死の先に待っていた新たな世界
第35話


-このコンテンツは画面サイズに幅を合わせます-
 俺達は水の精霊を通して湖の水位が上がった理由を知ることが出来た。
 だが、ノルンが深刻な顔をしたままなのが気になる。
「ちょっと聞きたいんだけどさ、アンドバリの指輪ってどんな秘宝なんだい?」
 だから俺はアンドバリの指輪について聞くことにした。
 秘宝があると言うのは俺も聞いたことはある。
 ただアンドバリの指輪がどんなものなのかは知らなかった。
「アンドバリの指輪は偽りの命を与えると言われている秘法よ。
 わたしもお父様から聞いたことがあるくらいだから詳しくは無いけど」
 シルファが腕を組みながら答えてくれた。
「偽りの命?」
「それについてはあたしが話すわ。
 あたしも族長から聞いた話なんだけどね、何でも死んだ者には偽りの命を与えて、生きているものはその心を操ることが出来る。
 確かそうだったはずよ」
 ノルンの言葉にシルファも頷いた。
 だとしたらとんでもない秘宝が無くなったわけだ。
「ところで、そのアンドバリの指輪ってのはどうして無くなったわけなんだ?」
 ラウードが馬車に寄りかかりながら尋ねる。
 確かにどうしてそんな秘宝がなくなったのか?
「……水の精霊は、人間達によって奪われたと言っているわ」
 ノルンは言いずらそうに言った。
 たぶん、深刻そうなのは人間達が盗んだということが起因しているようだな。
 俺はここで一つ疑問を感じた。
 探すにしても水位を上げるだけじゃ途方もないのでは? と言うことだ。
「ところで水の精霊が湖の水位を上げているのは指輪を探すためってことだよね?
 それってさ、見つかるまでどんどん水位を上げ続けるって事?」
「そうみたい」
「でも、それじゃ時間が掛かりすぎるんじゃない?」
 疑問をノルンに尋ねると、これまた困った顔をして言う。
「あたし達みたいに世代を重ねる種族はそうなんだけど、精霊みたいな種って世代を重ねる必要がないのよ。
 だから……いつまでも生きていられるから水位を上げ続ければいつかは見つかるわ」
「つまり下手すればハルケギニアが水没するってことか?」
 ラウードがまさかと言う感じで尋ねるとノルンは苦笑いをしながら頷いた。
 つまりノルンが深刻なのはアンドバリの指輪が見つからない限り水の精霊が全てを飲み込んでも探し出そうとするからと言うわけだ。
 となると水の精霊の怒りを静めるには一つしかない。
「僕達で探すってのはどうなのかな?」
「おいおい、その指輪を俺達で探して返すってか? それだって厳しくないか?
 どこの誰が持ち去ったのなんかわからないんだぜ?」
 俺の提案にラウードの言うことはもっともだ。
 探すにも誰が持ち去ったのか?
 それが分からなければ探しようが無い。
「ノルン、誰が持ち去ったのかって分かっているのかな?」
「ちょっと待って……」
 ノルンがそういうと再び風の精霊を通して尋ねる。
 さっきより交渉が長い。
 二分くらいして、ノルンが首を振りながら言う。
「秘宝を奪った人間達を信用することなんて出来ないらしいわ」
 ある意味正しい判断だと思う。
 秘宝を奪った同族のものがわざわざ奪い返すとは思えないのだ。
 案外、頭が固いのかもしれない。
「だったらどうしたら信用できるのか聞いてみてくれないか?」
「うーん。あたし通すと時間掛かるから直接出てきてもらう?」
 ちょっと疲れた顔をしたノルンがそう提案してきた。
 確かにそうかも知れない。
 現在だと、ノルン、風の精霊、水の精霊と伝言ゲーム状態だ。
 ノルンは人間の言葉から精霊の言葉に変換して意思を伝えているのだろうがこれだと時間が掛かって仕方ない。
 通訳を挟んだ居るわけだが、双方に通訳がいるわけじゃないから余計だ。
「それが出来るならお願いできる?」
 ノルンは俺の言葉に頷くと、再び風の精霊を通じて水の精霊に説得を試みる。
 一体どう交渉しているのか気になるが今は待つのが先決だった。
 少ししてノルンがこちらを振り向く。
「交渉オッケー。向こうがあたし達に分かる形で実体化してくれるって」
「ありがとうノルン」
「マスターのためだもん」
 嬉しそうに言いながら俺の肩に座る。
 ノルンの頭を軽く撫でてやると嬉しそうに俺の頬に寄りかかった。
「アレスって、結構女の扱いに慣れてるのね?」
「案外女っ垂らしだな」
 二人の突っ込みに俺はただ苦笑いで返す。
 反論できないんだよな。これには。
 そんな事をしている間に目の前の水がゆらゆらと形を変えながら人と同じような形を取った。
 水の精霊だろう。
「我との交渉を望む、単なるものは汝らか?」
 ほぼ無表情な水の精霊が俺達を見て言う。
 俺は二人を見ると、一歩前に出た。
「私があなたと交渉を望むものです。水の精霊、私達はあなたの秘宝であるアンドバリの指輪を探し出し怒りを鎮めたいと思っているのです」
「単なるものよ。指輪を盗みしものは汝らが同胞だ。汝らを我は信用できぬ」
 水が揺らぎながら言葉を発する。
 何かしらの感情が出ているのだろうか?
 気になるところだが話を続ける。
「あなたは指輪を探すために水位を上げています。
 このまま水位が上がり続けると私達が住め場所がなくなりとても困るのです。
 そのため私達もあなたの指輪を探してあなたに返したい。
 指輪を盗んだのは私達人間の同胞なのは認めます。
 ですが、私達は平穏に暮らすのが望み。
 水の精霊である、あなたと争いなど起こしたくないのです。
 あなたは指輪が戻ればわざわざ他の種族を巻き込むことはしない。
 水の精霊、あなたも平穏に暮らすのを望むと思いますがいかがですか?」
 今度は水が激しくゆらぐ。
 どうやら感情が動いているらしい。
 もう一押しなのかも知れない。
「水の精霊よ。私達が信用に足るにはどうしたらいいのですか? もしあなたの信用が得られるのであれば私達は何でも致しましょう」
 俺は効果があるか分からないが、水の精霊の前に跪いた。
 これが俺に出来る精一杯の誠意。
 少しの間が空いて、再び水の精霊が語りかける。
「単なるものよ。もし我の信用が得たのであれば、我を襲撃し汝ら同胞を倒してみせよ」
「あなたを襲撃する私達の同胞がいるのですか?」
「そうだ。毎日のように我を襲撃し風と火を操る者が汝ら同胞が二人いる。
 我は指輪を探すのに手一杯だ。汝らが倒して見せよ。さすれば汝らの話を聞こうぞ」
 水の精霊はそう一方的に言うと再びただの水に戻っていった。

 俺達はひとまず馬車の中に戻った。
「それにしても水の精霊を説得するとはわな。やっぱりアレスだ」
 ラウードが感心したように言う。
「あれは単に出来うる限りの誠意を尽くしただけだよ。それに何でもする覚悟でも見せなければ信用なんてしてもらえないでしょ?」
 人間同士でさえ、信用を得るにはそれ相応の態度が必要だ。
 必要であれば無償で何かをすることだってあり得る。
 それが水の精霊に通用するかまでは分からなかったが、結果オーライってわけだ。
「でも、アレスって無茶が好きよね。アルビオンに行ってた時もそうだったけど」
「いや、無茶と言うならシルファ、君の方が上だよ? 情報収集のためにしようとした事なんて男の僕でさえハラハラものだったさ」
 情報収集のためなら身体さえ使おうとしたシルファを俺とラウードが必死に止めたのも今となってはいい思い出だ。
「あれは必要だったからしようとしただけよ」
 全く反撃に応えていない様子。
 言い合っても無駄なので話をここで切ろう。
「分かってるよ。で、確認だけど」
 俺がそういうと二人の顔が引き締まる。
 今から冗談は抜きだ。
「精霊が言うには風と火を操るもの、つまり風と火のメイジが水の精霊に攻撃を加えていることになるわけだね」
 二人も頷いて応える。 
「水の精霊に攻撃を加えるわけだから二人ともトライアングル以上と見た方がいいと思うわ」
 シルファが付け加えて言う。
 確かにトライアングル以上と見た方がいいだろう。
「それに関しては同感だね。過小評価は出来ないよ」
「だな」
 ラウードも真剣な顔で答える。
「倒すと言っても恐らく水の精霊は襲撃さえなくなれば問題が無くなる。
 戦闘は必要だろうけど殺す必要はないと思うんだ。相手の杖さえ奪うだけで十分だよ。
 どうかな?」
「異議なし」
「わたしも」
 水の精霊に攻撃を加えるメイジも何らかの理由があるからだ。
 つまりその理由が分かり解決の目処が立つなら襲撃を止めるはずなんだ。
 わざわざ危険を冒してまで水の精霊に攻撃を加えるなんて余程のことと考えていい。
 だけど、俺の感が正しければ攻撃を加えるものも目的は俺達同じではないだろうか?
 もっとも二人でってところがあまりに無謀すぎる気がしてならない。
「ところで、その襲撃者ってのはどこに現れるんだ?」
 ラウードの素朴な疑問に、俺達は一同固まってしまうのだった。

 その後、ノルンに頼んで風の精霊から水の精霊を攻撃するメイジがどこに現れるかを聞いてもらった。
 ノルンが居なかったら今頃水の精霊と交渉も出来ず、メイジがどこに現れるかも分からず仕舞いのとこだった。
「ホント、しっかりしてよね!」
 本日何度もお願いをしているせいでノルンがご立腹。
 最初こそ俺の役に立つからと頑張ってくれたが、いい加減疲れが溜まっていたらしい。
 腰に手を当てて俺を上から見下ろしながら頬を膨らませていた。
 横には呆れ顔のラウードとシルファ。
「こりゃ、アレスは尻に惹かれるタイプだな」
「そうね。ノルンちゃんがみたいなタイプなのが余計に効いているのでしょうけど」
 正直、面目が立たない。
 二人に言われたい放題だ。
 ここで反論するにも材料が無い。
 でも、こうする他無かったわけだ。
 俺達でやろうとすれば時間が掛かったわけだし。
 水の精霊と交渉の出来るメイジをアンリエッタに頼んで同行してもらった方が良かったか?
 でも、こういう事態だったのはさっき知ったばかりだしな。
 とは言え今はノルンのご機嫌取りが先だ。
「今度、好きなもの何でも食べさせてあげるから許してくれないか?」 
 ぴくんとノルンが反応する。
 片目だけ開いて俺をじっと見る。
「ノルンも甘いの好きでしょ? だから街に出かけたときにさ」
「うううう……。食べ物なんかにあたしは釣られないわ!」
 一度は落ちるかと思ったノルンも再び心を硬くしてそっぽを向いていしまった。 
 くそ、食べ物で釣るには材料不足か。
 なら仕方ない。
 これはノルンが人間サイズになったからこその奥の手だ。
「それじゃ、今度ノルンが人間サイズになった時にデートなんてどうかな?」
「ホント!」
 さっきまで不機嫌さはどこへ行ったのやら。
 今度は目を輝かせながら俺を見るノルン。
 俺に好意を持っているからこそこれで何とかなるわけなんだけど。
 ルイズ、ごめん。
 アンリエッタに続いてノルンも相手しないとならなくなった。
「もちろんさ。僕がノルンに嘘を付いた事あったかい?」
 俺の言葉にノルンは少し考えて首を振った。
 ほっ。ノルンには包み隠さずいろいろと話しておいて良かった。
「それじゃ、許してくれるかな?」
「いいわよ♪」
 とても嬉しそうに俺の頬に擦り寄ってきた。
 良かった。ノルンが機嫌悪いとどうもやりにくくてな。
「シルファ、アレスってあんな奴だったか?」
「さあ、わたしが知るアレスはもう少し紳士的だったと思ったけどね?」
 しかし、二人からの株は下げる羽目になってしまった。

 風の精霊から二人のメイジが現れる場所を聞くと、俺達はその場所で張り込みをすることにした。
 いつ来るかは分からないが昼間から仕掛ける事はないだろう。
 それではいくらなんでも目立ちすぎる。
 だから俺達は後退で休憩しながら張り込んだ。
 だが、一向にメイジ達は現れない。
 すでに陽は落ちて数刻が過ぎてる。
「今日は来ないのかな?」
「毎日と言っていたからもうしばらく待ってみないと分からないでしょう?」
 今、ラウードが張り込みのために出ているためシルファだけが答えた。
 まだ掛かるのかと思っていた時に、馬車のドア軽く叩かれる。
 ラウードの合図だ。
「来たようだぜ?」
 小声で言うラウードに、俺達は頷くと馬車からそっと降りる。
 ラウードに付いて行くと茂みの先に水辺に立つメイジらしき人間を二人確認した。
 黒い布に身を包んでこちらからではどんな人間かは窺い知れない。
「まずは僕が先制しようと思う。その後を二人が連携しながらどちらかをお願い」
「分かった」
「了解」
 二人が頷くと俺は身を低くしながら小さく詠唱を開始する。
 使う魔法はエアーハンマーだ。
 正体不明のメイジ二人の間に放って分散させる。
 恐らく二人組みと言うことは連携に長けている可能性が強い。
 だったら個別に対応するのがいい。
 詠唱が終わり、いつでも発動できる状態にして更に茂みを使って近づくと一気に茂みから出て魔法を放った。
「エアーハンマー!」
 完全な不意打ちだ。
 正体不明のメイジも驚き一瞬反応が遅れる。
 空気の塊が二人の間に着弾して爆発した。
「行くよ!」
 俺がそういうとラウードとシルファも茂みを駆け抜けて正体不明のメイジに向かう。
 向かってくる俺達に分散されたにも関わらず正体不明のメイジが連携プレイで迎撃に来た。
 風と火の併せ技だ。
 エアーニードルの強化版にファイアーボール。
 空気の渦に炎がミックスされて巨大な火炎放射が俺達に迫った。
「任せろ!」
 ラウードがそういうとアースウォールを唱える。
 地面から分厚い大地の壁が現れて、火炎放射を防いだ。
 だが、超高温のためか少ししてアースウォールが脆くも崩れ去っていく。
「くそ、相手とんでもない使い手だ!」
 ラウードがそう言いながらゴーレムを生成し始めた。
「シルファ、ラウードは火のメイジを! 僕は風のメイジをやる!」
 今の攻撃でどっちが風のメイジか分かった。
 だから俺は風のメイジに向かうことにする。
 火のメイジには水と土が有効だ。
 そもそも二人なら連携も取りやすいし、火が相手ならたとえトライアングルでも苦戦するはずだ。
「お前の相手はこっちだ!」
 俺はそう叫ぶと素早くエアーカッターの詠唱をして、放つ。
 風のメイジはそれを難なく避けると向こうはウィンディ・アイシクルを放ってきた。
「っち。シールド!」
 俺はとっさにシールドを張りウィンディ・アイシクルに突っ込んでいく。
 下手に避けるより進んだ方が被害は少ない。
 シールドに数本の氷の矢が刺さる。
 威力が高い。
 刺さった場所からシールドに亀裂が入ったのだ。
 シールドは魔力で作った障壁。
 だからそうそう罅なんて入らないんだ。
 目の前のメイジは明らかに一流の部類に入る。
 杖を奪いたいがそう簡単に行かないのが分かった。
 だから俺は全力で叩くことにする。
「ライトブリッド!」
 四つの光弾を生み出す。
 地面を蹴って相手に接近しつつ、一つの光弾を敵に放った。
 高速射撃だ。
 だが、敵メイジも慌てることは無かった。
 冷静に俺の放った光弾をエアーシールドで軌道だけを逸らす。
「やるね」
 俺は更に一つを放つ。
 今度は誘導弾。
 先ほどと比べると速度がやや落ちる。
 敵メイジは光弾を今度は避けると、エアーニードルを放ってきた。
 しかも連発。
「っち」
 再度シールドを張りつつ、俺はエアーニードルを回避する。
 外れたいくつかのエアーニードルが地面を抉り取りその威力の高さが伺えた。
 俺は意識を、放った光弾に向けて敵メイジへと軌道を直す。
 避けたはずの光弾が軌道を変えて向かってくることにさすがの敵メイジも驚いたようだ。
 だが、冷静さを失っては居ない。
 軌道を良く見ながらエアーハンマーをぶつけて来たのだ。
 光弾がエアーハンマーと接触して爆発。
 一瞬、眩い光が辺りを照らした。
「まずいな」
 長期戦になると先制攻撃の意味がなくなってくる。
 俺は更に四つの光弾を作ると全て高速射撃で打ち出した。
 さすがに四つ同時は考えていなかったらしい。少し怯んだのが分かった。
 だが、それでも右に左にと回避していく。
 身軽な奴だ。全ての光弾を避けてしまう。
 だが、最後に回避した時バランスを崩したのを俺は見逃さなかった。
 俺は一気に敵メイジに接近する。
 敵メイジが慌てて杖をこちらに向けるが、時すでに遅し。
 俺は杖を向けている腕を掴むと、一気に敵メイジを押し倒して杖を奪う。
「っ」 
 小さくうめく声にわずかに聞き覚えを感じつつ、俺はメイジの顔を見て驚いた。
「た、タバサ?」
「……」
 返事をすることなくただ俺を睨み付けて来る。
「何で、君が? じゃあ、向こうはキュルケ?」
 俺がそう尋ねるとタバサを俺を睨み付けながらも頷いて答えるのだった。