死の先に待っていた新たな世界
第23話


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 今の状況と言うのは、決して望んでいたわけではない。
 どうしてこうなったのか?
 悲しいことに俺にはその記憶と言うものが途中から欠片にも無かった。
 覚えているのは、学院に戻って来た祝いにと、ギーシュがパーティーを開いてくれたこと。久しぶりにみんなと、楽しく会話をして、調子に乗ってワインを飲んで、料理を食べてとしていたことだ。
 だが、どうしてこうなったのか?
「う、ん……」
 俺の横にいる女性が寝返りをうった。
 上掛けがずれて、服を着ていない女性の体が見える。
 下着は付けているとは言え、煩悩が爆発したっておかしくない状態だ。
 俺は頭を抱えて言う。
「どうして、俺の部屋にキュルケがいるんだよ……」
 魅惑を漂わせた赤毛の女性、キュルケは何故か俺の横で寝ていた。
 頭痛がする思いだ。
「ノルン、いるか?」
 すると、ノルンはベッドから起きて来た。
「ふわー、おはようマスター。マスター達が激しくて、あたし久しぶりに興奮して寝れなかった」
 あくびをしながら言うノルンに、俺もいよいよ落ち込み始める。
 酒の勢いで、俺とんでもないことを……。
「な、なあ、ノルン。ルイズは……」
「知らないわよ。だって、マスターはキュルケを連れて帰って来たのよ?」
 キュルケがここにいる時点でルイズが知っているわけが無かった。
「ルイズになんて言えばいいんだ……。いや、それよりここは男子寮だ。そっちも問題じゃないか」
 停学やそう言った処分もあるだろうし、ルイズとの絆にも亀裂が走りかねない。
 ましてキュルケにも迷惑を掛けることにもなる。
 そう俺が悩んでいると、ノルンが肩を震わせていた。
「ノルン?」
「ご、ごめん、マスター。激しいなんて嘘。連れてきたのは本当だけど、ほとんどキュルケがマスターに絡んでたみたいだから大丈夫……っぷ、もうダメ!」
 そういうとノルンは思いっきり声を上げて笑い出した。
 腹を抱えて転げまわっているじゃないか。
 ああ、どうやら俺はからかわれたらしい。
 ノルン、俺はお前をそんな使い魔にした覚えは無い!
 使い魔は主を守るはずなのに、陥れるようなことを。
「とりあえず、間違いはないんだよな?」
「あたしが知る限りはね~」
 まあ安心は出来ないが、間違いはないだろう。
 俺も酔ったからと言って手を出すつもりはないし、ないはずだ。
 ……少し自信が無いのは何故だろう?
「う、ん? ここは?」
 振り向くとキュルケが目を擦りながら起き上がっていた。
 寝起きの彼女を見るのは初めてだが、こう滅多に見れないものを見てしまった感じだ。
 見覚えがないのかキョロキョロと部屋を見回している。
 一言で言うなら幼い。そういう感じなのだ。
「あれす?」
 呆けた感じで俺を見るキュルケ。
 状況がいまいち掴めないのか首をかしげている。
「あ、あれ? どうしてあたしがここに?」
 徐々に状況を把握して来て。
「服着てない? え?」
 何かに気が付いたように、自分の体を隠すと俺の顔を見て叫ぼうとした。
「きゃ…む! むー!」
 俺はとっさに彼女の口を押さえるが、キュルケはパニックを起こしてるのか暴れだす。
 意外に力が強い。俺は必死に口を押さえながら言った。
「お願いだから、落ち着いて。僕もどうしてこうなったのか分からないんだ」
「む! むう! むー!」
 しかし、あまり効果が無い。
 女性に乱暴したくないのに、これじゃ俺が襲ってるみたいじゃないか。
「キュルケ、昨日パーティーがあったのは覚えてる?」
 暴れるキュルケにもう一度問いかける。
 すると、何か思い出したのか暴れるのはやめた。
 状況はとりあえず分かってきたらしい。
「手、話すけど、大声出さないでよ? 問題になったらお互いまずいんだから」
 キュルケが頷くのを確認すると、俺はゆっくり手を離した。
 ベッドの上に下着姿の女性というのはあまり良くない。
 キュルケが魅力的なのは知っていたが、こうして下着姿の彼女を見ると改めて魅力的なのが感じた。
 大きく豊かな胸やボリューム感のあるヒップ、くびれのあるウェストについつい目が行ってしまう。
 体の色の濃い彼女に白い下着はより一層、彼女の魅力を引き立てていた。
 俺の視線に気が付いたのか、少し意地悪そうな笑みを浮かべるキュルケ。
 隠そうとせずにむしろ見せつけるように俺の方を向く。
「ご、ごめん。服を着てくれないか」
「あら、さっきからちょっと熱い視線を感じたのだけど?」
「素直に魅力的だと思ったよ。とにかく服を着て貰えないか。後ろ向いてるから」
 後ろを向いて煩悩を断つことにした。
「つまらないの」
 からかう口調で言いながら着替えを始めてくれる。
 しかし後ろ向きでも布が擦れる音が聞こえてしまい、ややばつが悪い。
「ねえ、何もしてないの?」
「してないよ」
「ふーん。あ、こっち向いていいわ」
 俺はそう言われて振り返る。
 キュルケは服を着終えて、ベッドの上に足を組んで座っていた。
 足を組んでいるせいで若干下着が見えそうになっているのはきっとわざと何だろう。
「状況は何となく、わかったわ」
「聡明で助かるよ。でも、出来れば暴れる前に分かってもらいたかった」
「仕方ないじゃない……。あたしだっていきなりこんな状況じゃ慌てちゃうわよ」
 まあそれもそうだろう。
 自分から誘ったならまだしも、向こうもたぶん酔ってたんだ。
 何があったのか覚えて無くても仕方ない。
「それにしても、君もお酒で記憶を飛ばすんだね」
「あたしだって完璧じゃないわ。まあ、お酒程度でこうなったのは初めてだけど」
 そんなにお酒を飲んでいたか?
 でも、誰でも飲みすぎればこういう事があるのだろう。
 現に俺は記憶を飛ばしたわけだし。
「そうか。で、出来たら何事も無かったように自分の部屋に戻ってもらえるかな?」
 こんなとこルイズに見られでもしたらまずい。
 ただですらルイズより一週間遅れて戻って来たのにご立腹だったんだ。
「あら、お邪魔?」
 いつもの調子を取り戻したのか、挑戦的な目で俺を見る。
 ベッドから立ち上がると、俺に寄って来る。
 いつもの魅惑な雰囲気を漂わしてだ。
「キュルケ。僕はルイズ一筋なんだ。何度も言わせないで」 
「さっきの視線は?」
「不可抗力だよ。君が魅力的なのは否定出来ないからね。ルイズが婚約者でなければ相手をお願いしたかったよ」
「そう。ちぇ、つまらない男ね。いいわ。大人しく帰ってあげる」
 口ではつまらないと言うも俺から相手をお願いしたかったという言葉を聞けて満足なのか、素直に部屋のドアへと向う。
 だが、そのドアを彼女が開けることは無かったのだ。
「アレス、おはよ……う?」
 桃色の髪の小柄な少女、ルイズがドアを開けてしまったから。
 今のこの光景をルイズが誤解をしなければいいんだが……。
 そんな都合が良いことは無かった。
「キュルケと、どうして……?」
 ルイズは目に涙を溜めながら俺を見ると、ドアを思いっきり閉めて駆け出してしまった。
 泣かせてしまった。
 故意じゃなくても、これは状況が悪すぎる。
「最悪だ」
「マスター、同情するわ」
「あたしも」
 哀れな俺にキュルケと、ノルンは同情の眼差しを俺に送っていた。
 校舎裏で男が二人。
 しかも話題は女のこと。
 もう俺は青春ドラマの真っ只中にいるんじゃないかと、ツッコミを入れたかった。
「ルイズを泣かしてんじゃねえ」
 サイトに胸倉をつかまれ睨みつけられているのだ。
 前世でだってこんな状況になった事なんてない。
 しかし、真剣な目だけにルイズを大切にしてるんだなと思わず感心してしまう。
「誤解だって言ったじゃないか」
 俺は一応、説明済みの事を言ってみた。
 しかし、サイトの手の力は緩まない。
「だったら、どうしてルイズが泣いてるんだよ!」
「サイト君、昨日のあれじゃどうしようもないと思わないか?」
「思わない」
 毅然として言うサイトに、俺は少し卑怯と思いながらこういった。
「昨日キュルケに少し迫られてたよね? サイト君は、その時どうしてた?」
「……」
 言葉が詰まるサイト。
 昨日はお酒が入ったからと言うのもあるのか、みんな開放的だった。
 キュルケは何も俺にだけ絡んだわけじゃない。
 俺の覚えている範囲なら、サイトにも絡んでいたはずだ。
 しかもあの胸で抱擁されていたのだ。動揺しなかったとは言わせない。
「まさか酔ってたから覚えてないとか? その後、シエスタを躓いたとは言え押し倒したの覚えてる? その後、顔の赤いシエスタとどこかに行ったよね?」
 シエスタもシエスタで久しぶりにサイトに会えたのが嬉しかったのか抵抗しなかったな。
 その後、どこで何をしたのかまでは知らない。
 俺の言葉に、すっと目をそらしてサイトが降参だと言うよう言った。
「わ、分かったよ」
「お酒に酔うと怖いでしょ?」
「あ、ああ」
「ルイズに悪いと思うんだけど、僕もどうしてああなったのか……」
 正直、自分が恨めしい。
 なんで連れ帰ったのがルイズじゃないんだよ。
 ルイズが隣に寝ている分には俺としては問題ないんだ。
 それなのに他の女性だなんてな。
 絡まれていたらしいが、それでも情けない。
「で、でもよ。誤解にしても、ルイズの泣きっぷりは尋常じゃなかったぜ?」
「一週間遅れての帰還に、キュルケと寝ていたとなると……ね」
 ああ。とても憂鬱な気分だ。
 誤解だと言うのは聡明なルイズならすでに気が付いているだろうけど、溜まったフラストレーションがある。
 何せ、アンリエッタとも何かあったんじゃないかと勘ぐられたくらいだ。
 たぶん今は感情が爆発しているんだよな。
「マスター、ちゃんと話せばわかるんじゃないの?」
「そうだよ。ルイズにちゃんと言えばいいじゃ……って無理だよな」
「今は、ね」
 実はあの後すぐに追いかけたのだが、部屋に入るなり出てこないのだ。
 会いたくない! の一点張り。
 で、出てきたサイトに校舎裏に連れて行かれて、今に至るのだ。
「どうするんだよ?」
「……。仕方ないからどうもしない」
「は?」
「マスター、それってどういう事?」
「ジタバタしても仕方ないってことだよ。
 今の僕が何を言ってもダメなら、時間を置くしかないさ。
 行動はその後」
 そう。
 今、ジタバタしてもたぶん状況は悪化する。
 ルイズは優しくて、思いやりもあるが、頑固だ。
 相当腹を据えている今、下手に会いに行っても逆効果。
 しかも、頑固なくせに落ち込みやすいから俺を追い返したことに後悔とかしてまた落ち込むと言う負のスパイラルに落ちかねない。
「帰ってきて早々、問題が尽きないな……」
 俺はそう言って空を仰いだ。
 空も重く沈むような雲が浮んでいる。
 全く、俺の心のようだよ。 
 ぶらりとしながらヴェストリの広場へとやって来た。
 ちょっと気晴らしをしようと来た、この場所にギーシュが空を見上げていた。
 俺と目が会うと、こちらにやって来る。
「やあ、アレス。こんなところにいて良いのかい?」
「ルイズの事を言ってるのかな?」
「そうさ。レディを泣かしてしまったそうじゃないか。ここは僕のバラを一輪上げるから謝って来たらどうだい?」
 そう言ってバラを一輪俺に渡してくれる。
 気持ちは嬉しいのだが。
「今は無理だよ」
「どうしてだ?」
「モンモランシーを怒らせたときどうなる?」
「……。ああ、確かに今はやめて置くのが賢明だね」
 俺とギーシュは二人してため息を付いた。
 と言うか、何故、ギーシュもため息を付くんだ?
 俺はルイズの事があるから分かるが……。
「モンモランシーと何かあったね?」
「うっ……」
「アレス、君ならモンモランシーの機嫌を直せるはずだ! 僕に代わって何とかしてくれないか!」
「昨日、何があったのさ?」
「じ、実は……」
 語り出すギーシュの話に、俺とノルンは五分と立たず突っ込みを入れることになる。
「自業自得だよ?」
「全くね」
 俺とノルンの容赦ない一言に肩を落とすギーシュ。
「わかっているんだ。だけど、どうにも……」
 話を聞くと、昨日のパーティーで他の女の子に声を掛けまくったらしい。
 運悪く、その現場をモンモランシーに見つかって。と言うか、見つかるのが当然な気もするのだが。
 俺は前に、浮気くせを直せといったことがあるんだが、まだ直っていないらしい。
 前よりかは良くはなっているんだけどな。
「モンモランシーも呼んでるパーティーで、君はどうしてそんなことをするかな?
 明らかに自爆行為としか思えないよ?」
「反省はしてるよ。
 モンモランシーの事を何とか出来たら、僕がルイズの機嫌を直すからさ」
 どんな交換条件だ。
 モンモランシーとはギーシュの事でいろいろとお世話をしてるからいいが、ギーシュはルイズとそういう関係じゃないはずだ。
 それで機嫌が取れると言うのも難しいものだ。
 とは言え、友人が悩んでいるなら仕方ない。
「まあ、モンモランシーの方は僕が何とかするよ」
「いいのかい!」
「引き受けるよ。ギーシュ、ルイズの事は頼んだよ?」
「任したまえ!」
 ギーシュは胸に手を当てて自信満々に言うと、一目散にルイズのところへ走っていく。
「マスター、大丈夫なの?」
「きっとすぐに戻ってくるさ」
 張り切って戻っていくギーシュに苦笑しながら答えるのだった。
 ギーシュと別れて、俺はモンモランシーの部屋へ行く。
 自分もルイズのことで問題が起きてるのに、何で人のことに顔を突っ込んでしまうんだろう。
 お人よし的な自分に苦笑しながら、モンモランシーの部屋の前に立つと軽くノックする。
「ギーシュ? 今は会いたくないって言ってるでしょ!」
「アレスだよ。ちょっと話をしないか?」
「アレス? ……まあ、いいわ。鍵は開いてるから」
 俺は失礼するよと言いながらドアを開けた。
 部屋に入ると、本が散乱している。
 大事な商売道具は無傷だが、いたるところに本が落ちていた。
「喧嘩、したんだって?」
「アレスこそ、ルイズを泣かせたそうじゃない?」
「まあね」
 俺は肩を落として見せると、モンモランシーが薬の調合をする時に使う机の椅子に座った。
「こんなところに来ていいの? また誤解されるんじゃない?」
「誤解だって言うのは、ルイズは気が付いているよ。今、僕が言っても逆効果だね。
 ルイズの事はギーシュに任せたよ」
 そう言うとモンモランシーが怪訝な顔をして、こういった。
「ギーシュ、ルイズを口説かないかしら?」
 その言葉に俺も思わず顔が引きつる。
「ま、まあ、大丈夫なんじゃないかな?」
 大丈夫だと信じたい。
 ルイズは泣いていても絵になるから、思わず優しい言葉を掛けたくなるかもしれないからな。
 最も、あの状態になったルイズを口説くことは不可能だと思う。
「それより、モンモランシー。話は聞いたよ」
「ならわかるわよね? 酷いと思わない? わたしを誘っておきながら、他の女の子と……」
 握りこぶしを作りながらなかなか迫力ある顔をするモンモランシー。
 気持ちは十分すぎるほど分かった。
「ギーシュの事、嫌いじゃないんでしょ?」
「そ、それはね。でも、あれは許せないわ!」
 ギーシュ、君はもう少し女性を大切にするべきだ。
 甘い言葉ばかり言って、女性を惑わさないように強く言わないとな。
「それに、今日だけじゃないのよ! アレスは戦争に言ってたから知らないと思うけど、この前なんか!」
 モンモランシーは語を強めると語りだした。
 出て来る、出て来る、ギーシュの不満オンパレードだ。
 話を聞く限り、特に一年の女子に対して、手を伸ばしすぎる部分があった。
 しかも可愛い子ばかりらしい。
 モンモランシーも可愛さで言うなら学年でも上位に入る。
 他にも男子がいるのに、ギーシュだけが恋人候補に上げてもらっているのだ。
 ギーシュもそれで抑えていればいいのに。
 俺は聞き役に徹していたが、ノルンがついに口を挟みだした。
「あたしもその話、同感! フェアリーにだって男女の関係はあるけど、そんな男最低よ!」
「分かってくれるのね! そう、思うでしょ? ギーシュったら」
 ギーシュ、俺は前に自重するように言ったはずなんだが、守ってくれていないのか。
 ノルンとモンモランシーは息が合ったように今度は理想の男性論を展開している。
 これはこれでいいコンビかも知れない。
「気が合うわね、ノルン」
「モンモランシーこそ」
 お互いにそう言うと、微笑み合う。
 ここに二人の友情が芽生えるのだった。
 モンモランシーは大方、落ち着いた。
 もう一生分のギーシュの不満をぶちまけたのではないかと言うくらいである。
 しかも、理想の男性論を語り終わると、ギーシュの良いとこ講座を展開。
 すっかり当てられてしまった。
「ふー、すっきりしたわ」
「それはそうだろうね……」
「ありがとう、アレス。一人でいたら悶々とするところだったわ」
「礼には及ばないよ」
 何せ文句と惚気をひたすら聞いただけだし。
「ノルンも、ありがとう」
「ううん。なかなか楽しかったし。今度遊びに来てもいい?」
「歓迎するわ」
 すっかり仲良くなったな。この二人。
「さて。それじゃ、僕は戻るよ」
「あ、ルイズ、大丈夫かしら?」
「だから、お暇しようかと思ってね」
 そうなのだ。すっかりモンモランシーの話を聞いていたんだが、俺の問題は何一つ解決していない。
 ギーシュも戻ってこないのも心配である。
 ルイズの事だ。もう十分冷静になっていると思う。
「すっきりさせてもらった、お礼にルイズとの仲介してあげましょうか?」
「気持ちは嬉しいけど、これは僕の問題だから」
 モンモランシーは頷きながら笑顔を向けてくれた。
「そう。ギーシュもアレスくらい考えてくれればいいのに」
「あははは……。きっと彼も成長してそうなるさ」
「だと良いんだけど。アレスも頑張ってね。ルイズの事でならいつでも相談に乗るわ」
「ありがとう」
 俺は笑顔で答えると、今度こそモンモランシーの部屋から出て行くことにした。
 部屋を出ると、そこにはギーシュが膝を抱えて座っていた。
 夕日が彼を照らして、黄昏がより強調された感じのオーラを漂わせている。
「ギーシュ、そんなところでどうしたんだい?」
 俺の言葉に浮かない顔をすっと上げてきた。
 若干、泣きそうな顔のような気もする。
「アレス、すまない。僕では何の力にもなれなかったよ。
 君はモンモランシーの機嫌を取り戻してくれたというのに……」
「い、いや、気にしないでよ。
 ああなったルイズはそっとやちょっとじゃ機嫌直らないんだからさ」
 ちょっと酷いかも知れないが、正直期待してなかった。
 俺は慰めと共に、ギーシュの肩に手を置くと、彼はいきなり抱きついてきた。
「アレス! 君はなんていい奴なんだ!
 僕は君のような友人がいて本当に嬉しいよ!」
 お、男に抱きつかれてもあまり嬉しくないんだが……。
 それにしても、大げさだ。
「ギ、ギーシュ、苦しいから離れてくれないかな?」
「それはすまない。感激のあまり、つい」
「ほら、君は早くモンモランシーに謝るといいよ。
 今の彼女なら許してくれるさ」
「ああ、ありがとう」
 そういうとギーシュは、モンモランシーの部屋に飛び込んでいった。
 ……。ノックくらいして行かないと、またどやされるんだが。
 まあ、ギーシュは反省すると勢いも凄いからな。
 その勢いできっとモンモランシーも許すだろう。
 むしろ許すしか道が無くなるんだよな。
「マスターのお人よしね」
「おかしいな。俺はこんなにお人よしな人間じゃないんだけど」
「ふふふ。年取ってるから何かと世話をしたくなるんじゃないの?」
「……。俺も老けたか」
 冗談をいいながら、俺とノルンはルイズの部屋へと向かった。
 時間は十分すぎるくらいに経っている。
 今なら、少しは話を聞いてくれるに違いない。
 そうで無ければ、強引に進めるだけだ。
 ルイズの部屋に向かっていると、向かい側からキュルケがやって来た。
「キュルケ?」
 少し疲れた表情をしているが、嫌な雰囲気は全く無い。
 それどころか少し気分が晴れているようだ。
「アレス。方は付けてあげたわ」
 俺の前で立ち止まる。
「え?」
「誤解は解いておいたってこと」
「よく、説得できたね?」
「頑固でも聡明なあの子だもの。話して分からない相手じゃないわ。
 それはあなたも知ってるでしょ?」
 これは参った。
 俺より先にキュルケが行動しているなんて。
 それにルイズのこともやっぱり俺と同じくらい良く知ってる。
「そうだね。それにしても君に先を越されてしまうなんて」
「お詫びよ。あたしだって、あの子と問題を起こしたいわけじゃないもの」 
 おどけて見せるが、本心だろう。
 色恋沙汰では確かに問題も多いが、それは自分がターゲットを決めたときだけ。
 俺もターゲットになってはいるらしいが、本気かは定かではないし、何より今ではルイズとも仲がいいのだ。
 そんなルイズと問題を起こしたくないのは本当だろう。
「そうか。ありがとう、キュルケ」
「そう思うなら、今度一日付き合ってもらおうかしら?」
「ルイズが良いって言うなら一日くらい」
 そのくらいの礼ならしてもいいだろう。
 俺としても貸しを作ったままにしたくない。
「珍しいわね。アレスがそういうなんて」
「お礼だよ」
「そうね。さ、早く行ってあげて。
 あの子も意地を張りすぎたことを気にしてたから」
「ああ。わかったよ」
 キュルケと別れ、俺はルイズの部屋へと行く。
 ドアの前に立つと、ノックを二回した。
「アレス?」
「そうだよ。入っていいかい?」
「うん」
 ドアを開けると、いきなり体が揺れた。
 ルイズが抱きついてきたのだ。
「ルイズ」
「ごめんなさい。アレスはそんな事する人じゃないって分かってたのに、ついカッとなって」
「マスター」
 ノルンに呼ばれて振り向くと、笑顔で。
「あたしは席を外すわね」
 ウィンクするとノルンは気を利かせて、部屋の外へと出て行ってしまった。
 別に気を遣わなくてもいいのだが、今は素直に受けておく。
 俺はドアを閉めると、ルイズの頭を撫でながら言った。
「わかってくれれば、いいんだ。僕はルイズを咎めるつもりは一切ないから」
 むしろ俺の方が咎められておかしくない。
「うん。ごめんなさい」
「わかったよ。それより、危ないから離れない?」
「泣いてたから、顔酷いの。アレスに見せたくない」
 首を嫌々させながら、離れることを拒否するルイズ。
 化粧直しくらいさせてあげれば良かったか?
「僕は気にしないんだけど……」
「わたしが気にするの」
「そうか、仕方ないね」
 俺はそう言うと、ルイズの顔を自分に押し付けたまま抱き上げた。
「ア、アレス?」
「ここにずっと立ってても仕方ないよ」
 ルイズを抱き上げたまま、俺はベッドに行くと腰を下ろした。
 俺に顔を押し付けたままのルイズの頭を撫でながら、俺も謝る。
 ルイズばかりに謝らせても、フェアじゃない。
 いくら誤解でも、その誤解を作ったのは俺なんだから。
「ルイズを悲しませて、ごめん」
 俺が謝ると、首を振る。
「ううん。わたしが悪いの」
「じゃあ、お相子だ」
「うん」
 しばらくの間、俺たちは抱き合ったままベッドに腰掛けていた。
 雨降って地固まる。
 言葉通り、より俺とルイズは絆を深く出来たんじゃないかと思った。