死の先に待っていた新たな世界
第16話


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 アルビオン王国、ニューカッスル城。
 レコン・キスタに追い詰められたアルビオン王国最後の砦でもある。
 アンリエッタ連隊が降り立つとアルビオン王国、国王ジェイムズ一世とウェールズ皇太子が出迎えた。
 ウェールズ皇太子は、アルビオン、トリスティン連合の連合軍総司令官でもあった。
 アンリエッタを中央に、第一大隊から第五大隊までが整列する。
 自身の杖を翳してアンリエッタは到着の報告をすると、ジェイムズ一世、ウェールズ皇太子にひざまつく。
 ウェールズ皇太子が、歓迎の辞を述べ、ジェイムズ一世がアルビオンとトリスティンの同盟による戦の勝利に向けたスピーチがされた。
 スピーチが終わると解散になる。
 各大隊はニューカッスル城の周辺にキャンプを張った。
 出陣は明日。
 目指すはレティバーミンの街だ。
 俺は第一大隊を集めると、簡単に明日の予定を告げて解散させるのだった。
 第一大隊、第一キャンプ。
 小隊毎に密集していくつかテントを張っていた。
 第一キャンプは、メイジ部隊がいる。
 そこの一つのテントに俺とサイトはいた。
 ちなみにルイズとノルンは隣のテントである。
 テントを分けたのは、ルイズは女の子だからだ。
 間違いはないとは思うが、ここは学院じゃない。変な目で見られても面白くないから分けておいた。
「戦争なんだな」
 サイトが、寝袋の上に胡坐をかき剣を見ながら俺に言う。
 今のサイトの格好はいつもの服装に、上から動物の皮で作った胴着をきている。
 サイトはルイズ専属の剣士として俺と共に居るのだ。
「まあね。緊張すると思うけど、気をしっかり持っておかないとダメだよ?」
「わかっているんだけど、今更ながら震えてくるんだ。
 戦うことはいいんだ。実際、訓練を受けたときは問題なかったからさ。
 でもよ、今度のは本物の戦争だ。誰かを殺すのを躊躇ったら俺がやられるか、ルイズがやられるんだ。
 そう考えるとめちゃくちゃ怖えんだ」
 サイトにもルイズ専属の剣士である以上、訓練を受けてもらった。
 平民の剣士の中には、メイジ殺し並の腕前のものもいる。
 だから、サイトに稽古をつけてもらったのだが、サイトはガンダールヴの力もありいい勝負だった。
 しかし、今度は本物の殺し合いである。
 怖がるなと言う方が無理だった。
「サイト君、その剣を抜いてみたかい?」
「ああ。抜いたよ。正直、身震いしたぜ」
「実はそれ、人を切るように作ってないんだ」
「は?」
 俺の言葉にサイトの顔が疑問で呆ける。
 まあ、普通剣は人を切るものだからな。
「ルーンで情報を見てないのかい?」
「あ、そういやまだちゃんと発動させてないな」
 どうもガンダールヴのルーンは武器ではないものを武器と認識するとルーンが反応して、また逆もある。
 武器だと思わないと反応しない場合があるらしい。
 試しに、フォークや食事用のナイフを武器として使おうとさせたらルーンが反応していた。
「あ、ホントだ。これは斬れないない剣だ」
 サイトのルーンが光っていた。
 これによって俺が渡した剣がどういうものかを理解しただろう。
「どう戦えばいいかはわかったよね?」
「ああ。これは殺さない剣だ。あくまで守るための剣で、攻める剣じゃないだな。
 戦闘になったら鈍器扱いだ」
「そういうこと。君のルーンなら使いこなせるよ。殺さずに意識を奪うだけ」
「少しだけホッとするな。人殺しなんてしたくないからさ」
「戦争は人殺しが英雄だよ。何人殺したかで、胸につく勲章の数が決まるんだ」
「馬鹿げてるよな。学校でも習ったけど、一人殺すと殺人でも戦場なら殺し多分だけ英雄だ」
 そう。
 戦争は人を殺すのが正当化される。
 敵だから、殺さなければ殺されるから、殺していいのだ。
 本来はどんな理由であれ殺していい事はない。
 だけど、戦争はそうじゃなかった。
 だから、戦争では兵士は兵士として訓練しないとならないし、人の心を持ったまま人を殺すのは辛い。
 戦うときは、自分自身が戦いの道具と認識するしかない。
 ベトナム戦争から帰還した兵士が日常生活で支障を来たすのも、兵士としての教育が一部影響しているとも言う。
「アレスは、人を殺したことがあるのか?」
「僕もまだ無いね。傷つけたことならいくらでもあるけど、命までは奪えなかった」
 ただし、俺の発案は人の命を奪うものばかりだが。
「まあ、僕も今回は戦争だから、ある意味覚悟は決まってるよ。
 僕は人を殺す。だけど、殺した人の分まで生きるって決めてる。
 罪は罪として背負って生きて、語るしかないからね」
 戦争であっても殺したら、その人の人生を、これからの可能性を奪うことになる。
 その辛さから逃げるのは簡単だけど、消えはしないんだ。
 真正面から受け入れて、その人たちの分まで生きる。
 あとは、戦争の愚かさを俺が生きて、語るしかない。戦争に正義はないと。
 もっとも戦争を仕掛けるよう進言したのは俺だから、俺が一番罪が重いんだろうな。
「お前はホント、達観してるよな。って、見た目はともかく先輩だったか」
「まあね。伊達に五十年近く生きてないよ。一回死んだけど」
 前世じゃ、人は愚か動物さえ殺すことなど無かった。
 虫は、まあ仕方ない。
 奪っていいものじゃないが、すまないとしか言えないのだ。
「アレス、サイトいる?」
 ルイズがテントの中に入ってきた。
 肩にはノルンが居る。
「マスター」
 ノルンがルイズの肩から離れると、俺の肩に座った。
「やっぱり、マスターの肩も座り心地がいいわ。ルイズの肩はふわっとした感じだけど、マスターのはこうどっしりとしてるわよね」 
「そうなのかい?」
 俺がルイズを見て言うと、そう言っていたと答えが返ってくる。
「それより、アレス。サイトもだけど、わたし達って基本は後衛なのよね?」
「そうだね。衛生兵だから、後ろで待機していてもらわないと」
 そう。ルイズとサイトは後衛も後衛だ。
 サイトはそれでも多少は前に出ることになるだろうが。
「ワルド様に言われたんだけど、本当は戦場に来るべきじゃないって言われたわ」
 やや俯き加減で、ルイズは言う。
 彼はルイズを第一に思っているからこそ、戦争に参加はさせたくないだろう。
 それは俺も同じだが、ルイズの意志が意志なら反対しても逆効果だった。
「ワルド子爵の言うことはもっともだよ。それでも、僕はルイズの意見を尊重するけどね」
「ま、それで俺もここに来る事になったわけだけど」
「サイトには悪いって思うわ。でも、サイトが背中を押してくれたからなのよ?」
「それは分かってるって。ルイズの泣き顔なんて見たらああ言うしかなかったから」
「サイトは使い魔としては、アレだけど人としてはいい事言うわ。まあ、戦争じゃなければなおいいアドバイスだったけど」
 ノルンがそういうと、サイトが言葉を詰まらせた。
「まあ、その話は止めにしよう。サイト君もここに来る覚悟はしてたんだし」
「自分のご主人様だけ、危険な目に合わすなんて出来ねえからな。それ、男として退けないときもあるし」
 サイトは真剣な顔で言う。
 サイトの言ったことは、確かに一理あった。
 だが、俺としては出来れば二人とも待っていて欲しかった。
「失礼します。第一大隊長のアレス様はこちらでしょうか?」
 その時、一人の兵士がテントの中に入ってきた。
 伝令兵らしい。
「僕が、アレスです。何か伝令ですか?」
「ウェールズ総司令官からアレス様を呼んでくるようにといい使わされております」
「総司令官が? わかりました。すぐに伺います。案内を頼めますか?」
「はっ。畏まりました!」
 伝令兵はそう言って敬礼すると、テントの外に出て待機をする。
 俺は、みんなにちょっと言ってくると言ってテントを後にするのだった。
 ニューカッスル城の応接室。
 俺はそこに通された。
 伝令兵は部屋の入り口で下がった。
 ドアをノックすると部屋から入室するように言われて俺は中に入る。
 中にはアンリエッタとウェールズ皇太子が備え付けの椅子に座っていた。
「アンリエッタ連隊。第一大隊、隊長。アレス・ジルアス・ド・ヴァルガードです」
 俺はそう言って敬礼をする。
 一応、今は軍人だ。上官になる二人に無礼なことは出来ない。
「アレス、そんなに畏まらなくともいいですわ」
「アレス殿、君を軍人として呼んだわけじゃないから、もう少し楽にしてもらいたい」
「そうですか。わかりました」
 いつもの口調に戻す。
 それから、椅子を勧められてそこに座る。
 俺は目の前のテーブルを挟み、アンリエッタとウェールズ皇太子と向き合うようになる。
「まずはお礼を言わせてもらえないか?」
 ウェールズ皇太子はアンリエッタを見てそういう。
 アンリエッタは少し頬が上気しているのが分かった。
「お礼? ですか?」
「そうとも。君がアンリエッタに自ら赴くことを提案してくれたと聞いたのでね」
「ああ、それでしたか。確かに、姫殿下にはそう進言しました。それを決めたのは他でもない姫殿下であって僕ではありません」
「謙遜しないで、アレス。あなたのおかげで、わたしはこうしてウェールズ様とお会いすることが出来たのよ」
 そう言って、二人は嬉しそうに見つめあう。
 しかし、俺は本当のことしか言っていない。むしろあの場でアンリエッタが指揮を執るというのは想定外のことだったんだ。
「しかし、姫」
「アンリエッタと呼んでいるのだろう? 僕に遠慮しなくていい。それに敬語も止めたまえ、今ここに居るのただのアンリエッタとウェールズだ」
 ウェールズ皇太子が、そう言って笑う。
 俺はそれを聞いて、向こうの意志を汲み取った。
「それじゃ、普通に話させてもらうことにするよ。ウェールズ皇太子は何と呼べば?」
「そのまま呼び捨てにしてくれて構わないよ。アレス君」
「それじゃ、ウェールズで。けど、どうしてなのかい? 僕の父はトリスティンで侯爵家で位は高くても、公爵家には劣るしウェールズと比べると身分の差は結構あるんだけど?」
 そうは言いつつもそのまま呼び捨てにする。
「僕はね、アレス君。僕とアンを引き合わせてくれた君と友人になりたいんだ。
 それに、君は頭が切れるというじゃないか」
 頭が切れるわけじゃなくて、単に経験によるものなんだが。
 否定しても仕方ない。
「僕が友人なんて、いいのかい? ウェールズは一応、皇太子なんだけど?」
「気の許せる友なんていないからね。臣下の皆はあくまで臣下としての立場でしかないんだ。
 僕の求めるのは友なんだよ。アンリエッタと君との関係のように」
「ウェールズがそういうなら。プライベートの時は友人として会わせてもらうよ」
「ありがとう」
 ウェールズはそういうと笑顔で礼を言うのだった。
 その後は、三人で軽く談笑すると、翌日の事もあり解散する。
 城から外に出ようとした時、俺はウェールズに引き止められた。
「どうかした? ウェールズ」
「実は、君に折り入って頼みがあるんだ」
 その顔は真剣で、俺の目を見ていた。
 俺は周りを見て。
「どこか聞かれない場所は?」
 そう尋ねるのだった。
 翌日、アンリエッタ連隊と、ウェールズ率いる中隊がともにレティバーミンの街へ出発。
 その日の夕方にレティバーミンの街について、街に隣接した臨時駐屯地で野営する。
 部隊を整えて、さらに翌日に第五要塞へ。
 そこで、集結した第二師団と合流したのだった。
 レティバーミン第五要塞、作戦会議室。
 収容人数は百人程の部屋に、各連隊長、大隊長、中隊長が集まっていた。
 作戦を指揮するウェールズ皇太子が、ヴァリエール公爵から作戦の内容を聞いて全員に伝えていた。
 作戦開始は、明日の日没。
 夜間の戦闘は向こうも得意とするところだが、連合軍が日没に作戦行動をすることは今までなかった。
 すでに、敵が確保する要塞への諜報活動は終えていた。
「現在、レコン・キスタの部隊は二個大隊を各要塞に留めて、全てレティバーミン第一要塞へ集結している最中だ。
 向こうが守る二つの要塞を明日一気に奪い返す。
 その後、すぐにアンリエッタ連隊が先頭に立ちレティバーミン第一要塞への攻撃を開始する。
 この作戦はスピードが要するため作戦は三日以内で終了。
 もし、レティバーミン第一要塞を落とせない場合を含めて、いかなる作戦が失敗した場合でも速やかにレティバーミン第五要塞へ帰還し、ここを守りとする」
 ウェールズがそう言うと会議室を見回した。
 誰も質問で手を上げるものはいない。
 俺も含めてアンリエッタ連隊は事前に話を聞いているし、他のものも特に無いようだ。
「質問が無いなら、各連隊にて打ち合わせをするように。以上」
 会議が終わり、各連隊が受け持つ内容を打ち合わせる。
 俺達が行う作戦は、各連隊がそれぞれ四つの要塞を落としている間に第一要塞を攻め入る準備を整えることになっていた。
 伝令が来ると同時に、第一要塞への奇襲を開始。
 敵前衛部隊を惹き付けて側面から他の第二師団が二手に別れて襲撃する手はずになっていたのだ。
 アンリエッタから、その旨を再度確認を受けて解散する。
 翌日、アンリエッタ連隊は第二師団が進軍するのと併せて出発をした。
 出発は第五大隊を先頭に、降順に出発。
 アンリエッタは第五大隊と共に出発をしていた。
 そして第二大隊が出発する時、俺は第二大隊の隊長にあるものを托した。
「しかし、それではアレス殿!」
「ウェールズ総司令官からの命令です。この手紙を姫殿下に合流した時にお渡し下さい」
「そうですか……。それでは御武運を」
 そう言うと第二大隊は第一大隊を置いて、出発するのだった。
「マスター……。危険よね? この作戦」
「そうだな。みんな了承してくれたとは言え、無茶な戦いになる」
「ルイズ、ごめんな。サイト、ルイズの事は任した」
 ルイズとサイトはアンリエッタと共に行かせた。
 俺専属の衛生兵とは言え、何があるか分からないから一緒に行かせた。
 ちなみに、第五大隊のうち一個中隊が衛生兵の部隊である。
 サイトにはこれから俺がすることは話してある。
 かなり反対されたが、何とか抑えた。
 これを行わないと、こっちが不利になる恐れがあるのだ。
「マスター、無茶しないでよ。あたしも力になるから」
「ある意味、ノルンが居れば怖いものはないってとこだな」
「精霊魔法だって、万能じゃないんだよ? 守りに適しているから良いけど」
「だから、俺が残ったんだけどな」
 俺がアンリエッタ連隊から一部隊だけ残った理由。
 それは、ウェールズ皇太子とのニューカッスル城での話しにまで遡る。
 折り入って頼みたいことがある。
 その言葉を聞いて、俺はウェールズ皇太子の部屋に行った。
 彼の部屋は質素だった。
 恐らく、この戦争で必要最低限のもののみ残したのだろう。
 同盟を組んでいるとは言え、トリスティンも金持ちではないのだ。
 アルビオンがお金を出せないと戦列を整えるのは難しかったのだろう。
 俺とウェールズ皇太子は、窓の近くにある椅子に向かい合う形で座った。
「それで、頼みごとって何なのかな?」
 俺が切り出すと、ウェールズ皇太子は言いずらそうにしながら重い口を開いた。
「実は、レコン・キスタは現在のアルビオン、トリスティン連合軍とも接触をしているという話を聞いたんだ」
「それは……」
 内通者がいる。
 そうなのだろう。
 そして、ウェールズ皇太子も頷いて続けた。
「裏切り者がいるようなんだ。事実、ここ二、三ヶ月の戦いはほとんどが先回りをされるような戦いだった。
 全部では無いが情報が確実に漏れていると考えられるんだ
 そこで、アレス君にあぶり出しが出来ないかと思ってね」
「アンリエッタから何を聞いているのか知らないけど、買いかぶりすぎてない?」
「いや、君は自分を過小評価しているんだ。話を聞く限り、今回の作戦の大本はアレス君だと聞いているよ。
 それに、創造の二つ名を持っているじゃないか。
 平民の兵に少しでも強力な武器をと連式弓を作った。君は頭がいい」
「参ったな。そこまで評価して貰えているなんてね。
 でも、やっぱり過大評価だよ。あんなのは。
 とは言え、あぶり出しの件は引き受けるよ。誰の手も掛かっていないと思われる僕だから頼みたいんでしょ?」
「そういうことだね。アレス君、無茶を言うようで悪いと思うが」
「いいよ。それに僕も多少は考えていたんだよ。内通者に関しては」
「そうなのかい?」
「確証は無かったんだけど、レコン・キスタを支持する考えが徐々にだけど広がっているなんて噂を聞いていたからね」
「そうだったのか」
 内通者、裏切り者はいつの時代もいる。
 俺自身も学院に居たからあまり聞かなかったが、部隊を編成した際に部下からそんな言葉を聞いたのだ。
「ちなみに、そうなるとこの作戦も失敗に終わりそうだね」
「やはりそうか?」
「だったら、裏を掻くしかないか。ついでにあぶり出しも」
 そう言って語ったのは、向こうが情報を掴んでいた場合の行動だ。
 恐らく、四つの要塞のうちいくつはくれてやろうと向こうは考える。
 これは、第五要塞を落とすのに兵を回すためと、第一要塞の守りを固くするため完全には押さえ切れないと考えるからだ。
 事実、レコン・キスタは二個大隊を残して引き上げている。
 場合によってはその二個大隊も直前で引き上げるなどして、四つの要塞が全て丸裸で渡すこともありえる。
 こちらの第五要塞も全くの丸裸と言うわけには行かないため、一個大隊くらいは残す。
 そこを攻めることを考えて一個連隊から師団レベルで兵を使ってくる。
 こっちは襲って来るとは考えていないために、油断していると思うのだ。
 だからこそ、俺の部隊を残す。
 第五要塞を襲撃する部隊を左右から襲撃して敵を混乱させて、撃退だ。
 混乱したところを第五要塞を守る部隊が正面から攻撃する。
 多少の戦力差はそれで何とかなるだろう。
 その作戦をウェールズに聞かせると、渋い顔をして俺を見る。
「だが、それだと君が危険なだけであぶり出しにならないのじゃないのか?」
 そう、あぶり出しにはならないのだ。
 これはあくまで情報が漏れていることを知っているというアピールでしかない。
 だが、そこに俺には考えがあった。
「この事は僕らしか知らないから、ある程度あぶり出せるんだ」
「どういうことだい?」
「僕の部隊は残るけど、あとで連隊全部に戻ってきてもらうんだ。手紙と伝令でね」
「手紙と伝令で?」
「そう。アンリエッタの性格は知っているよね?」
「知っているつもりだけど、それは君の方が詳しいんじゃないのか?」
「まあね。で、手紙はウェールズに書いてもらいたいんだ。
 内容は、僕が敵をひきつけるのに残っていること。
 助けに戻ると皆に宣言すること。
 伝令で第五要塞が襲われていることを言えば、助けに行こうとするからね。
 そして、そこに反対してチャンスと言って進軍をさせるものが内通者の可能性がある。
 何せ、作戦失敗時は第五要塞に戻ることになっているんだから、さ。
 チャンスじゃないし、作戦通りなら戻るのが筋でしょ?」
「そうすると、あとは、その反対するものを監視すればいいと言うわけかな?」
「そんなところだね」
「だが、それでは他の部隊はどうなるんだ? アンリエッタ連隊に裏切り者がいるとは限らないぞ?」
「ウェールズ、作戦失敗時は引き上げだよ? そっちの部隊にもそれを止める人間がいてもおかしくないじゃないか」
「似たようなことをいう奴がいると言うのか?」
「そうだよ。伝令は何もアンリエッタにだけ送るわけじゃないからね。
 各連隊長に、誰か反対をするものが居なかったか聞けばいいんだよ。
 何せ、情報が漏れるにしても下っ端じゃ厳しいよ。
 ある程度、そう中隊長くらいなら出来るでしょ?」
 作戦を兵に伝える役割の人間が知らないと、事前に作戦を知りえない。
 だとすると、会議に参加できる中隊長以上が裏切りの候補だ。
「ふむ。そうすると今回の作戦は始めから成功しないってわけだ」
「内通者がいるって聞いちゃうと、ね。成功しないよ。むしろあぶり出しは出来るから」 
 とは言え、参ったものだ。
 最初から作戦が駄々漏れじゃ、負け戦だ。
 この話を聞かなかったら第五要塞が落とされていた可能性があるし、そっちへ軍を戻すにも挟み撃ちになる可能性があった。
「上手く行くか?」
「行かさなきゃダメだね。挙動不審な人間をあぶり出すためにさ」
 ウェールズ皇太子はそれに対して頷くのだった。 
 
 第二師団が、二個大隊残して全軍が進軍した。
 俺は、残った二個大隊に敵が襲撃してくる可能性があることを伝えて、迎撃準備をさせる。
 第一大隊は二手に別れ、ここに第五要塞へ通じる街道の左右にある林に部隊を展開した。
 右翼を俺率いる兵三百が、左翼は副官が率いる三百の兵で待ち構えた。
「アレス隊長」
 そこに、中隊長が一人俺のところへやって来た。
「どうしました?」
「街道の先より、二個連隊が進軍しているとの情報がありました。
 隊長の言うとおり、手薄になる第五要塞は標的だったようです」
 中隊長がそう言うと、やるせない顔をした。
 俺は裏切り者がいる可能性を、中隊長には話しておいたのだ。
「わかりました。左翼の部隊と第五要塞の部隊に伝令を。攻撃準備をするようにと」
「了解しました」
 中隊長はそういうと、部下に伝令の事を伝えるのだった。
 しばらくして、二個連隊が街道を通る。
 楽勝だと思っているのだろう。
 笑いながら敵は街道を歩いていく。
 後方の一個連隊の後尾が通り過ぎようとした時、俺は合図として部隊に矢を射るように命じた。
「撃て!」
 百を超える矢が一秒の間に二回放たれる。
 戦いが始まったのだ。