人と言うと嬉しそうにはにかむ。
 この子は感情がすぐに顔に出るから分かりやすいな。
「アルビオンへ行くのね」
 少し暗い顔をして、確認するように言ってくる。
「ああ。アルビオン国内の情勢を探りにね。もしかしたらトリスティンも無関係とは言えないから」
 共和制はともかく、聖地奪還の動きはハルケギニア全土の問題となる。
 国家間どころの話ではない。
 まあ、それが本当に実行するとなればの話だが。
 そうなれば、賛成派と反対派でまた対立が起きる。
 中にはトリスティン国内にも似たような考えの人間がいたっておかしくないんだ。
 杞憂に終わってくれるならそれでいい。
「危険ではないの?」
「安全ってことはないだろうね。だからヴァリエール公爵から二人も部下を預かることになったんだ」
 ましては反乱の準備があるのだから何かしらのトラブル巻き込まれてもおかしくは無い。
「なんで、アレスなの?」
「信用してるからだって、君のお父上は言っていたよ」
 そこまで言うと、ルイズは俺に抱きついてきた。
「わたし、心配で堪らない! もし、アレスが異国の地で何かあったらと思うと胸張り裂けそうなの!」
「ルイズ」
 俺はこの小さな子が、もう立派な大人と同じだと思った。
 他者を心配する。
 これは子供に求めるのは難しい。
 それ、この子はこの歳でもう出来ていた。
「優しいね、ルイズは」
「だって心配だもの。わたしの大切な人に何かあったらって思うと」
 何度も言うが十一歳の女の子だ。
 元の世界ならロリコンだとか言われてもおかしくない。
 だが、俺は嬉しかった。
 前世で恋人がいた時期はあるが、どことなく軽い世の中にあってこうも人から思われることはなかった。
 その俺が、今一人の少女に心から心配してもらっている。
 大切な人だと言ってくれている。
「ありがとう、ルイズ」
 俺はこの小さな子を抱きしめる。
 こんなに心が温かくなったのは何時以来だろう?
「ねえ、アレス。キスしてほしいの」
「いいよ」
 言っておくが、これはあくまで愛する人だからだ。
 愛情表現だということを強く言っておく。
「ルイズ」
 俺は優しく髪を撫でながら、そっと顔を近づける。
 ルイズはすでに目を閉じていてそのときを待つだけだ。
 明かりが邪魔だと思い、俺はライトの魔法を解除すると、月明かりが部屋に差し込む。
 その二つの月が優しく見守るなか、俺はルイズに優しく口付けをする。
 この日はアルビオンへ旅立つ前の、優しい一時となった。
 そして、更に一週間が経った。
 日が昇る前のヴァリエール家の門前。
 そこに二人のメイジが馬車を用意して待っていた。
 ラウードと、シルファだ。
 二人とも旅人特有の外套を着ていた。
 俺も似たような服装である。
「ラウードさん、シルファさん。お待たせしました」
 俺は必要最小限の荷物を持って、二人の前に行く。
 二人も同じく必要最小限の荷物だけを持っていた。
「お待ちしてました、アレス様」
「それでは参りましょうか?」
 年下の俺に丁寧に言う二人。
 精神年齢がとっく二人の年齢の倍は言っているが、これから一緒に旅をするのにこれは硬い。
「アレスで構いません。あと言葉使いもそんなに丁寧でなくていいので」
 俺の言葉に、二人は小さく笑って改めて自己紹介をしてきた。
「ラウード・シェバリエ・ド・サリファンだ。よろしく頼むぜ、アレス」
「シルファ・クレシア・ドルス・ド・ジルドよ。よろしくね」
「アレス・ジルアス・ド・ヴァルガードです。二人ともよろしく」
 俺は二人と握手をすると、アルビオンに旅立った。