死の先に待っていた新たな世界
第18話


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 レティバーミン第一要塞を奪還した翌日。
 俺は作戦会議に赴いていた。
 ウェールズ皇太子、アンリエッタを始め各連隊長がそろっている。
 そこに、ヴァリエール公爵はアンリエッタのサポートとして近くに控えていて、俺と父さんはヴァリエール公爵の隣に座っていた。
 会議は隊を休ませるべきと言う意見と、追撃の手を緩めるべきではないという意見で割れている。
 レティバーミン第一要塞奪還自体は、被害が少なかったとは言え、それでも一個連隊分の被害は受けていた。
 火薬の消費も多く、本来なら物資を補給して十分に態勢を整えてから攻めたいところなのも確かだ。
 だが向こうは撤退をしている。つまり向こうも整っていない状態だ。
 このままドルバータの部隊と合流したらそれはそれで厄介でもある。
 レティバーミンに侵攻していたレコン・キスタの部隊は二個師団で二万五千。
 第五要塞襲撃時に撃退した数は二千。レティバーミン第一要塞奪還で四千五百。三個連隊くらいの損害は与えたが、それでもまだ二万近い戦力だ。
 ドルバータの部隊が一万五千。合流されれば連合軍より、おおよそ三倍の戦力になるのだ。
 一気に攻めたいところでもあるのだ。
 その攻め際で、口論は続く。
 時間が経てば経つほど、敵も態勢は整えられる。代わりにこちらの疲労も回復出来るわけだが。
 戦力で三倍もの差を準備を整えた相手に勝てるか?と言うものがある。
 奇襲は必要だが、そうそう何度も成功するとも思えない。
「アレス、お前はどう思う?」
 そう尋ねてきたのは父さんだ。
 父さんは慎重派で、どちらかと言えば部隊を整えてから攻めたいはず。
「私は、疲れがあるとは言え、勝利の余韻がある今が攻め時だと思います」
「そうか……。私は難しいところだな。だが、お前が言いたいこともわかる。ヴァリエール公爵はいかがですかな?」
「私は、アレスの意見に賛成だが、敵の追撃したあとはさすがにレティバーミンで部隊を整える必要があると思ってるが」
「確かにそうですな。アレスの意見に同調してみるのも良い結果を出すかもしれん」
 父さんがそういうとヴァリエール公爵も頷く。
 そして、アンリエッタに進言して、アンリエッタはウェールズ皇太子に話を持ちかけた。
 ウェールズ皇太子はやや考えるようにすると、いきなり立ち上がって宣言をする。
「今回の戦は勝ち戦だ。レティバーミンの奪還も成功して、勝利にみな沸いている。
 この勢いを殺さずに、追撃を行おうと思う。
 目的は、敵戦力をそぎ落とすこと。全滅できればいいが、出来なくても被害を大きく出来ればいい。
 後は、レティバーミンで部隊を整えて、ドルバータへ侵攻しようと思う。
 この意見に反対するものはいるか?」
 ウェールズ皇太子がそう言って全員の顔を見渡す。
 反対意見を言うものは居なかった。
 あれだけ、口論が続いていたというのに、だ。
「では、撤退中の部隊を追撃する! 全部隊、夜までに準備を整えろ! 追撃するなら明日の朝がリミットだ!」
 敵への追撃が決った。
 だが、それの決断は一つ波乱を呼び起こすことになる。
 俺は第一大隊の控えるキャンプ戻ってきていた。
 レティバーミン第一要塞は大きいが、敵が去った後だけにまだ整理がついていない。
 そのため、第一要塞の外で俺達はキャンプを張っていた。
「マスター」
 サイトの肩に座っていたノルンが、俺を見つけると飛んで俺の肩に座る。
「やっぱり、マスターの肩が一番落ち着くわ」
「悪かったな。俺の肩はあまり心地よくなくて」
「別にサイトの肩が悪いって言ってるんじゃないのよ?」
 俺が最近会議とかが多いせいで、ノルンをサイトに預けることが多くなった。
 結構、この二人は中が良いので俺も嬉しい。
「アレス」
 ルイズが俺の側に来る。
 話もしたいが、やることはやってしまおう。
「あ、ごめん。ちょっと待っててくれるかな? ギルス副隊長」
 俺はギルス副隊長を呼ぶ。
 会議で決まった追撃を伝えるためだ。
「はっ。何でしょうか」
「今夜、撤退中のレコン・キスタを追撃することになったから、各中隊長に伝令をして下さい。
 追撃に必要な装備等はギルス副隊長に一任します」
「了解しました」
 ギルス副隊長は敬礼をすると、すぐさま中隊長達を集め始める。
 ルイズの方を振り返る。
「ごめん、それで何かな?」
「ちょっと散歩しない?」
 散歩か。
 この頃、会議等で忙しくあまり構って上げられなかった。
「そうだね、行こうか」
「あたしは一緒でいいの?」
 ノルンがルイズに尋ねる。
「構わないわ。それに、あなたはアレスのパートナーじゃない」
「ルイズもでしょ」
 女の子二人はそういって微笑み合う。
 俺が居ない間に何かあったのか?
 そう考えても俺には検討も付かないな。
「あ、俺もいいのか?」
「サイトは……。待っててもらえるかしら?」
「あ、そうですか」
 ルイズの言葉にやや肩を落とすサイト。
 別に邪険にしているわけじゃないようだから、そこまで落ち込まなくても、な。
 俺はサイトを置いて、ルイズ達とテントの外に出た。
 外は、追撃の準備に追われている。
 アンリエッタ連隊が先頭に立つため、俺達の部隊が一番準備が忙しかった。
 俺は、ギルスに一任したからそこまで忙しくは無い。
 最終確認だけすればいい。
「戦争なのよね」
「そうだね」
 そんな慌しい状況を見ながら、ルイズはそう呟いた。
「血と、火薬の匂い。敵味方関係なく、倒れていくのは学園にいたら知らないままだったわ」
「後悔していないかい?」
「後悔はしてないわ。何も知らない女のままだったら、あなたの苦労は知れなかったもの」
 ルイズは空を見上げた。
「空はいつもどおりの星空。月も綺麗よね。それが、戦争はその全部が見えなくなる」
 戦争は殺し合いだ。
 殺すか、殺されるか。生きるか、死ぬかだ。
 周りがどんなに綺麗な花畑だろと、空がどんなに綺麗だろうと、どんな美しい情景があろうと、ひとたび戦いになればそれを見る余裕はない。
「わたし、今回のことで思ったわ。戦争を無くしたいって」
「それは誰しも考えることだね」
「人間くらいよ。同じ種族同士で殺しあうなんて」
 そうノルンが呟いた。
 ノルンはフェアリーだ。より、自然界に近い立場の種族。
 戦争なんて、自然界には存在しない。
「ノルン。あなた達は争いはないの?」
「フェアリーは数も少ないし、争うことはないわね。ちょっとした小競り合いくらいはあるけど、基本的に争いはないわ」
 フェアリーは人間とも友好的な種族で、滅多なことでは人間と敵対はしない。
 敵対するときは、大抵は人間の身勝手な行動で、フェアリーたちを怒らせるときだ。
 それだけに、フェアリー同士でもかなり種族間の交流は友好的なのである。
「人間も同じ様に出来ないものかしら、ね。マスター自体は争いごと好きみたいだけど」
「戦争自体は、好きじゃないんだよ。本来はね? でも、前世が平和過ぎたのかも知れない。
 男はどうも争うこと自体が好きだからさ。
 フェアリーの男はどうなんだい?」
「うーん。フェアリーの男は外敵から身を守るから、確かに争いごとは好きなのかも? でも、人間の男みたいにわたし達に暴力振ったりしないし、男同士でも喧嘩はほとんどないわ」
 その辺は、人間の男より精神的な部分で成熟しているのだろう。
 俺達は、ちょっとしたことですぐ喧嘩をする場面もある。
「そう言えば、アレスの前世では戦争なんて無かったのよね? どうして無かったの?」
「いや、無かったわけじゃないんだよ? 僕が生まれる以前。あ、前世でだよ?
 その頃には全世界を巻き込んだ戦争はあったけど、負けてね。
 それから戦争はやらない国として国の決まりで侵略しないと決めたんだ」
 決めさせられたと言った方が正しいだろう。
 もっとも、あの頃の民衆は絶対に戦争なんて起こさせないと心にあったのは間違いない。
 俺は直接知らないが、資料館等に行けばその悲惨さの何分の一かは目の当たりに出来る。
 あれを見ると俺も、戦争なんて起こさせたくないと思うのだ。
 思っていたのだが、今の俺はそれに逆行している。
「レコン・キスタも、今回の戦争に負けたらそう考えるかしら?」
「……。難しいものだね」
 民衆が辛い思いをする戦争は、誰しもがやりたがらない。
 ましては負ければ尚更だ。
 だが、レコン・キスタも連合軍も戦っているのは貴族が多い。
 日本のように逆らえば牢獄、さらには非国民扱いで周りからも非難されるような洗脳された状態なら敗戦後はやらないだろう。
 だが、レコン・キスタはあくまで貴族だ。たとえ、平民の傭兵を雇おうと。
「人は本当の意味で、反省しないと変わらないと思うよ」
 特にここハルケギニアは中世ヨーロッパと文化が似ている。
 平民が貴族に仕えるのは当然だとか、そういう考えが根強い。
 そして、魔法があるからその権威も絶大だ。
 いかに民衆が反乱を起こそうとも、魔法の前には敵わない。
 そういった意味でも、平和を本当に考えるのは難しいだろう。
「人間って複雑よね」
「わたしも、そう思うわ」
 二人の意見は俺も同感だった。
 
 散歩もそろそろ終わりにして、テントに帰ろうとしたときだった。
 爆音が、夜の空に響き渡った。
 空気が震える音と、わずかに遅れて火薬が燃える匂いが漂っていた。
「何だ!」
 俺はそう叫んで辺りを見る。
 アンリエッタ連隊の第三大隊のキャンプ辺りから、火の手が上がっているのが見えた。
「あっちは第三大隊のキャンプよ!」
 ルイズが叫ぶ。
 俺はその言葉を聞くと、第三大隊のキャンプへと走った。
「わたしも行くわ!」
「ノルン、ルイズと一緒にいてくれ! 万一何かあったらルイズを頼むよ!」
「分かった!」
 ノルンが、俺の肩から離れてルイズの肩に乗った。
 第三大隊のキャンプは、襲撃にあったように燃えていた。
 火薬置き場が側にあったのが災いしたようだ。
 倒れている人間が何人も居る。しかも出血が酷い。何人かはすでに駆けつけた衛生兵が治療に当たっている。
 辺りを見回すが、ある人が見当たらない。
「ワルド子爵がいない?」
 そうなのだ。
 ワルド子爵が見当たらない。
 今は追撃の準備をしている時間帯だ。いてもおかしくない。
「ノルン、ワルド子爵を探せるかい?」
「ワルド……。ああ、あのお髭のお兄さんね? わかったわ」
 そういうと、ノルンは風の精霊に耳を傾け始めた。
「ワルド様がどうしたの?」
「見当たらないんだ」
 俺の言葉に、ルイズが言葉を失う。
 見当たらない。それはつまり、爆発に巻き込まれた可能性があるのだ。
 彼はスクウェアクラス。風が真骨頂だが、水の治療魔法だって侮れない。
「マスター、向こう木の下辺りにいるみたい」
 木の下?
 やはり爆発に巻き込まれたか?
「行くよ」
 俺はそう言って、ノルンが指差す方へ行く。
 その木はかなり大きい木だった。
 木の根元に、ワルド子爵が倒れている。
 それ程酷い怪我ではないが、ところどころ血が流れていた。
「ワルド様!」
 ルイズがすぐさま駆け寄り、ルイズ特性のポーションをワルド子爵の口元に持っていく。
 ワルド子爵に流し込むと、ワルド子爵の傷が癒えていった。
「子爵殿、しっかりして下さい!」
 俺が呼びかけると、唸りながら目を開けた。
「子爵殿!」
「アレスに、ルイズか……。気をつけるんだ。
 黒い仮面の男がいきなり襲ってきた」
「黒い仮面……」
 黒い仮面。五年前、アルビオンへ行った時に襲われたのも黒い仮面だった。
「ルイズ、ノルン。子爵殿を頼むよ?」
「ええ」
「わかった」
 俺は辺りを警戒する。
 周りでは必死に火を消すために水のメイジが魔法を使っている。そして、衛生兵も休む暇なく救助に当たっている。
 そんな中、俺は見つけた。
 空に浮ぶ黒い影。
 その数は四つだ。
 俺と戦った奴なら、あれは全て偏在だろう。どうやら本体はいないらしい。
 そして、その偏在たちは何やら魔法を唱えているらしい。
「っく! 全員退避! 上空に敵が居るぞ!」
 俺の叫びに一斉に、空が注目される。
 それとやつの魔法の完成は、ほぼ同時だった。
「ライトニング・クラウド!」
 上空にいる黒い仮面たちはそう叫ぶ。
 白い光、稲妻が救助や消火活動に当たっているメイジたちを襲った。
「ガード・フィールド!」
 俺はルイズ、ワルド子爵、自分を覆うように防御魔法を張る。
 その結果、稲妻は俺の魔法によって防がれた。
 周りは稲妻によって地面が抉れ、木々は黒くこげていた。
「アレス……。あいつは気をつけろ」
 ワルド子爵の言葉に俺は頷くと、懐から杖を出し、魔法を放つ。
「ライト・ブリッド!」
 光の玉が八つ、俺の周りに現れると高速で敵に向かっていく。
 黒い仮面の男達も、それに気が付いたように俺に向かってきた。
「何だって!」
 黒い仮面の男達は、俺の放ったライト・ブリッドを潜り抜けてくる。
 いくら何でもそう簡単に避けられるとは思わなかった。
「ノルン、風の結界を!」
「うん!」
 俺の指示に、素早く風の結界を張った。
 俺はその結界の外に出ると、地面を蹴る。
「ブレイド!」
 杖から青白い光の刃が現れる。
 これは、魔力刃を作り出す魔法だ。
 属性によって色が変わるらしい。
 俺はそのブレイドで、黒い仮面の男の一人に切りかかる。
 当然、側面から妨害が来るがそんなのは分かりきったこと。
 そして、こういう時に失った左手が役に立つのだ。
 俺は側面から攻撃してこようとする黒い仮面の男に向かって左手を向ける。
 手首に巻きつけているのは形こそ違えど杖と同じものだ。
「ライト・ブラスト!」
 最小限の魔力で、ライト・ブラストを放つ。
 側面から攻撃しようとしていた黒い仮面の男の一人が、この不意打ちに足を止めた。
 光が、男の胸を貫く。
 さすがの黒い仮面の男も、これは防げなかったらしい。
 偏在だった黒い仮面の男は、それで霧のように消えていった。
「なに!」
 俺が、切りかかろうとしていた黒い仮面の男が驚愕の声を上げる。
 当然だ。
 失ったはずの左手から、しかもブレイドを保持したままだ。
「はああああ!」
 俺が、黒い仮面の男にブレイドを振りぬく。
 黒い仮面の男は、ブレイドの刃から逃れることが出来ず、肩から胸にかけて切断した。
 そのまま黒い霧となって消える。
「これで、二人だね」
 そう言って俺は、黒い仮面の男を見た。
 黒い仮面の男は俺を見据えたまま動かない。
「腕を上げたようだな。しかし、左手から魔法とは……。恐ろしい奴だ」
「奪われた左手。有効に活用しないとね? さすがに、左手に杖を仕込んでいるとは思わなかったでしょ?」
「ふふふ。確かにな。だが、今度は油断せん!」
 そう言って、黒い仮面の男の一人が突っ込んでくる。
 五年前より早い!
 俺はブレイドを保ちつつ、黒い仮面の男の攻撃を受ける。
 岩をも切り裂くブレイドの刃が黒い仮面の男のレイピアと互角だった。
「固定化の魔法か……。厄介だね」
「ブレイドもな」
 その声は後ろからだった。
「しまっ……」
 声を上げるまもなく、俺の腹が貫かれる。
「アレス!」
「マスター!」
 ルイズとノルンの叫びが聞こえてきた。
「ぐっ……」
「油断してはいけないな」
 そう言ってくるが、二人目はまだ俺の目の前にいる。
 明らかに、どこかに潜んでいたのだ。本体含めて五人だ。
 どうして、本体がいないと俺は決め付けていたのだろう。
「死ね!」
 その言葉とともに、俺は三方向から貫かれた。
 左胸、右の腹、そして、肩だ。
 何とかとっさに急所を外すようにしたため、心臓は貫かれなかった。
 だが、そこまでだ。
 俺は、その場に崩れ落ちる。自分の体を制御できなかった。
「アレスーーー!」
 ルイズが叫びながら結界から出た。
 まずい、ルイズが標的になったら俺じゃ守れない。
「ル……ズ。くっ、来るな」
 左胸が焼けるようだ。
 しゃべろうとするだけで激痛が走った。
 そのためにルイズへ声が届かない。
「アレスから離れて! バースト!」
 ルイズが、杖を振りぬいた。
 その瞬間、俺を貫いていた黒い仮面の男のうち、一人の体が爆発する。
 そう。爆発だ。
 ルイズが、初めて自分でコントロールすることが出来た魔法。
 バースト。
 その魔法を、今、ここでルイズは使った。
「バースト!」
 再び、魔法が放たれる。
 爆発は最小限。
 黒い仮面の男がまた一人、吹き飛んだ。
「小娘が……!」
 黒い仮面の男が、一気にルイズへ詰め寄る。
 ルイズも、足が止まっていた。
 自分に殺気を向けられて、急に動けなくなったのだ。
「ルイズ!」
 ノルンが、風の結界を解除して助けに行こうとするが間に合わない!
 俺も、ただ見ているしか出来ない。
 俺が動けないのをあざ笑うように黒い影は、ルイズの前に現れた。
 ルイズも最後の時を覚悟するように目を瞑る。
 その時、何かがルイズと、黒い仮面の男の間に割って入るのを見た。
 同時に、硬い金属音が、辺りに鳴り響いた。
 ルイズを助ける者の剣と黒い仮面の男のレイピアがぶつかった音。
「ルイズはやらせねぇ!」
 ルイズと黒い仮面の男の間に割って入った人物。
 それは、虚無の担い手の使い魔、ガンダールヴ。
 青いパーカーにジーンズの少年。サイトだった。