死の先に待っていた新たな世界
第2話


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 ルイズと別れて、俺は一人エレオノールの部屋に行く。
 扉の前に立ち、二回ノックすると、部屋から入るように言われた。
「失礼します。アレス・ジルアス・ド・ヴァルガード、参りました」
「相変わらず、子供らしくないわね。そこに座って」
 俺は一礼すると、椅子に座る。
 もう何度も入っている部屋だが、本棚ばかりが並んでいて、いつも圧倒される。
「用件の方ですが」
「用件はあなたが言っていた“虚無”についての考察と、ルイズのことね」
「では、まず“虚無”についてからお聞きします」
「そうね」
 そう言うと、ため息を付きながらこういった。
「あなたの考察でほぼ間違い無さそうよ」
「やはりですか?」
「そういうこと」
 俺の“虚無”の考察。
 それは系統魔法が五つあるのに、“虚無”だけが扱えないことについてである。
 俺が調べた結果、三つの理由があると考えた。
 一つ目。“虚無”の魔法の担い手について。
 これは現在、“虚無”の担い手がいない理由について、文献が無いこと、伝説であること、その両方の理由から扱える人間がたとえ居たとしても使い方が分からずに気づかないまま一生を終えているのではないか?と考えた。
 それと同時に、魔法は血によって伝わる以上、“虚無”が使える人間は必ず居ると言うこと。
 そして、これはルイズにも関わる可能性があるのだが、魔法を行使して正しくそれが発動しないのが、その“虚無”の証ではないか? と言うことである。
 二つ目。系統魔法と“虚無”の違い。
 これは俺が調べた限りであるが、使い魔にあると思うのだ。
 通常の使い魔と“虚無”の使い魔には明らかな差異がある。
 それは、使い魔すら伝説となっていることであるのだ。
 神の左手・ガンダーヴル。
 神の右手・ヴィンダールヴ。
 神の頭脳・ミョズニトニルン。
 語られない第四の使い魔。
 第四の使い魔はともかく、始祖ブリミルが従えた使い魔は、そのルーンとして存在していた。
 そして、神の左手・ガンダーヴルについては、“虚無”の魔法には長い詠唱が必要で、尚且つその長い詠唱の間主人を守る役割があったのではないかと言うこと。
 使えない魔法なら、わざわざ守る必要が無い。
 また使える場合でも無敵に近いならわざわざ守る必要が無い。
 守らざるを得ないと言う事は、その魔法に通常よりも長い詠唱が必要な可能性がある事と脅威であることの裏返し。
 そこから分かるのは、“虚無”が非常に強力であることだ。
 伝説になるくらいなのだから、それくらいであってもおかしくない。
 つまり“虚無”の使い手は膨大な魔力を秘めているのではないか?
 そして、それだけ強力な魔力を必要とする魔法は系統魔法には存在しないと推測できる。
 三つ目。その強大な力から来る現象。
 これはルイズを通して考え至ったことだ。
 ルイズの魔法は爆発する。
 これは、魔力が膨大だから起きるのではないか? と思うのだ。
 さっき言った“虚無”の魔法を行使するのに強大な魔力が必要なら、一回に使用される魔力もまた半端じゃないと思うのだ。
 つまり、系統魔法ではその器が小さすぎるのでは? と思うのである。
 どの系統魔法を使っても、恐らくスクウェアクラスの魔法でさえ、“虚無”の担い手が使用する魔力には耐えられないのではないか?
 少々極端だが、水の出方から考えるなら、普通の蛇口から出る水が系統魔法。ダムの放水が“虚無”と例える。
 もし、双方をコップで受け止めたら?
 蛇口の水なら問題なく、受け止められて、まあ超える分は溢れるだけだ。
 だが、ダムの放水をコップなどで受け止めたらコップは割れる。
 まあ、ダムの放水じゃ意味が通じないと思ったから大きい滝と小さい滝と言う形で進言したが。
 ともかくそういうわけだ。
 “虚無”の力で系統魔法を操るには器が小さすぎる。また系統魔法から”虚無”を扱うにはその魔力は不足すると考えたわけである。
「全く、推論の域を出ないのにも関わらず、アカデミーレベルのことをよく考えたわね」
 エレオノールは俺を見ると、そう言って半分呆れていた。
 こちらとは、前の人生三十年分の知識と経験がある。
 ましては魔法がない世界だからこそ、先入観さえ捨てて調べられたのだ。
 それを伝えても理解されないだろうから。
「たぶん、子供だからこそだと思います」
 としている。
「それもそうね。でも、これが本当なら、ルイズは……」
「おそらく“虚無”の可能性が出てきました。そう思って一年前から力の制御が出来るようにして来ましたが」
「“虚無”ね。わたしとしてはあのちびルイズが伝説の使い手とは思えないのだけど?」
「ですが、それ以上に考え付くものがありません。単なる失敗なら、何も起きませんから」
 そうだ。失敗なら魔法は発動しない。
 ルイズはルーンの発音や行使の方法に間違いはない。
 なのにも関わらず爆発だ。
「ルイズの魔法が爆発しなかったら、この推論には辿り着かないわけね」
「そういうことです」
 俺がそういうと、少し空気が硬くなった。
 たぶん、ここからが本題だろう。
「この話はすでにお父様とお母様に話したわ。その上で、アレスは聞いて頂戴」
「はい」 
「ルイズが“虚無”である可能性は、一先ず保留にするわ」
 妥当だろう。
 俺は無言で頷いた。
「驚かないのね? てっきりどうしてか理由を聞いてくると思ったわ」
「いいえ。さっきの話の通り、“虚無”の担い手なら不都合が生じると思いますから。強大な力はいつの時代も戦争に利用されます」
「凄いわね、その歳でそこまでの事が考えられるなんて……」
「ただ知識があるだけです」
「そういうことにしておきましょう。それで、この話はお父様とお母様、わたし、アレス、あと魔法学院のオールド・オスマン氏だけで留めておくことにするわ。理由はあなたが述べたとおり」
「わかりました。オールド・オスマン氏が加わるのはルイズ嬢様が魔法学院に通うからでしょうか?」
「そういうことね」
 このまま“虚無”を隠していたとしても、魔法学院へは入学することになるのは確実だ。
 そうなれば、ルイズの事情を知っていた方がいいのだろう。
「あと、もう一つ理由があるわ」
「理由とは?」
「彼は、とても人格が優れているからよ」
「なるほど。優れた人格の人なら、情報が漏れることがないからですね?」
「ええ。ところで、わたしが説明する前に先読みするのはやめなさい」
「すみません」
 俺が謝ると、ため息をついてこういった。
「あなたが、もう少しわたしと歳が近かったらわたしが貰ってあげるのに」
 俺はこの言葉に、曖昧な笑みを浮かべるしかなかった。