死の先に待っていた新たな世界
第17話


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 戦闘は、序盤はこちらが有利だった。
 側面からの矢での攻撃、連射が利く連式弓のため相手の体制を一気に崩すことが出来たのだ。
 次に、前衛部隊の突撃。
 魔法衛士隊のように接近戦が得意なメイジは別として、普通のメイジは後方からの攻撃が基本。そのため、前衛が斬り掛かったときに対処しきれずに倒れていくメイジが多数。
 戦闘開始から、五分で一個大隊は倒せた。
 しかし、有利だったのはそこまで。
 襲撃の混乱が収まり始めて来て、向こうの攻撃が激しくなる。
 前衛部隊は全員平民だ。
 メイジが攻撃しだしたらひとたまりも無い。
「前衛部隊下がれ、後衛部隊は援護しろ! メイジ部隊、第五から第七小隊防御魔法に集中! 残りは各自判断の元迎撃!」
 俺の指示で、前衛部隊が後退する。
 戦場では丁寧な言葉など使ってられない。戦場でのアレスは、むしろ俺そのものだ。
 メイジ部隊の防御魔法が、俺達の部隊を丸ごと、ガード・フィールドで防御している。
 前衛部隊は、後方からの援護を受けながら、ガード・フィールド内に入った。
 だが、攻撃は激しい。ガード・フィールドは魔力・物理の両面を防げるがそれだけに範囲が広いと消費魔力は大きく徐々に押されていく。
「ノルン、風の精霊に頼んで防御結界だ。頼めるか?」
「任して」
 そういうと、ノルンが精霊に祈りを捧げ始める。
「この地に住みし、風の精霊よ。我、風に守護せし者。我の願いに耳を傾けよ。
 守りの風、命を運びしその力、我らを守る風の結界となりて、我らの命を奪う力を退け」
 ノルンがそう祈り終えると、風の壁が俺達を包み始める。
 敵の方から動揺の声が聞こえてきた。
 それもそのはず、精霊魔法を使うものは先住の民エルフを始めとしたものたちだ。
 ハルケギニアに住む、人間には扱えない。
「これが、精霊魔法。凄いな」
「当たり前よ。マスター達の魔法は世界を無理やり変えているようなものだけど、あたし達の魔法は精霊達の力そのもの。そこにある力を最大限に発揮するんだからね。
 もっとも、契約をしたら守るどころかこの地ではあたしに敵はいなくなるけど」
 ノルンは得意そうに言う。
 俺はそんなノルンに尋ねる。
「この場にいる、みんなは風の守護を受けれてるのか?」
「そうね、この風の結界に自由に出入りできるわ」
「そうか、ありがとう」
 ノルンの頭を軽く撫でると、嬉しそうに笑う。
 この風の守護があるうちに、ある程度崩しておきたい。俺は指示を出した。
「メイジ部隊第七小隊以外、後衛部隊は結界内からの遠距離攻撃! メイジ部隊第七小隊は前衛部隊の負傷者の手当てを行え!」
 指示を出すと、前衛部隊に出た負傷者を第七小隊が水の魔法で手当てをし始める。
 秘薬もルイズが研究を重ねた傷薬が用意されている。
 これは外傷に関して、生成コストが従来の秘薬の十分の一でなおかつ水の魔法の効果を倍増させる。ルイズが、怪我人を効率よく治療させるために開発したものだ。
「ギルス副隊長」
 俺は第一大隊の副官を呼ぶ。
 ギルス・ウェーダ・セシド・ド・エルモンティス。
 ヴァルガード家の近くに領地を持つ、伯爵家の息子で、俺より年上である。
 特徴的なのは銀髪の髪に、右頬の切り傷だ。
 土のトライアングル。錬金の使い手でもある。
「はっ」
「このまま風の結界にいるだけでは、大した損害を与えず敵が逃げ出す。結界からの攻撃をメイジ部隊は三個小隊、後衛部隊は五個小隊で継続。残りを側面からの攻撃。
 側面からの攻撃部隊は君に一任する。
 攻撃合図は私の火の魔法だ。爆発が起こる。その後、側面からの攻撃部隊の指揮を取ってくれ」
「は! 各員に継ぐ!」
 俺の指示を復唱して、伝令を行う。
 メイジ部隊は第四から第六小隊が、後方部隊は四個小隊が側面からの攻撃として移動を開始した。
「さて、俺も合図になる援護攻撃をするか」
 俺はそう言って、詠唱を唱える。
 これは土、風、火のトライアングル魔法だ。
 空気中の酸素を水素に変える。酸素と水素を一対三の割合で成人の頭くらいの大きさに圧縮、それを逃がさないように風でコーティングし、周りを火で包んだ魔法だ。
 水素爆発が強力なのは、化学で習った知識だ。基礎的な知識であるが、魔法が使えればとてつもないものになる。
 詠唱を終えて俺は敵部隊の中心を狙う。
「バースト・ブリッド!」
 炎の玉を放った。
 風の結界を抜けて、そのまま敵部隊の前衛部隊を飛び越える。
 敵部隊の前衛と後衛の間くらいに着弾した。
 その瞬間、小さい太陽のような強烈な光と、とてつもない熱と爆風が吹き荒れた。
 周りの木々も燃えている。敵部隊は突然の事態に混乱する。
 そこにすかさず、側面からの攻撃部隊がなだれ込んだ。
 数の差は以前、五倍以上はあるものの俺は手ごたえを感じていた。
 有利な攻撃もやはり数が少ないと厳しいものだ。
 再度与えた混乱も十分と経たず、敵は陣列を再度整えて攻撃してくる。
 ノルンも風の結界を維持するのが、厳しくなり今は解除された。
 結界を失い、なおかつ敵の攻撃が激化すると、さすがにこちらが不利になる。
 側面攻撃部隊を引き上げさせて、合流した
「各員、後退せよ! メイジ部隊はシールドで敵攻撃を凌げ! 前衛には私が出る!」
「マスター!」
「隊長、それは危険です!」
 ノルンと近くに居た兵士が止めようとする。
 しかし、敵前逃亡など出来るわけがない。ましては自分だけ安全な場所にいて指揮をしているだけでは尚更だ。
「後退するための時間稼ぎだ。あと少しすれば、アンリエッタ連隊が来るはず」
 そうなのだ。時間にしてそろそろアンリエッタ連隊が戻って来ても良い頃である。
 時間稼ぎはした。敵部隊に二千、一個連隊並みの損害を与えている。
 こちらも不意打ち、地形の利を生かしているとはいえ損害は決して小さくない。
 とは言え、二個連隊に対して二個大隊でここまで持ちこたえれば十分だった。
 アンリエッタ連隊と合流すれば、敵を敗走させることも全滅させることも出来るはずだ。
 俺は前線に出る。
 矢が、魔法が飛び交い、剣と剣の交わる音が響き渡っていた。
 俺の部隊にも被害が大きくなっている。
「ここは私が引き受ける! 全員後退しろ!」
 俺の言葉に、戸惑う隊員たち。
 小隊長らしき人間が、それ代表して口にする。
「しかし、危険では!」
「問題はない! 早くしろ!」
 俺が叱責すると、敬礼をして伝令していく。
 多くのものが後退し始めた。
「ノルン、俺だけなら結界も維持できるな?」
「もちろん! 使い魔の本分はマスターを守ることだからね!」
 そう言うと、ノルンは再び風の結界を俺のみに張った。
 これで俺は気兼ねなく魔法が撃てる。
 俺の周りに十個の光の弾が現れる。
 それを敵に向けて撃ち放った。 
「ライト・ブラスト!」
 光が敵に向かって、地面に突き刺さる。
 それと同時に爆発。土が吹き飛び、石が爆風で敵に襲い掛かった。
 すぐさま、敵も反撃してくるが全て風の結界に阻まれる。
 続けざまに、俺はライト・ブラストを二回、撃ち放つ。
 しかし、敵の勢いは衰えない。
「多勢に無勢だったか」
「マスター、諦めるのはまだ早いでしょ?」
「まあな」
 ノルンの顔がやや青い。
 精霊魔法の維持で、明らかに精神力を消耗していた。
 契約しているならまだしも、非契約状態の精霊魔法は精神力を大幅に要するらしい。
 そんな状態になりながらも、俺を守ってくれているのだ、ノルンは。
「まだまだ、ここは通せないな」
 俺はそういうと、杖を再度構えなおした。
 その時、俺の後方から光が敵に向かって放たれた。
 着弾と共に爆発。
 すかさず、矢が俺の頭上を越えて敵を貫いていく。
 俺が振り向くと、そこには体勢を立て直した第一大隊がいた。アンリエッタ連隊が駆けつけて来たのだ。
 その先頭にはユニコーン。
 そうアンリエッタが杖を構えていたのだ。
「全員、アレス第一大隊長を援護!」
 その声と共に、光が、風が、炎が一斉に敵に降り注ぐのだった。
 その援護攻撃に俺は一気に後退する。
 後退するのと入れ替わり、アンリエッタ連隊が突撃していく。
 すれ違いざまに、俺はアンリエッタに睨まれた。
 どうやら、俺の部隊だけ敵を足止めしていたことに怒っているのだろう。
 まあ、俺にとっては勝利の女神がやって来たに等しい。後で存分に怒られることにした。
「アレス隊長、ご無事で」
「ギルス副隊長。現在の損害報告を」
「は! 前衛部隊、負傷者四十八名。うち重傷者十三名。後衛部隊、負傷者十名。メイジ部隊負傷者六十四名。いずれも軽症です。現在、衛生部隊が治療に当たっています」
「被害は中規模ってところだな。動けるものは後方支援だ」
「アンリエッタ殿下から待機の指示が出ています。第一大隊は休めとのことです」
「姫殿下がか?」
「そうよ」 
 その言葉に俺は振り向いた。
 そこにいたのはサイトと俯いているルイズだった。
「ギルス副隊長、皆に十分な休息。メイジ部隊から十名ほど交代で見張りを付けろ。戦況が悪くなるなら援護する。以上だ」
「わかりました」
 ギルス副隊長はそう言って敬礼して、足早に去っていった。
 気を利かせてくれたのだろう。
 いや、これから見る修羅場を見たくなかったのだろう。
「マスター、あたしも少し休むね。終わったら起こして」
「寝られるか?」
「寝る」
 そういうとノルンは俺の肩から離れてサイトの肩に乗った。
 サイトは、知らねえぞって顔をしてる。
「アレス」
 ルイズにしては低い声だ。
 俯いたままのため表情は見えないが、どう考えても怒っていた。
「ルイズ、僕が悪かったよ。でもわかってくれっ、!」
 目の前に火花が散ると、辺りに俺が叩かれた音が響き渡った。
 正直に言って痛い。
 たぶん、敵から攻撃を受けていた方が楽なんじゃないか? と言うほどだ。
「アレス、わたし言ったはずよ。あなたの側を離れないって。それが、無理やり第五大隊と合流させられたと思ったら第一大隊は、敵をひきつけて残った、ですって?
 そんなに、わたしは頼りない?」
 睨み付けられていた。
 ルイズは涙を溜めた、悔しそうな表情で俺を睨みつけていた。
「いや、僕はそんなつもりじゃ」
「しゃべり方、戻さなくていいわ。普通にしゃべったら?」
 口調が荒い。
 本気で怒っているらしい。
「ふう……。上手く行かないもんだな」
「あの時、言った、わたしの意志を尊重するって嘘だったのね?」
「あれは嘘じゃない。だから部隊に参加しても何も言わなかったんじゃないか」
「でも、自分から遠ざけたわ。危なくなるからって」
「戦略的な部分もあるんだ。万一、俺の読みが外れれば合流は遅くなる。アンリエッタ連隊には少しでも優秀な衛生兵が必要だ。
 それを考えると、ルイズにはアンリエッタに付いていて貰った方がいい。
 戦争に来ている以上は、俺よりアンリエッタを守って欲しいんだ。
 アンリエッタにはそれが何よりも力になる」
 少し卑怯だがアンリエッタを出しにする。
 話を刷り変える意味もあるが、ルイズにしてもアンリエッタを守りたい思いがあるから利用させてもらった。
「だからって……。心配したんだからね! アレスの部隊が残って敵を引き付けているって聞いて! 怖かったんだから、もし前みたいなことになったらどうしようって!」
「それは悪いと思っている」
「だったら、もうわたしを離さないで! わたしだって役に立ちたいし、アレスの支えになりたいんだから!」
 そこまで言うと、ルイズは俺に抱きついてきた。
「馬鹿! アレスの馬鹿!」
 そう言って、俺の胸を叩く。
 結構、力が篭っていて若干痛みを感じる。
 だが、俺はそれを甘んじて受けた。
「すまない」
「次はどんなこと言われても側にいるから!」
「わかったよ」
 俺はそう言ってルイズの頭を撫でるのだった。
 第五要塞防衛戦は勝利で飾った。
 二個連隊率いた、レコン・キスタの部隊も奇襲と、合流した連隊の攻撃で後退しざるを得なかったのだ。
 とは言え、連合軍の当初の作戦は失敗。第五要塞に、再び全軍が集った。
 第五要塞を襲撃されたことに、若干の動揺が見られたがウェールズ皇太子がそれを見抜いていたことを言うと逆に士気が高まった。
 敵を欺くならまず味方から。
 ごく少数の味方のみで敵を掃討したのだと。
「これらの事実は、我々に勝利があることを確信することだと思うが、皆はどうだ!」
 ウェールズ皇太子がそう叫びと再び歓声があがる。
「我々は勝つために戦う。これはその第一歩なのだ!」
 ウェールズ皇太子の演説に、ムードは最高潮に高まる。
 この勢いで明日進撃することをウェールズは力強く告げるのだった。 
 演説が終わり、俺はウェールズ皇太子に呼ばれて、彼の部屋に行く。
 ルイズも来ると言って、離れないため仕方なく連れて行くことにした。
 ウェールズ皇太子が待つ部屋に着くと、ノックして入った。
「アレスです。入ります」
「ああ、そこに座ってくれ」
 そう言って部屋の中央にある椅子を勧めてくる。
 俺とルイズが座ると、向かい側にはウェールズ皇太子が、座った。
 ウェールズは俺の隣に居るルイズを見ると、あいさつをする。
「ちゃんと挨拶するのは始めてだね? 僕はウェーズ・テューダだ。ミス・ヴァリエール」
 ルイズは自分の名前を呼ばれると、やや驚いたように言う。
「知っていらっしゃるのですか?」
「アンから聞いているよ。彼女の友達なのだろう?」
「はい」
 ウェールズ皇太子は俺の方を見て頭を下げる。
「アレス君、すまなかった」
「ウェールズ、気にしないでよ。あれは僕の提案じゃないか」
 ちなみに口調はアレスに戻した。
 さすがに、ルイズはともかく他の人間の前では俺はアレスであるからな。
「確かにそうなんだが、僕と君しか知らなかったと言うのは少々まずかった」
「アンリエッタかい?」
「まあ、ね。そんな大事な話をどうして自分に話さないんだって怒られてしまったよ。
 君も、可愛いフィアンセに怒られたって話だしね」
 そう言って、ウェールズ皇太子はルイズを見る。
 ルイズはやや恥ずかしそうに俯いた。
「そう言えば、アンリエッタはどうしたんだい?」
「アンなら、ヴァリエール公爵と君の父君と一緒だと聞いているが?」
 細かい打ち合わせをしているのだろうか?
 まあ、アンリエッタまで居たら俺はかなり怒られただろう。
 彼女も結構、気性が激しいからな。
「僕がここに呼ばれたわけは、例の?」
「ああ。君のおかげで少しは絞れたよ」
「ウェールズ様、それは裏切り者がいると言う事ですか?」
 ルイズには事のいきさつを話す関係上、全て伝えてある。
 裏切りものだなんて、なんて恥知らず!と怒っていた。
 ルイズは、貴族については俺の影響のせいか、それ程拘りはしない。
 しかし、それとプライドはまた違った。
「彼女に話したんだね?」
「話の都合上、ね」
「そうか。まあその通りなんだ。アレス君のおかげで何人か尻尾を出してきたよ。この師団に少なくとも数百人はレコン・キスタに関わりがあるものがいる。
 君達の連隊にも、第三大隊に怪しい人物がいると聞いた」
「やっぱり。でも目立ったことは出来ないから少しは大人しくするんだろうね? 何せ完璧に第五要塞を落とすはずが、逆に返り討ちにあったんだから」
 こっちとしてはこんなに上手く行くとは思わなかった。
 被害は出たが、結果オーライだ。
「ああ、そうだろう。アレス君のおかげだ。ありがとう」
「いや、構わないよ。怪しいと思われる人物への尋問等はどうするんだい? 必要なら僕がやっておくよ?」
「少しの間、泳がせておくよ。それより、明日の勝利に乾杯と行こうじゃないか」
「ウェールズ様、お言葉ですが明日は進軍されるのですが?」
「ミス・ヴァリエール。堅いことは無しにしよう。何、軽く飲むだけだ」
 そう言って、ウェールズは手を叩き使用人を呼ぶのだった。
 翌日、第二師団とアンリエッタ連隊はレティバーミン第一要塞へ向けて進軍。
 多少の疲れがあるが、ウェールズ皇太子の演説に士気を上げている今の連合軍に怖いものは無かった。
 レコン・キスタの方は、すぐに進撃してくるとは思っておらず準備がままならないままの戦闘に取り乱し、結果は敗走。
 しかし、戦闘自体は激しく決して互いに楽な戦いではなかった。
 それでも、連合軍の方が被害は少ない。
 飛翔弾の活躍もあったからだ。
 戦闘開始前に、千を超える飛翔弾を放ち、第一要塞を守る前衛部隊に大打撃を与えたのである。
 この戦いで、飛翔弾を用いた戦法の有用性が認められて、正式に採用されることになった。
 最終的な被害は、連合軍が約二千の損害。
 レコン・キスタには約四千五百程の損害を与えたのだった。