死の先に待っていた新たな世界
第30話


-このコンテンツは画面サイズに幅を合わせます-
 翌日、王宮の小会議室で俺、父さん、ヴァリエール公爵、マザリーニ枢機卿、マリアンヌ皇后陛下、アンリエッタを交えて今後のことが話し合われた。
 ノルンは俺の肩で静観である。
 内容は、アルビオンとの関係についてが第一だった。
 まずは、アルビオン、レコンキスタが連合を組むとしてこちらはどう戦うか?
 この場合、ゲルマニアが一番味方に付けやすい。
 ここ近年、俺が兵器開発でゲルマニアから金属、硫黄の輸入をしてたのが上げられる。
 マスケット銃の技術もゲルマニアが進んでいるのもあり、数点サンプルで購入してもらった経緯があった。
 また、これから非魔法研究開発機関が動き出すため、それらの輸入が多くなっているのだ。
 詰まる所、今のゲルマニアにはトリスティンはいいお客なのである。
 俺は、アルビオン、レコンキスタの連合に相乗りするつもりでいるが、まずはこちらの方も知恵を出していた。
 国内の戦力増強についても意見を出す。
 非魔法研究開発機関の早期立ち上げ、それよる魔法に頼らない兵器の開発。
 メイジを数で圧倒するための扱いやすく、かつ強力な兵器の開発の案を出してみた。
「ふむ、アレス。その考えは非常にいいのだが……。この技術が外に漏れた場合はどうするつもりだ?」
 ヴァリエール公爵が難しそうな顔で尋ねてくる。
 それもそうだ。
 兵器の情報が漏れ、相手もそれを量産し出せば力の差はむしろ相手が有利になるのだ。
「そこは開発した兵器の弱点を予めこちらで把握することで対処できると思います。
 私が考える兵器開発は、このトリスティンをはじめハルケギニアではまだ類を見ないものになります。
 欠点を把握しておいて、それを突く戦法、戦略の発案。対抗するための兵器の開発も同時に進めることで対処出来ると考えます。
 開発は常に先を見なければ成りません。
 真似されるのが当然。対抗されるのが当然。そして打ち砕かれるのも当然です。
 ならば、常にその先、その先を考えていくのがいいと思います」
「……大した頭の回転だ。
 確かに、アレスお主の言うとおりだと思う」
 ヴァリエール公爵はそういうと口を閉ざした。
 本当は何か言いたいのだろうが、生き残るためならやむ得ないと言った感じだ。
「アレス君、仮にそれで国力を上げたとして反乱など起きてはどうしようもないのではないかね?」
 マザリーニ枢機卿が、怪訝な面持ちで言う。
 しかし、これは以前父さんやヴァリエール公爵が貴族が変わると言う意志を示していた。
「信用される国家であれば、反乱の危険性は低いと思います。
 税金の見直し、平民の扱いの改善、また平民による代表の選出など行いながら平民、貴族の両方が歩み寄る形を取ったらどうでしょうか?」
「平民の政治参加かね……。私は賛成しかねるが、お二方はいかがですかな?」
 マザリーニ枢機卿が父さんとヴァリエール公爵に尋ねる。
 二人はさも当然だと言うように、貴族の変革を由とした。
「二人がいいと言うのであれば大半の貴族は抑えれるでしょうな」
 それでもまだ不安が残ると言う感じであった。
 当然だ。
 これはある意味改革なのだ。
 人間、古きを壊して新しいものへ移るのは非常に怖いのである。
 マザリーニ枢機卿が懸念するのは、貴族の反応なのだ。
 ここにいる人間達は、全員が改革をしてもいいと考えている者達だ。
 となれば、後は他の貴族達がどう動くか?
 場合によっては敵を目の前に内部分裂することさえ考えられるのである。
 ただし、一気にやろうとすればの話しだが。
「これは段階を追って行うべきだと考えますので、いきなり変えようとは思いません。
 当分は、国内の戦力強化に専念しましょう。
 ただ私にはある計画があります。
 万一アルビオン、レコンキスタの同盟が現実となり戦争が起こるなら、トリスティンもその同盟に相乗りすると言う考えです」
「なんだと!」
 俺の言葉に、ヴァリエール公爵が立ち上がって驚きの声を上げる。
 当たり前だ。
 伝統を重んじ、トリスティンの大貴族であるヴァリエール公爵なのだ。
 これに驚きの声を上げないわけがない。
「アレス、それは本気か!」
 父さんも声を荒らげて俺に問う。
 俺は二人に対して頷いて答える。
「この話は、昨日アンリエッタ姫には話させて頂いています」
 ここで俺はアンリエッタがこの話を知っていることを告げた。
 全員がアンリエッタを注目するが、アンリエッタは何事もないかのように頷いた。
「ここからの話は聞くに堪えない可能性がありますが、どうか最後まで聞いて下さい」
 俺は不審の目を向ける父さんとヴァリエール公爵を牽制するようにいい、語り始める。
 敢えてわざとレコン・キスタに取り込まれること。
 そして、アルビオン、トリスティンという二つの伝統ある国が聖地奪還へ名を上げること。
 だが、その裏はアルビオンとトリスティンの国の統合と一大国家を築き上げるのが目的であること。
 アルビオン、トリスティンの両家の伝統はウェールズ皇太子とアンリエッタで終わるがそうすることで得体の知れない者達からハルケギニアを守ること。
 新国家を誕生させるに当たって共和制を引き、旧パブリック・ユニオンの人間達さえ取り込んでしまうことを上げた。
 アンリエッタ以外は憤りと驚愕の表情であった。
「アレス、なんと言ったらいいのか分からんが、無茶にも程があるのと思うのだが」
 ヴァリエール公爵が最初に口を開いた。
「第一、そんな事許されるとでも思っているのか?」
「許されようとは思っていません」
「何だと?」
 俺の言葉に眉をひそめる。
 だが、俺は構わず続けた。
「これはあくまで生き残りを掛けた術です。
 考えても見て下さい。
 トリスティンは始祖ブリミルが与えた四つの国で唯一小国と呼ばれる国になっています。正直に言えば、他の三つの国が本気になって潰しに掛かればどれだ持ちこたえられるか分かりません。
 ならば生き残る術を探す方が先決です。
 伝統を重んじつつ、新たものを取り入れられるならそれも由です。
 ですが、それを今から始めて領土を広げるのは至難の業でしょう。
 奪われた土地を奪い返すその労力がどれ程困難か、ヴァリエール公爵ならお分かりなるはず。
 ならば、新たな国家を築いてしまい新たな歴史を作り上げるのもいいと思うのです」
「だが、それでは我々トリスティンの誇りはどうなるのだ?」
 ヴァリエール公爵はそういい俺をやや睨み付けるように言う。
 もの凄いプレッシャーだ。
 幾多の修羅場を潜り抜けた将の睨みはさすがの俺も腹の底から震える感じがする。
 だからと言って引くわけにも行かない。
「誇りは継承すれば良いのです。
 平民との新たな国作りに関しては納得して頂いたと思います。
 それが少し範囲が広くなるだけだとお考え下さい」
「ううむ……。確かに平民と貴族の歩み寄りに関して私も由と思った。
 だが、他の国となると……」
「わたしは新たな国家に関しては良いと考えていますわ」
「アンリエッタ姫!」
「この話は昨日、アレスから提案があったのは承知済みです。
 わたしは、アレスの考える新たな国家の構想に乗ろうと思います」
 この発言に、その場にいる全員が驚愕をする。
 そうだ。
 アンリエッタはこれから女王になることが運命づけられている。
 国家でもっとも権威のある女王になるアンリエッタがこの案に乗ろうと言うのだ。
 驚愕しない方がおかしい。
「アンリエッタ。その考えは本気ですか?」
「はい、お母様。わたしはアレスの考えに乗ろうと考えています。
 アレスには何度となく助けられています。
 この案も、アルビオン、レコンキスタとの戦争を避けるために考えてくれたことですわ。
 そして、このわたしのためをも思って」
 そういうとアンリエッタは少し熱の篭もった目で俺を見る。
「この場にいる者達にだけ告げます。
 わたしはアルビオンの皇太子ウェールズ様と恋仲にあります」
「な!」
 全員が驚きの声を上げる。
 俺はすでに既知のことのために静観しているが。
「そして、その相談をアレスは真摯に受け止めて、適切なアドバイスをしてくれました。
 わたしが一国の姫であるという立場なのにも関わらず、どうしたらわたしとウェールズ様が自然にお会いすることが出来るか、どうしたら国民に迷惑を掛けずにわたしとウェールズ様を引き合わせることが出来るか?
 それを考えてくれました。
 そして、今回の案も国民、トリスティン、わたしのいずれも一番いい方へ行くように考えてくれたのです」
 やや誇張されているところもあるが、大筋はアンリエッタが言ったことは事実だった。
 しかし、アンリエッタも思い切ったことをする。
 これは正直、批判されてもおかしくない。
 また、姫という立場を弁えなければならないのにそれを放棄したと見なされてもおかしくないことだ。
「アンリエッタ姫は確かに王族の身です」
 今度は俺がフォローする番だ。
 皆がアンリエッタから俺に対して視線が移る。
 全員が厳しいまなざしだ。
「だからと言って全てが雁字搦めになっていいものでしょうか?
 それに、私は出来るだけトリスティンのこともアルビオンのことも考えてこの案を提示しました。
 戦争するなら簡単です。
 多くの血を流すだけですから。
 この案は、血を流さない革命です。
 上手く行くかは神のみぞ知ると言ったところでしょう。
 しかし、トリスティンの民を戦乱によって不幸にするよりかはいいのではないかと考えています。
 そして、その道を通るならアンリエッタ姫も王族としての責務を果たせると考えました」
「変わらなければならないのかも知れませんわね」
 マリアンヌ皇后陛下がつぶやいた。
「皇后陛下!」 
 マザリーニ枢機卿が驚きの声を上げた。
 否、この場にいる全員が驚きを隠せないでいる。
「国とは何のためにあるのか? 若い頃に考えたことがあります。
 アンリエッタもそういう思いを持っていてもおかしくありません。
 そして、国を治めるのに王族だけでは力が足りないのも分かっているのです。
 多くの貴族の力を得て、国がようやく治まります。
 ですが、その貴族をまとめるのは決して簡単ではありません」
 そういうとマリアンヌ皇后陛下は俺を見る。
「アレス程の若者がこのトリスティンにいるのなら未来は決して悪いものではないと思います。
 このトリスティンをアンリエッタと共に導いてもらいたいと私は思いますわ」
 女神のほほえみと言えばいいのだろうか?
 とても穏やかで包容力のある笑みを俺に向けてきた。
 なんと言えばいいのか。
 俺も結構勢い任せで言っていたところもある。
 まさかこうまで話が発展するとは。
「皇后陛下がそう言われるのであれば私はもう何も言いますまい」
 マザリーニ枢機卿がこれまた穏やかな笑みを浮かべながら言う。
 マリアンヌ皇后陛下が決して政治に口を挟まなかったが、未来を託すことへの期待からかマザリーニ枢機卿も由とするらしい。
 ヴァリエール公爵と父さんは、少し微妙ではあるが二人が言うならと乗ってくれた。
 だが、次の発言に俺は度肝抜かされることになる。
「こうなると、アレスには一度王になってもらう必要があるかも知れぬな」
 そう言ったのはヴァリエール公爵だった。
「待って下さい。それと私が王になるのは全く関係がないと思います。
 それに、私が王になるならルイズは……」
 そこまで言って俺は気がついた。
 これから起こることはハルケギニア全土に渡ることになる。
 そうなると、俺の立場があやふやのままでは駄目なのだ。
 王になると言うことは国の最高権限を得ることに等しい。
 俺がやろうとしていることを本当に成し遂げようと言うならアドバイザー的存在ではなく確固たる権限を持ったものになれと言うのだろう。
 それならアンリエッタ付きの文官と言うのもある。
 だが、あれば常にその証を持っていなければならない。
 それなら王という立場になるのが一番いいのだろう。
「ルイズとの婚約を解くことはない。これはルイズが嫌がるだろうからな。
 アレス、父親としては妬くがルイズは本当にお前のことを想っているぞ。
 ただ国には強い象徴がいないとならない。
 アレス、お前は若いが頭がいい。そして、人を導けるだろう。
 だからアルビオンとレコン・キスタの同盟に相乗りすると言う案を王という責任ある立場で成し遂げよ」
 そういうと、ヴァリエール公爵は父さんを見る。
 父さんは難しい顔をしているが、ヴァリエール公爵が言っていることも分かるらしい。頷いてヴァリエール公爵に答える。
「マザリーニ枢機卿、マリアンヌ皇后陛下、いかがですか?」
 次に二人へ同意を求める。
 俺が王になると言うことは二人に大きく関わるのだ。
 そして、アンリエッタと一時的には結婚することになる。
「私は構いませんぬぞ。なかなか面白い案ですな」
「私も異議ありません」
 二人もあっさりと承諾する。
 一体、どうなっているんだ?
 そして、ヴァリエール公爵は最後にアンリエッタを見る。
「姫、ルイズの事がある故、真の夫にはさせるわけには行きませんがウェールズ皇太子との一件を実らせるのに乗ってくれはしないでしょうか?」
 ヴァリエール公爵の問いにやや驚きを表す。
 しかし、すぐに平静を取り戻した。
「わたしも構いません。
 アレスであるならウェールズ様以外で唯一許せる殿方です。
 ですが、その……」
 そう言いながらアンリエッタは少し赤い顔で俺を見る。
 ちょっと展開が俺の予想の斜め上を行っているのだが……。
「アレスは? アレスはどうなのですか?」
 そこで俺の意志を訪ねるか……。
 どうしたものか……。
 俺はここまで考えていなかった。
 だが、もう引くわけにも行かない。
「私は正直、ルイズの事で後ろめたさを感じます。
 ですから、一つ条件を加えさせて頂きます。
 ルイズを私とアンリエッタ姫の女官としてルイズの意志で常に行動を共に出来るように権限を与えさせて下さい。
 ルイズの秘薬の研究もアカデミーで出来るように配慮すればこちらにいながら研究も出来るでしょう。
 その条件で私は引き受けます」
 ヴァリエール公爵はやや驚いた表情をしながらも、俺の提案に頷く。
 全く、今日は俺がきっかけとは言え皆が驚いてばかりだな。
 静観しているノルンも、さすがに驚いている。
「アレス、いいのですね?」
「ええ。私めで良ければ」
 アンリエッタの問いかけに、俺はそう言ってお辞儀をするのだった。
 こうして、突拍子もなく俺はトリスティンの国王への道を進むことになる。
 全てはトリスティン、アルビオンを始めハルケギニアの国々が共に平和の道を歩むため。
 そして何よりも俺とルイズが幸せに暮らせるためである。
 だが、ここから先の道は俺の予想を遙かに超える苦難の道となるのだった。