死の先に待っていた新たな世界
第26話


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 早朝、学院の中庭で金属が鳴り響く音が聞こえていた。
 鉄と鉄がぶつかり合う特有の音である。
 片方は俺が錬成した鉄の剣、もう一つは。
「いいぞ、相棒! そこの踏み込みから斬り込め!」
 先日購入したデルフリンガーだ。
 サイトはデルフリンガーの指示を受けて一気に俺の斬り込んでくる。
「てりゃあああ!」
 サイドステップからの突進。
 ガンダールヴの能力を引き出したサイトの動きは素早い。
 訓練していなければその動きについて行くのは難しかったと思う。
 再び鳴り響く金属音。
「ふう、いい感じになったんじゃないかな。サイト君」
「一撃も入れてないのに褒められてもな」
 俺が剣を払うと、サイトは後ろに飛んで構えた。
 額には汗が浮かび上がっている。
「次が最後だね」
「ああ」
 そういうと互いに剣を向ける。
 そろそろ朝食の時間だ。
 これ以上の戦いは食事に響いてしまう。
 俺は中段に剣を構えて、サイトを注視する。
 向こうはガンダールヴのルーンが一際輝きを強めると、地を思い切り蹴って俺に迫る。
 その速度は俺が戦ってきた中では最上級の早さだ。
 サイトが突きの体勢で飛んでくる。
 鋭い突きだ。剣先が俺の喉下に向いているのが分かる。
 サイトに殺すつもりでと言ってある以上、手加減は無しだ。
 サイトの剣先に意識を集中させて、俺は右に回転しながら避ける。
 風が切る音がかすかに俺の耳に届いた。
 俺は回転しながら剣を振る。
「そこまで!」
 審判代わりをしていたノルンの声が中庭に響く。
 俺の剣はサイトの喉下にサイトの剣、デルフリンガーは俺の首筋に当てられていた。
「引き分けだね」
「何か、悔しいな」
 お互い剣を下ろすと、それまでの緊張感が消えた。
 中庭で寝っ転がるサイトと俺。
 ガンダールヴの全力で戦わせてもらったのだ。
 デルフリンガーと言う、伝説の剣が手に入ったわけでもあるし、サイトの力を俺自身が知ってもいいと思って手合わせをしたのだ。
 最初、俺が勝ってしまったのもあり、サイトが俺から一本取るまで続けることになって今、引き分けで終了した。
「お前さん、結構強えな。相棒がまだルーンを使いこなしてねぇが、どこでそんな腕を磨いたんだ?」
 デルフリンガーがしゃべりながら鍔が合わさる特有の金属音を響かせている。
「自己流かな? まあ一応剣道って言うのが基になってるけど」
「剣道か? 全然そんな感じがしねえぞ?」
「だから自己流だってば」
 剣道って言っても高校の授業で習ったっきりだ。
 魔法の使えないメイジがとても無力なのが分かってからは記憶の限りたどりながら必死に自分なりに剣の扱いを覚えた。
 実際には、王都に赴くことが多く、父さんの勧めもあって魔法衛士隊に稽古を付けてもらった時期もある。
「そう言えば、この前、黒い仮面の男とやった時と少し似てたんだけどさ」
「黒い仮面の男……。そう言えば」
 あの男こそ、動きが魔法衛士隊に似ていた。
 まあ、国内にもレコンキスタが入り込んでいるようだし、もしかしたら元魔法衛士隊ってこともあるのかも知れない。
「サイト、アレス! そろそろ朝食の時間よ!」
 ルイズが、中庭にやって来て俺らを呼ぶ。
 確かに時間的には朝食の時間だ。
「マスター、もう行かないと!」
 ノルンに急かされながら、まだ疲れの抜けない体を押して食事へと行くことになった。
 食事を終えて、俺達が教室へ向かっていると、ロングビルが声を掛けてきた。
「丁度、良かったですわ。
 今、ヴァルガードさんを呼びに行こうと思っていたところですの」
「僕をですか?」
「はい、後、ミス・ヴァリエールの使い魔さんも。オールド・オスマンがお呼びです」
「うえ? 俺も?」
 そう言ってサイトが俺の顔を伺う。
 俺は大丈夫だというのを、彼にジェスチャーで伝えた。
 恐らく、俺が戦争に行く前に話していた件だろう。
 破壊の杖を見てもらう。
 見たところで、どうって事はないのだが異世界から来たと言う証拠にはなるはずだ。
「わたしは?」
「ミス・ヴァリエールはそのまま授業に参加してください」
 ルイズはやや不満そうだったが、その言葉に頷いた。
 俺とサイトがオールド・オスマンの部屋に入ると、ロングビルはそのまま下げられた。
 話す内容が内容だけに知られていいものじゃない。
 オールド・オスマンがサイレントの魔法を掛ける。
「来て貰ったのは他でもない。あるものを見てもらいたくての」
「あるもの?」
 サイトが首をかしげながら言う。
 心当たりがないのだから当然だ。
「サイト君、学院長には話をしてあるんだ。味方になってくれる人だから。
 で、見て欲しいのはこの前のゼロ戦のようなものだと思う」
「思う?」
「そう。場違いな工芸品に値するものだと思うから、そうですよね?」
 俺が確認も含めてオールド・オスマンに尋ねると、返事と共に頷いた。
「破壊の杖と言うものじゃ。アレス君から話を聞いていての、もしかしたら君の世界のものかも知れぬから見てもらいたいのじゃ」
「そうなのか?」
 尋ねるサイトに俺は頷いて見せた。
 まあ、恐らく破壊の杖と言うのは異世界のものだろう。
 ゼロ戦の事もある。俺たちの世界の物の可能性がある。
「で、その破壊の杖ってどこにあるですか?」
 サイトがオールド・オスマンに尋ねると、宝物庫に保管してあると言って鍵を取り出した。
 俺達はオールド・オスマンに連れられて宝物庫へと案内される。
 この学院に来て一年と少し経つが俺も宝物庫は初めてだった。
 オールド・オスマンが鍵を使い扉を開ける。
 どうやら鍵と魔法の二重で管理されているらしい。
 扉が開くと、埃っぽい匂いと湿った空気が宝物庫から流れてきた。
「さて、ここから先じゃが、余計なものに手を触れんでくれ。
 使用用途が不明なものが多いために何が起こるのかは分からんのじゃ」
 オールド・オスマンの言葉に俺とサイトは頷くと中へと入る。
 ライトの魔法をオールド・オスマンが使うと、中が一望できた。
 確かに、様々なものがある。
 俺も良く分からないものが多い。
 オールド・オスマンに付いて行き、その破壊の杖と呼ばれる代物を手にとって見せる。
「これって……」
 サイトが俺の方を見て、破壊の杖を指差す。
 俺もそれに頷いて答えた。
「サイト君が思ったとおりのものだよ」
「ロケットランチャーってやつか?」
「やはり、お主はこれが分かるのじゃな?」
「分かるって言うか、知ってると言うのが正しいですかね?」
 サイトが、そう言うとオールド・オスマンは破壊の杖をサイトに渡した。
 破壊の杖を受け取ったサイトの左手が、不意に輝きだす。
 そう言えば武器なら何でも反応するんだったか。
「M72ロケットランチャー……。とんでもない破壊力を持ったもんだ。
 この世界にこれがいくつもあったら戦争なんて簡単だぜ?」
 サイトにロケットランチャーの情報が伝わっているのか、やや興奮しながら言っていた。
 一通り見ると、それをオールド・オスマンに返した。
「君はやはりこの世界の人間ではないのじゃな?」
「俺は違う世界からこっちに呼ばれたんです。もっとも俺も知らないうちにこっちに来てしまったんで何がなんだか分かりませんでしたけど。アレスがいなかったら結構苦労しそうでした」
「なるほど……。この破壊の杖は、わしの命の恩人の形見での。
 これを使ってわしを助けてくれたのじゃ」
「そ、それで、その人は?」
 元の世界に帰る手がかりになると思ったのか、サイトが尋ねる。
 オールド・オスマンは昔を思い出しているのか、俯きながら答えた。
「元の世界に戻りたいと言いながら看護も空しく……」
「そうですか……」
 その答えにサイトも、また落胆をするのだった。
 結局、分かったのはサイトが異世界から来たこと、そして破壊の杖が俺たちの世界の武器だと言うことだけである。
 破壊の杖が何なのか、そしてサイトがそれを知っているのか?
 それだけ分かればここには用が無い。
 破壊の杖を元の場所に戻すと、俺たちは宝物庫を出ることにする。
 宝物庫を出ると、そこにロングビルがいた。
「どうしたのじゃ?」
「いえ、学院長が宝物庫に来ていると伺ったので、ついでに帳簿を付けようと」
「おお、そうじゃったか。
 せっかくじゃから、アレス君、ロングビルの仕事を手伝ってあげてくれんかの?」
 驚いたことに、俺にロングビルの手伝いを言い付けて来た。
 俺は別に構わないとして、どうして学生に言うのだろう。
「構いませんが、授業は?」
「特別に出席扱いじゃ。それに君は頭も切れる。
 ミス・ロングビルのいい助手になるじゃろう」
「しかし、わたしは一人でも……」
 手伝いに関して何か不満でもあるのだろうか?
 少しだけ困ったような顔をしながら俺を見る。
 一人で仕事をしたいということだろうか? まあ、一人の方がしやすい場合もあるからな。
「まあ、学生もこういう仕事を体験させた方がいいじゃろうと思うのでな。
 さて、サイト君はミス・ヴァリエールの元に戻りなさい」
「え? あ、はい。それじゃ、アレス。
 俺は先に戻ってるよ」
「分かったよ。ルイズにちょっと遅くなるって言っておいてくれるかな?」
「ああ」
 そう返事をすると、サイトはオールド・オスマンと共に宝物庫を後にした。
 残された俺と、ロングビルは宝物庫の帳簿を付ける仕事を始める。
 
 引き受けたのはいいのだが、こうも面倒な仕事とは……。
 いちいち物を確認して、リストをチェック。
 あるもののチェックだけだから、これほど面倒な仕事はない。
 まあ、手伝いを申し付けられるだけの仕事ではあるとは思ったが。
 俺が帳簿のチェックをしていると、ロングビルが破壊の杖を持って何やら見ていた。
「どうしたんですか?」
「あ、いえ、破壊の杖と言う割には杖の形をしていないなと思いまして。
 こんなものどう使うのでしょうね?」
 ロングビルはそう言いながら破壊の杖を元の場所に戻す。
「まあ、場違いな工芸品ですし。僕達では使用不可能らしいですよ?
 学院長が言うには、これを使えるものはもういないそうですし」
「と言うことは、これは使えるのですか?」
「そう言うことになりますが、使わないに越したことありませんよ。
 場違いな工芸品が、どういう経緯でこちらに来るか知りませんが、本来なら不要なものばかりですから」
 使える人間がいたらいたで、また大変だろう。
 もっとも量産はここでは不可能だが。
 エレオノールに聞いた話だが、ほとんどが何のために使うか分からないと言っていたし、それならあってもどうしようもないものばかりだと思う。
 第一、俺もこんなものがあっても困る。
 そもそも一般人だった俺だって、こんなものの使用方法は分からない。
 サイトのようにガンダールヴの力があれば別だが……。
 ガンダールヴ?
 武器を使いこなす能力。
 ゼロ戦さえ、サイトになら使用方法が分かった。
 それはガンダールヴだからだ。
 場違いの工芸品とは。
「まさか……」
「どうしたのですか?」
「あ、いえ、何でもありません」
 まさかとは思う。
 場違いの工芸品とは、もしかしたらガンダールヴのための武器なのでは?
 だから、こんな危険極まりないものばかり、場違いの工芸品なのではないか?
 使用用途が不明。
 それが全て武器なら、サイトのようなガンダールヴになるものにとってまさに鬼に金棒だ。
 ゼロ戦だって、サイトが乗ればエースパイロット顔負けの操縦をするに違いない。
 そんな考えが頭に浮ぶが、今は仕事の方をするのが先決だった。
「ヴァルガードさんは、アルビオンでレコン・キスタと戦われたそうですね」
 仕事も終盤に差し掛かったとき、ロングビルのそう訪ねられた。
「はい。そうですけど」
「ヴァルガードさんは、貴族をどう思いますか?」
「ミス・ロングビル?」
「私は、貴族がとても身勝手なものに感じてなりません。
 自分の思い通りにならなければ、すぐに杖を振るう。
 そんなのおかしいと思いませんか?」
 とても、真剣な目で俺を見てきた。
 驚いたものだ。まさか、こんな話を持ちかけられるとは思わなかった。
「僕も、そう思います」
「そうですか。ならレコン・キスタが目指すものをどう思いますか?」
「ミス・ロングビル。一体、どういうことでしょうか?」
 そうだ。
 なんで、こんな話をするんだ?
 そもそもレコン・キスタをどう思うなんて聞いてどうするのだろうか?
「私は、同じ貴族に家族を奪われました。それが憎いのです!
 レコン・キスタは共和制を敷こうと言っていました。それなら貴族同士が助け合って争いごとなんて不要になると思うんです。
 それをあなたは阻止しました。なぜです?」
 落ち貴族か。貴族によって、たぶん王族に滅ぼされたんだろう。
 でも、貴族を嫌うなら俺にこんな話をして何になるのだろうか?
 とは言え、答えないわけにも行かない。
 しかも、向こうは真剣だ。
「共和制自体は、僕も賛成です。
 しかし、聖地奪還となれば話は別ですよ?
 これはハルケギニア全体のことになりますし、場合によっては奪還後の覇権にさえ関わります。それこそハルケギニアを統一でもしない限りは。
 また、聖地奪還になればエルフとの衝突も避けられません。
 エルフと戦うメリットは聖地奪還を掲げてもあるとは到底思えないんです」
「どうしてですか?」
「エルフにはエルフの生活があります。
 過去、何度も聖地奪還を掲げて戦争をしていますが、彼らを退けた記録は皆無に近いです。
 また、彼らの生活を奪ってまで聖地を奪還する価値があるとは思えません。
 それなら、彼らと交流をして双方が理解しあう方がより建設的だと僕は考えます。
 エルフが僕達を嫌う理由、エルフを僕らが恐れる理由。
 話が通じないなら分かりますが、ともに言葉は通じると聞きます。
 ならば、共に話し合いを持って人とエルフの壁を取り払い、交流が出来る様になる方が、奪還するよりも確実に聖地に近づけると思いませんか?」
 そこまで話すと、ロングビルは驚いた顔をしていた。
「エルフを恐れないんですか?」
 普通はエルフを恐れるだろう。
 それはエルフに対する教育がそうさせているからだ。
 俺はそんなもの信じないし、種族なんて関係ないと思う。
「言葉の通じる相手を何故、恐れるんですか?
 彼らとは長年戦争をしてきています。僕も歴史をかじっているから知っていますが、彼らから一方的な侵略の記録はありません。
 それに戦争や争いごとで、一番問題になるのは分かり合おうとしないことです。
 双方が分かり合えばそれが一番平和的な解決だと思いますよ」 
 第一、俺の世界でも神話などで出てくるが、彼らは高度な知能を持っているんだ。
 俺らを下に見ることがあっても、悪戯に俺たちに対して危害を加えるとは思えない。
 話を聞くに値すると思えば、話が出来ると考える方が妥当だ。
「面白い人ですね」
「僕が、ですか?」
「ええ。まさか、エルフと交流を持てばいいなんて……。
 あなたのような人が多ければどれ程の不幸が防げたものか」
 どういうわけか、とても悲しそうな顔をしていた。
 以前、守りたいものが守れなかったと彼女は言っていた。
 それと関係があるのだろう。
「ミス・ロングビル?」
「すみません。とりあえず仕事を済ましてしまいましょう」
 そういうとロングビルは、何事も無かったように仕事をするのだった。
 仕事が終り、二人で宝物庫の中から出る。
「手伝ってくれてありがとうございました」
「あ、いえ、学院長の命ですし」
 おかげでいろいろと深い話も出来た。
「そうですか。あ、以前話していた魔法の件ですが」
「あ、そうでしたね。どうします?
 何なら今夜からでも構いませんが?」
「お願いできますか?」
「僕で良ければ。夜にでも尋ねてきてください。
 守るための力でしたら、僕も喜んでお教えしますから」
「わかりました。よろしくお願いします」
 そういうと、ロングビルは学院長室へと戻っていった。
 俺は、もう時間が遅いためにそのまま寮に戻ることにする。
 いや、その前にルイズのところに行かないと心配しているだろうな。
 そう思い、俺はルイズの部屋へと向かうのだった。