死の先に待っていた新たな世界
第20話


-このコンテンツは画面サイズに幅を合わせます-
 提案した方法に驚愕したウェールズが勢いよく立ち上がると、とんでもないものを見るように俺を見た。
 最も驚愕するのも、軽蔑するのも仕方のないことだ。
 提案した方法が、あまりに非人道的である以上。
 こっちの世界で言うなら卑怯極まりない。
 貴族の恥さらしと言われるような案だった。
「アレス君、君は本当に恐ろしい発想の持ち主だ。君が敵だったらと思ったら鳥肌が立つ思いだよ」
「効率良く戦いに勝つなら、僕のような発想は必要だからね。
 ただし、貴族として、人として僕の案はどうかだけど」
「確かに」
 ウェールズは力なくソファーに腰を落とすと背もたれに体重を掛ける。
 俺の話を聞いていて気疲れしたのだろう。
 提案した内容はともかく方法自体は至って単純だった。
 以前、俺は手投げ弾の改良で、飛翔弾を考案した。
 飛翔弾の場合、点火用の棒が押されてから一秒足らずで爆発する。
 なら、これを地面に埋めたら?
 人間が踏んで、点火用の棒が押され、その約一秒後に爆発する。
 つまり、地雷が出来るのだ。
 ありったけの飛翔弾を地中に埋めて置けば、向こうが進攻して来た際の防御になる。
 メイジは空を飛べるから後方の部隊は逃げられそうだが、前衛の傭兵部隊には有効だろう。
 まあ戦争である以上、綺麗だの汚いだの発想自体ありえない。
 俺がやることは所詮は人を殺すことなのだから。
「ウェールズ、どうする? 何なら他の案を考えるよ?」
 ソファーに身を任して目を瞑るウェールズに言った。
 ウェールズのような誇り高い王族が俺の案を採用するのは躊躇われるだろうから。
「いや、僕としては君の案は採用したい」
 だが、返って来た答えは意外だった。
「ウェールズ、本気かい? 僕の意見は正直褒められた案じゃないよ?」
「それは確かにそうだ。しかし、僕としても君が提案してくれた最初の案が実行出来ない以上、他に手がないんだ」
「そうか。そうだね、場合によっては手段は選んでられないから」
「ああ、さて会議まで少し時間があるな。お互い少し休んでいた方がいいだろう」
「そうだね。じゃあ、僕はこれで」
 そういうと俺は司令部から出て行くことにした。
 
 俺が向かった先は、第一大隊のキャンプじゃない。
 要塞のバルコニーだった。
 簡易的なバルコニーで、ほとんどが監視の用途に使うことが多い。
 俺はそのバルコニーから外を見た。
 火はすでに鎮火されていて、即席の治療所では多くのメイジが治療を受けている。
「なあ、ノルン」
「何、マスター?」
「君の目から見て、俺はどうだ? 異世界から持ち込んだ知識、それを用いての戦法。
 この世界では未来で得るはずの戦法や、武器、技術を伝えてしまっている。
 良いことじゃないのは分かっているんだが、俺のしていることはこの世界のパワーバランスまで壊そうとしているんじゃないかと思うんだ」
「マスター……。あたしはフェアリーだし、人間同士の戦争にはあまり興味ないんだけど、マスターはマスターの考えで行動していいんじゃない?
 さっきの話はあたしも驚いたけど、もうすでにマスターは色んな知識を広めてる。
 それにこの世界にはマスターって言う存在がいる以上、誰にもどうすることも出来ないんじゃないかしら?
 言ってみれば世界が、マスターを受け入れたってことじゃない?」
 世界が俺を受け入れた。
 その考えは今まで無かった。
 いや、そもそも世界に意志があるのか?と言うことだが、宇宙が偶然に出来たというわけじゃないだろう。
 意志があるないはともかく、この世界そのものに俺が必要だったと言うのだろうか?
 こんなことを言うのは今更なのだが。
「俺を怖いとは思わないか?」
「いいんじゃない? マスターみたいな人間が居たっていいと思うよ。
 それに、マスターはこのハルケギニアでは変わり者みたいだしね」
「変わり者か、確かにな。異世界からの生まれ変わりなんてまずありえないだろうし」
「あたしだって聞いたこと無いもの」
「それもそうか。だが、いずれ俺は内外ともに異端扱いになってもおかしくない人物だ」
 武器の改良、技術、戦法。
 どれをとってもこの世界には過ぎたものばかりだ。
 俺自身、今まであまり気にしなかったことだが、今更になって俺がどれ程のイレギュラーな存在かを思い知らされる。
 冷静になればなる程に、俺の知識が危険すぎることに気が付く。
 合計して、五十歳近いがまだまだ精神的には未熟なのかも知れない。
「マスター、あたしはマスターの味方だから」
 暗くなる俺に、ノルンは俺の頬をその小さい唇でキスをする。
 俺は、そんなノルンに微笑み掛けると優しく頭を撫でた。
「ありがとう。俺には勿体無いくらい、いいパートナーだよ。ノルンは」
「何言ってるの。あたしだって、勿体無いくらい、いいマスターだと思ってるから」
 俺とノルンはお互い笑みを浮かべた。
  
 会議は、そんなに時間が掛からなかった。
 襲撃による損害が大きいことから進攻を断念し、防御に徹することになったが具体的な案がなかったのだ。
 そこにウェールズが、俺の案をそのまま提案。
 当然、貴族としてそんな戦い方を認められないという発言が飛び交った。
 だが、ウェールズが敵戦力の多さ。
 このまま負ければトリスティンとの同盟も無駄になってしまうこと、そしてアルビオンがレコン・キスタに奪われれば次の標的が、トリスティンに移り同盟国へ迷惑が掛かること、それにより多くの血が流れることを語る。
 アルビオン一国が勝手に玉砕する分には、名誉ある死と共に果てるのもいい。
 だが、友好国とは言え他国までそれに付き合えというのはあまりに勝手すぎると言った。
 この言葉に反論できる人間は誰もいなかった。
 ウェールズはあくまでここを守り通すとしたのだ。
 向こうの残り戦力はおおよそ三万五千。
 その兵力でここを落とせないとなれば、レコン・キスタとて撤退しかないのだ。
 双方の兵力の消耗が激しい以上、レティバーミン第一要塞を抑えることが今一番重要になる。
 当初の目的は果たせないが、アルビオンとしてもレティバーミン奪還が出来たとなれば小さくない戦果なのだ。
 反対出来る材料は、貴族の誇り以外ない。
 だからこそ、誰も反対意見が言えなかったのだ。
 こうして会議はあっさりと終わった。
 その後、俺とウェールズで地雷の埋める箇所の打ち合わせに入る。
 特に、埋める箇所の記録に関してはしっかり取っておく必要があるのだ。
 そうでなければ、今回の戦いが終わった後に事故が起きてもおかしくない。
 俺達でその地雷原の地図を作成することになった。
「アレス、もしレティバーミン第一要塞を落とすなら君ならどう出る?」
 レティバーミン第一要塞周辺の地図を見ながら、地雷を埋める箇所を考えている時にそう尋ねてきた。
「どうしてだい?」
「いや、君の考えはいつも突拍子も無い。だから、君の考えでレティバーミン第一要塞を攻めるなら、どこから攻めるかを聞いてそこを地雷とやらを埋めればいいんじゃないかと思ってね」
「なるほど。でも、それか買いかぶり過ぎだよ、ウェールズ。事実、最初の作戦はすでにダメになってるんだ」
 俺は十九と言う年にしては切れる方だと思う。 
 だが、それは実際ではありえないこととは言え、ずるをしているのと同じだ。
 俺の経験から考えられる方法を取っているに過ぎない以上、俺を当てにされても限界がある。
「そうか……」
「逆に君ならどう攻める?」
「僕なら真正面から、堂々と攻めるかな?
 だが、レコン・キスタなら多少の奇襲くらいならしてくると思う。
 初期の戦いはそうして負けた戦もあると聞いている」
「なら、こんな感じで攻めてくるかな?」
 そう言って、俺は地図に適当な駒代わりのものを使って敵の進攻ルートを考えてみた。
 ここから北は、森が多い。
 つまり、森に身を潜ませて焦らすような攻撃を取ることも可能なのだ。
 大きい街道は一本。
 わざわざ馬鹿正直に、その街道を全軍で通って来るとも考えづらい。
「僕も同じ様な考えだよ。これで攻めてくるんじゃないかと考えるね」
「逆に意表をついて街道を使ってくる方は?」
「それはないと僕は思うけど、アレスはどうだい?」
 これは俺もないと踏んでいる。
 全く使わないことは無いだろうが、ここを使って進攻してくることは敵に進軍を知らせるも同じだ。
「僕もないと思う」
「それなら、この辺りとこの辺りに地雷を埋めるのはどうだい?」
 ウェールズが、街道を挟むようにしてある森を示した。
 俺も似たようなことを考えていただけに、頷いて答える。
「あと、街道にもいくつか埋めておこう。ここを通ってきたとき多少は減らしたいしね」
「そうだな」
 こうして、だいたいの埋める箇所を決めるのだった。
 あとは、細かい配置場所や、埋める順序、回収手順など詰める。
 打ち合わせが終わると、外は明るくなり始めていた。 
 ウェールズから各将軍へ伝達がされて地雷の埋め込み作業が始まった。
 俺は特にすることが無く、キャンプで待機をすることになる。
「なあ、アレス。地雷ってどうなんだよ?」
「それはどういう意味で聞いてるのかな?」
 サイトに、これからの対応で地雷を埋めることにしたと話したら嫌な顔をされたのだ。
 それもそうだろう。
 世界史で撤去されない地雷についての被害などを学校で学んでいたからだ。
 また、そもそも地雷の使用自体、サイトは快く思っていないのだ。
「分かってて聞いてるんだろ? 俺は、地雷ってのが嫌いなんだ。
 アレスだって前世で知ってるだろ?
 地雷がどれ程ひどいものかってさ」
「まあね。だからどうしようかとは思ったんだけど、一番効率のいい戦い方はこれだったんだよ
 提案自体するものじゃなかったのかも知れないけどね」
「元日本人なら、そういう発想をしないで貰いたかったな」
「わたしも、サイトと同じ意見なんだけど、その地雷って方法しかなかったの?」
 俺とサイトの話を聞いていたルイズが、尋ねて来る。
 言いたい事は分かる。
 非人道的だということが。 
「攻める側に必要な条件が、向こうには揃ってたし、すぐに進軍してくるにも今からの対応じゃろくなものが無い。しかも後手に回れば完全に負け戦だ。
 地雷なら、敵の発見と防御が両方出来るから、これが効率的には一番良かったと思うよ」
「アレスには悪いけど、わたしは今回のあなたの考えに軽蔑するわ。まだ空からの攻撃なら避けようがあるし、脅しにも使えるけど地中の中にって言うのは嫌な考え方だわ」
「そうか……。そうだね。二人の言うとおりだよ。
 それでも、僕はこの選択に責任は持って遂行するから」
 俺は、そういうとすっとその場から立ち上がった。
「ちょっと外の空気に当たってくるよ」
 正直、ここに居づらい。
 この作戦を撤回すれば、いくらか違うのだろうが俺も撤回する気はない。
 ウェールズが、苦渋の決断をしてくれたのだ。
 今更覆したくない。
 汚れた仕事だが、汚れならいくらでも俺が被る。
 そうする必要があるなら尚更だ。
 感情が表に出ていたのだろう。
 ルイズが俺を心配そうに見て来た。
「わたしも行くわ」
 ルイズは立ち上がると、俺の隣に立った。
「ごめん。ちょっと一人にさせてもらえるかな?」
「え……?」
「一人で頭を冷やしたいんだ。心配してくれてるみたいだけど、ごめん」
「わかったわ」
 やや納得行かない表情だが、俺の言いたいことも分かるのだろう。
 すぐに引き下がってくれた。
「アレス」
 テントを出ようとしたとき、サイトが俺を呼び止めた。
「何かな?」
「俺も少し言いすぎた。悪い」
「いいよ。二人が言った事は事実なんだからさ」
 俺はそういうと今度こそ、キャンプを離れた。
 地雷を埋める場所からだいぶ離れた森の中を俺は歩いていた。
 木の葉が重なり合って、太陽の光をさえぎっている。
 わずかな光が森を照らしていなければ、かなり暗い場所だろう。
 代わりに、空気がひんやりとしていてとても気持ちがいい。
「マスター」
 肩に乗るノルンが、心配そうに話しかけてくる。
 さっきはずっと黙っていてくれた。
 ノルンは基本的に俺を支持してくれるが、あの場で反論するような野暮なことをこの子はしない。
「すまんな。ノルンに心配かけさせた見たいだ」
「あたしはいいんだけど、マスターさすがに参ってるでしょ?」
「全く、笑っちまうよ。俺自身で考え付いたことだと言うのにさ、二人から言われると間違いだったんじゃないかって思う」
「合理的な考え方は、必ずしもみんなに受け入れてもらえるわけじゃないものね」
「ああ、そうだな。戦争である以上、俺の考えはある程度支持される。
 とは言え、サイトやルイズのように純粋だと、気に食わないだろう」
 特にルイズは俺の影響で、そういう人としての部分にかなり敏感だ。
 俺が影響を与えておきながら言うのもなんだが、俺自身随分と偽善だったなと思う。
「俺は、この世界に生れ落ちて本当に良かったのか」
「あたしは昨日言ったとおり、世界が受け入れたと思ってるわ」
「ありがとうな」
 ノルンにそういわれると、本当に救われる気分だ。
 自分で撒いた種ではあるんだが、こうして誰かに肯定されるのは救われる。
 とは言え、考えは負のスパイラルだ。
 イレギュラーとしての自覚が今更ながら大きく感じるのだ。
 ウェールズは大義名分で押し通したが、俺はウェールズの人柄さえ疑わせることをした。
 決していい決断ではないのは確かだ。
「もう少し、慎重に動かないとダメだな」
「マスター……」
 特に軍事に関わっているんだ。
 世界のパワーバランスを変えて保たれていた秩序が壊れたら大変だ。
 世界に受け入れらたとは言っても、所詮は個人の考えだ。
 それが世界に良い考えとは限らない。
「変わらないものなんて、ないと思うの。
 マスターは変えないといけないんじゃないの?
 あたしが、人の世界に口出しするのは変だけど、変えなきゃならないことだってあるわ。
 今回は違ったにしても、マスターはこの世界で考え付かない発想を持ってるんだし、変えた方がいいところは変えるべきじゃないの?」
 ノルンは俺の考えを真っ向から否定した。
 悪い意味じゃなくいい意味で。
「ノルン……」
 確かにノルンの意見は正しいのだ。
 変えるべきところは変えないといけない。
 俺の意見で、おそらくハルケギニアの戦争のあり方は変わるだろう。
 良いか悪いかは別にしてだ。
 行動が間違いだから、もう何も行動を起こさないのは、ただの臆病かも知れない。
 俺自身、サイトとルイズに反対されて臆病になりかけていたわけだし。
「間違いだったら、直せばいいじゃない。
 変えるのが怖いからって、何もしないのはマスターらしくないよ」
「ノルン、ありがとう」
 そうだな。
 今回のことを反省して次に生かせばいい。
 昔の俺はそうやって来たんだ。
 その通りにすればいいのかもしれない。
「少しは元気出る?」
「ああ、助かるよ。ノルンには世話になりっ放しだ。全くどっちが主だかわかりやしない」
「いいじゃないの。あたしはマスターを守るためにいるんだもの。
 何もマスターの身だけを守るのが、守るってわけじゃないわ」
「それもそっか」
「そういうこと」
 ノルンのおかげで少し気が楽になった。
 提案自体は、この世界の闇の部分に貢献してしまったが、これから気をつければいい。
 軽いことじゃないんだが、そう思ってでもしないと何も出来なくなってしまう。
「さて、戻るか」
「大丈夫なの?」
「ああ。ノルンのおかげでな」
 そういうと、この涼しい森から出ることにする。
 いつまでも現実逃避なんて出来ない。
 これから、俺自身が言い出したことの行く末をしっかりと見なければならないのだから。