死の先に待っていた新たな世界
第27話


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 夜、俺は最近出来ていなかったサイトの帰還方法を研究していた。
 以前、ワームホール的な発想で出来るのではないかと思考をしてそれっきりである。
 エレオノールにも依頼はしているが、そんなに早く進展が有るはずは無い。
 この研究は時間が掛かるのは必至だ。
 数年のうちに出来ればいいんだが。
 そうやって机の上で、自分でまとめた資料を見ながら思考を巡らせていると、ノルンが声をかけて来た。
「マスター、お客さんみたいよ」
「ロングビルか?」
 資料を机の中に仕舞う。
 見られても特別、問題はないだろうが、念のためだ。
 ロングビルはあれから俺の部屋に来てはライト・ブラスターについて学んでいる。
 コモンスペルだから比較的簡単に使えるのだが、特性も知りたいそうだ。
「アレスさん、ロングビルです」
 部屋がノックされ、外からロングビルが名乗る。
「どうぞ、入って下さい」
 部屋の戸が開けられて、ロングビルは入って来た。
 いつもは髪の毛をまとめているのだが、今日は下ろしている。
「髪の毛を下ろすと、雰囲気が違いますね?」
「そうですか? 仕事するのには邪魔になるので結わいていたのですけどね」
「その髪型も似合いますよ」
 ロングビルは少し驚いた表情をすると、微笑んだ。
 俺は備え付けの椅子を用意して、そこに座るように勧めた。
「失礼しますわ」
 備え付けの椅子に座る、ロングビル。
 それから、いつものように講義を始めるのだった。
 一通り、講義も終わり俺は紅茶を淹れる。
 実家から送られてくる紅茶で、香りがいいのだ。
 ロングビルにカップを渡すと、お礼を言われる。
「今回の講義で教えられることは終わりです。
 ミス・ロングビルなら、もう十分理解していますし、コモンスペルなので応用も簡単ですから」
「もう終わりですの? 結構、楽しみに来てたんですよ?」
 少し、寂しそうな表情で言うロングビル。
 まあ、そう思ってもらえるだけでこちらとしては嬉しい。
 基本的に、教えるのは好きなほうだからな。
「まあ、お茶くらいなら今後もお誘いしましょうか?」
 こんな誘いをしたらルイズに怒られるかもな。
 まあ、お茶くらい多めに見てもらおう。
「それは嬉しいお誘いですわね」
 嬉しそうに言い、ロングビルは紅茶を一口飲む。
 カップをテーブルに置くと、こんなことを聞いてきた。
「ヴァルガードさんは、大切な人が豊かに暮らすために一人働くのと、貧しくても一緒に住むのはどちらを選びます?」
 真剣な目である。
 何か事情があるのだろう。
「そうですね。僕なら、貧しくても一緒に暮らしたいと思います」
「どうしてです?」
「お金を送る側はいいでしょう。
 大切の人のために頑張っていると言う自負がありますから。
 でも、送られる側はそうじゃない。
 今はどこで仕事をしているのか? 危険な目に遭ってないか? 体は健康なのか?
 心配で仕方ないと思います」
 残される者達は、心配するものだ。
 現代日本では、単身赴任が多いから慣れもあるだろうが、基本は居て欲しいもの。
 居て欲しいと思わないのは、大切にされていない場合だ。
 そして、ロングビルがこんな事を言うのはきっと、そういったことがあるに違いない。
「そうですか……」
 一言、ロングビルが言うと紅茶を再度手にとって飲む。
 気分を落ち着かせようとするように感じた。
「僕の経験ですが」
「え?」
「これは僕の経験なんですが、離れているところで何かあると家族と言うのは心配します」
 俺は自分の左手を見た。
 アルビオンでの調査で失った左手。
 俺はあの時、明らかに死に掛けた。
 事実、数ヶ月意識はあるのに目を開けることさえ出来ないほど体が疲弊していたのだ。
 今ここに居るのさえ、不思議なのである。
「その左手なのですか? 心配を掛けさせたのは?」
 俺が左手を見ているからか、ロングビルが尋ねてくる。
 その顔はやや神妙な面持ちだ。
「これもそうですね。
 旅先の事故で左手を失って、意識も数ヶ月戻らなかったことがあるんです。
 それはもう皆に心配かけさせました。
 実家に運ばれたのも運が良かったくらいですからね」
「そうだったんですか……。
 ありがとうございます。参考になりましたわ」
「僕の話なんかで良ければ」
「謙遜ですわよ」
 微笑むロングビル。
 その笑顔の奥で何かを迷っているように俺は見えたのだった。
 その後、たわいも無い会話をすると、時間も遅くなりロングビルは部屋を後にした。
 紅茶のカップを片付けるていると、窓のガラスが叩かれる音が部屋に響く。
 ノルンが俺の肩から離れて、窓へ行く。
「マスター、あの鷲さんよ」
 窓の鍵を開けながら、ノルンはその鷲を中に入れた。
 以前、俺のところにマザリーニ枢機卿からの伝言を届けてくれた鷲である。
「王宮からの遣いか。また何かあったのか?」
 俺はその鷲に近づくと、足から手紙を抜き取る。
 その手紙を広げると、内容を読んだ。
 さりて長くないのだが、何度か読み返してしまう。
 その内容を理解すると、思わず呟いてしまった。
「本気か?」
「なんて書いてあるの?」
 鷲を撫でながら聞いてくる。
 鷲は鷲でなかなか気持ちよさそうだ。
「アンリエッタ女王の誕生になるかも知れない」
「え?」
「アンリエッタが王位を継ぐそうだ」
「へー 凄いじゃない!」
 確かに凄い。
 アンリエッタはルイズの一つ上でまだ十七歳。
 それで王位を継ぐのは相当な覚悟が必要だ。
 手紙に書かれているのは、それだけじゃない。
「で、俺に相談したいそうだ。それで明後日、王宮に出向くことになった」
「そうなの? マスターってすっかりトリスティンの重鎮じゃない」
「少し出しゃばりすぎたのかもな」
 マザリーニ枢機卿からも信頼を得てしまったし、ヴァリエール公爵にも贔屓されてるとなると、いよいよ重鎮扱いだな。
 少し国のことに首を突っ込みすぎたかもしれない。
 俺の人生も余程波乱が好きなようだ。
「とりえあず、返信をしないとな」
 洋紙を一枚取り出すと、俺はそれに返信を書き始める。
 こういう時、電子メールとかあるととても便利なんだが……。
 魔法で何とか出来ないものか。
 俺はそんなことを考えながら、書く。
 何てこと無い、お祝いのメッセージと出向くことへの了承のことを書いただけだ。
 大人しくしている鷲の足に括りつける。
 それから自分の腕に鷲を乗せると、窓の外へと送り出した。
「頼んだぞ」
 大きい翼を広げる鷲は、一度旋回するとトリスタニアへと飛んでいくのだった。
 翌日、授業が終わった後、俺はルイズを連れて中庭に来ていた。
 王都へ行くことになっていることを伝えるためである。
 アンリエッタが女王になるらしいこと、それで俺が相談になることを伝えた。
 ずっと黙って俺の話を聞いていたルイズは、小さいため息を付いて言う。
「アレス……。わたしに隠し事はしないで。
 どうして、姫様がアレスをそこまで頼りにするの?
 わたしだって、アレスが頼りになるのは知ってるわ。とても頼もしいもの……。
 この前の戦争だって、アレスの功績でしょ?
 でも、どうして内政にまでアレスが必要とされるの?
 ねえ、アレスはわたしに何を隠してるの?」
 不安そうな眼差しで問いて来た。
 俺の手も強く握っている。まるでどこにも行かないでと言われているようだ。
 日が暖かく、またとても気持ちのいい風が吹き抜けるが、俺の心は揺れていた。
 言うべきか、言わぬべきか?
 正直に言えば、卒業するまで言いたくない。
 とは言え、俺がいろんな事に首を突っ込んだのがいけないのだ。
 もう、隠せ通せるとは思わなかった。
「言えるまでって言ってたけど、もう待てない。
 これ以上、わたしの知らないところにアレスが行くのは嫌!
 だから、せめてわたしに教えて……。
 わたし、アレスの支えにはなりたいの」
 真剣な訴えに、俺は一度目を閉じる。
 卒業までと思っていた。
 それまでは言わずに通して、俺の代わりが現れれば託せるとも勝手に思っていた。
 だけど、それ以上ルイズが俺を思う気持ちが強い。
「分かったよ、ルイズ。
 僕が隠していることを全て話すよ」
 これ以上、ルイズに何も言わないのはルイズに対する裏切りに等しい。
 決意を固めるしかない。
「ここだと話せないから、僕の部屋へ」
「うん」
 俺は立ち上がると、ルイズに手を差し伸べる。
 ルイズがその手を取ると、俺は軽く引き上げた。
 これからはルイズとちゃんと道を歩まなければならないな。
 俺達は、途中でサイトにも声を掛けた。
 これから話す内容は、俺自身は当然のことルイズにも関わる。
 知れば、ルイズにも危険が及ぶ以上、サイトにも聞いておいて貰いたいのだ。
 サイト、ルイズに備え付けの椅子を勧める。
 自分は机の椅子に座った。
「さて、二人に話さないとならない事だけど」
「あ、アレス。話し方なんだけど、ノルンに話しているようにしてもらえない?
 知ってるんだからね?
 アレスはノルンにだけ自分を曝け出してるって。
 だからお願い。今のままだと、アレスに他人扱いされてるみたいで……」
 話し方すら、ルイズに疎遠な感じを受けさせていたようだ。
 ダメだな。
 こんなんじゃ、守ろうと思っていても返って守れてない。
「分かった。これからは素の俺を出させてもらう。サイトもいいか?」
「俺は全然構わないぜ」
「俺もだ」
 サイトと背中に担いでいるデルフリンガーが答えた。
 ポーカーフェイスを決めているが、デルフリンガーが突然声を上げると少々驚いてしまう。人数に入れていなかっただけに余計だ。
「それじゃ、これから俺はこの話し方だ。
 少し戸惑うかも知れんが、まあ気にしないでくれ」
 二人とも頷く。
「で、だ。俺のことなんだが」
 俺は話し始めた。
 俺がトリスティン王国で非魔法研究開発機関の長になること、またアンリエッタの文官付き参謀になっていることを。
 どちらの話も、二人とも驚いていた。
 特にルイズの方は、俺が国に深く関わってきていることへ不安を隠しきれないと言う表情だ。
 話の途中で何度も、「どうして、アレスがそこまでするの!」としきりに言っていたのだから。
 サイトも少なからず衝撃を覚えていたらしい。
 見た目は同い年くらいだから、尚更のことだろう。
 そこは俺が前世の記憶を持っていることで納得したようだったが。
 一通り、話し終えると俺がどうしてここまで関わってしまったのかを話すことにする。
「それじゃあ、俺が何故こうまで首を突っ込んでいるかを話そう」
 俺の言葉にルイズの視線が厳しくなる。
 睨み付けるとまでは行かないが、やはり納得の行く答えを出さないと承知しないと言う雰囲気だ。
「まず非魔法研究開発機関の長を引き受けた理由だが、これは俺にしか恐らく出来ないことだからだ」
「どうして?」
 間髪いれずにルイズが尋ねる。
 俺は苦笑しつつ、話し終えるまで待って欲しいと言う。
「俺にしか出来ない理由は、俺が元々異世界の人間だからと言うのがある。
 異世界の人間だから、この世界の価値観と違う価値観を持っているんだ。
 そして、それが全てでないにしても、ある程度この世界にも必要な価値観が俺たちの世界にはある。
 その価値観を非魔法と言う形で広めるとするなら俺になるんだ。
 まあ、これはヴァリエール公爵や父さん、アンリエッタがそうしたいと言う申し出があったからこそなんだけどな」
「そうなの……。
 でも、魔法に頼らないとなると貴族から目の敵にされるわ。
 そこまで危険じゃないとは思うけど……それでもアレスがしなくても」
「誰かがやらないとならないからさ。
 それが出来るのが俺だったと言うだけ」
「じゃあ、姫様の文官付き参謀は?」
「あれについては、少々難問でな。
 今は大人しいとは言えレコン・キスタは必ず聖地奪還に再び動き出すと思う。
 そうなるとこれはアルビオンとトリスティンだけの問題じゃない。
 ハルケギニア全土の問題になる。それはエルフも含めて」
「エルフと人間の戦争?」
 ルイズが嫌そうな顔をしながら尋ねた。
 エルフは人にとって忌み嫌われる存在。
 エルフ一人に対してメイジが何人も必要となる強大な存在だ。
 だからこそ、この両者の戦争は被害が甚大になる。
「その通り。そして仮に聖地を奪還すれば今度はその覇権争いだ。
 結局戦争が尽きない上、多くの人の命が失われる。
 それだけは避けなければならないと俺は考えているんだ。
 だから、レコン・キスタの抑えるためにも俺が文官付き参謀になった。
 トリスティン全土で、俺の権限はアンリエッタと同等。
 また戦争になったら俺の意見が通りやすくなる。
 国内のレコン・キスタを探し出し、尚且つ戦争になるなら抑えられるだけの戦略を立てて臨む必要があるんだ。
 これは結局、ハルケギニアのバランスを保つのに必要になる」
 そこまで言うと、俺は言葉を切った。
 ルイズは納得行っていないと言う様子だが、理は適っているため反対仕切れないと言う感じだ。
 サイトはちょっと難しかったのか、首を捻っていた。
 疑問も大いにありそうだ。
「なあ、アレス。
 ちょっと、分からないんだけどさ。
 そのエルフってのと仲良くは出来ないのか?」
 普通、エルフと人間の事情を知らなければ疑問に思うことだ。
 その答えには俺ではなく、ルイズが答えた。
「サイト、エルフはわたし達の聖地を奪ったの。
 エルフはわたし達が聖地を奪い返そうとするのを良しとしないわ。
 もう何度も人間とエルフはにらみ合っているんだから」
「いや、それは分かるんだけどさ。
 殺し合うしか道はないのか? 分かり合えば何とかなるんじゃないのか?」
 サイトの疑問ももっともだが、今この話をするべき時じゃない。
「サイト。エルフに関しては今度俺が話す。ルイズも話を進めていいか?」
「分かった」
「ええ」
 二人を一先ず抑えると、俺は話すの続きをする。
「今、サイトが言ったエルフの事もあるんだが、それは置いておこう。
 結局、世界のバランスを保つことは必要だから今まで通りに、アルビオンがあってトリスティン、ゲルマニア、ガリア、その他周辺諸国が保ったままがいい。
 友好の上からの国の統廃合、その逆の戦争までは止めるつもりはないけどな。
 聖地となると色々と厄介だ。
 実際に聖地を目指すなら、エルフとの友好もあった方がいい」
「アレス! 聖地は!」
「ルイズ、歴史って言うのは都合よく改ざんされるものなんだ。
 これは俺たちの世界でも行われたんだよ。
 真実を覆い隠して、権力者にとって都合の良い様に歴史を作りかえる。
 だから、エルフと何があったのか? それを正しく知る必要はあるんだ。
 エルフとの友好はそうした双方の歴史的事実の確認、また誤解を解くことから始めないとならない。
 向こうは進んで俺たちを滅ぼそうとはしないくらいだしな」
 そこまで言うと、ルイズは黙ってしまった。
 納得はしていないだろうが、反論は出来ないようだ。
「ともかく、結局は俺たちが平和に暮らすためなんだ。
 引き受けたのそのためだ。
 誰だって自分達の平和、幸せを願うのは当たり前で、それを少し広範囲でやるに過ぎない」
 ここまで言って俺は改めて思った。
 何気に俺自身が、とんでも無いことに首を突っ込んでいるという事を。
 俺の振る舞い一つで下手すれば世界も変えかねない。
 もしかしたら俺が生れ落ちた時点で世界が変わって行っているのかも知れないが。
「わたし達のためなの?」
「そうさ。俺達のためなんだ。
 で、ここからはルイズに頼みたいことがある」
「何?」
「君は俺を支えたいと言ってくれた。
 こんな大事を背負った俺だが、改めて支えてくれるか?」
「もちろんよ。どうしてアレスが?って思いは消えないけど、アレスを支えたい気持ちは変わらないもの」
 ルイズは真っ直ぐな目で俺を見ていた。
 その目には明らかに覚悟があった。
 俺を支えて行きたいと言う覚悟が。
「あー、俺ってもしかしてお邪魔?」
「ちげぇねー」
「ホント、あたし達蚊帳の外ね」
 俺とルイズが見詰め合っていると、横から野次を入れられてしまった。
「あ、すまん。そんなつもりは無かったんだ」
「そ、そうよ。それにこれってみんなにも関係が……」
 ルイズの発言をさえぎるようにサイトが言う。
「あるにはあるけど、最後のは、な?」
「なあ」
「ええ」
 サイト、デルフリンガー、ノルンはそう言ってニヤけた顔(デルフリンガーは除くが)を俺達に向けるのだった。
 説明を終えて、ルイズ、サイトが自室の方へと戻った。
 俺はベッドに横たわると大きく息を吐く。
「どうしたの?」
 ノルンが、俺の胸の上に乗って来た。
 大して重くはない。
 俺が呼吸をするたびに、ノルンも一緒に上下している。
「ああ。ルイズの事がね。
 支えてもらうとは言え、良かったのだろうかと思ってな」
「今更じゃない。
 マスターはルイズが嫌いなの?」
「好きさ」
 大切にしたいと思う。
 その反面、俺以外の奴なら危険が少なくて良いと思うのもあった。
「その割には、支えてもらえるのに嬉しくないわね」
「俺は我がままなんだ。
 俺は俺のするべき事をする。
 だけど、ルイズには安全で安心した暮らしをしてもらいたいってね」
「我がまま、ね。
 もしかしたら、あたしのせい?
 あたしって言う存在がマスターの支えになってるから、だからルイズには安全な場所にいて欲しいとか?
 これがさ、あたしがいなかったら、このポジションはやっぱりルイズだったんじゃないかしら?」
 ノルンのポジションか。
 気兼ねなく話せて、パートナーとしても安心できる。
 甘えられる姉のような、そんな雰囲気がある。
 ルイズにそれを求められるか?
 年下の女の子。
 俺がずっと見てきた女の子。
 そのルイズが、ノルンと同じポジションに。
「そうなのかも知れないな……。
 ノルンはパートナーとしては申し分ない。
 もし、ノルンが人間の女の子なら、好きになっているかも知れない。
 ルイズはどちらかと言うと妹や、娘と言った感情が近いが、ノルンは対等に思える」
「そうなの?」
「ああ。知ってるだろ? 俺はこれでも五十近い。
 二十四で子供がいれば、ルイズくらいの娘がいてもおかしくないんだ。
 まあ、俺自身子供を十年ちょっとやり直したわけだがな」
「あ、そうじゃなくて……。
 その、あたしを好きになったかもってとこ」
「え?」
 ノルンの質問に、俺は驚いた。
 ルイズの話のはずが、俺がノルンを好きになっていたかもと言うことにシフトしている。
「マスター、あたしみたいなのがいいの?」
「そうだな、ノルンは活発だし、何かと意見を言ってくれる。
 それでいていい相談相手だしな。
 ノルンのようなパートナーだったら申し分ない。
 というか、どうしてその話に?」
「あたしね、フェアリーの中だと結構おてんばで、貰い手っていないの。
 だから、その……、マスターが好きになっていたかもって言ってくれて嬉しいんだ」
 ノルンが顔を赤らめながら言う。
 その表情を見て、俺は思わずドキリとした。
 恥らい、萎れた姿がとても可愛い。
 いつも活発なだけに、こういう態度が余計に可愛く思えてしまう。
 ルイズとはまた違った感じだ。
「マスター?」
「あ、すまん。いや、ノルンも可愛いなと思ってな」
「マスター……。やっぱりマスターは女っ垂らし。
 ルイズに、アンリエッタ。
 それにあたしまで、その気にさせるの?」
「あはははは……」
 反論出来ない。
 無意識にこうも多数の女性を向かせてしまうと、少々まずいよな。
「マスター、あたしなら浮気は許してあげるけど、大切にしてね?」
 恥じらいがちな態度で、言うノルン。
 俺は何かいけないスイッチを入れてしまった。
「ちょ、ちょっと話が飛躍しすぎだぞ?」
「ダーメ! マスターが好きになっていたかもなんて言うからいけないんだからね!」
 どもった声での反論はどうやら意味をなさないらしい。
 ノルンは何故か、俺の顔まで来ると、俺の大きすぎる唇に小さい唇を合わせるのであった。
「マスター、死ぬまで一緒だからね?」
 幸せそうに言うノルンに、俺は頷くことしか出来なかった。
 使い魔だから、死ぬまでになるんだが……。
 マスターとして、これはいいのだろうか?
 いや、それ以前に明日からアンリエッタと会うと言うのにこういう展開は……。
「マスター」
 嬉しそうな、それでいて恥らうままのノルン。
 愛おしそうに俺の胸に体を預けてくる。
 この態度に、俺はたじたじだった。
「あ、あははは……」
 俺が出来たのは笑うことだけである。