死の先に待っていた新たな世界
第14話


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 ヴァルガード家、応接間。
 俺はエレオノールとここにいた。
 どうしてか?
 実は、戦場に行くのが決まって慌しかったためにアカデミーに顔を出すことが出来なかったからだ。
 アンリエッタの発言で急遽出兵することになったのだから。
 王宮を出る前にエレオノール充ての手紙を使いの人間に預けるのが精一杯だった。
 内容はルイズの件で緊急の用がある事、戦場に行くためこちらから出向けない事、出兵の準備で四日後にはヴァルガード家に居る事の三点を伝えた。
 こうしてエレオノールと会うことがようやく出来たのである。
 ちなみにノルンは話が長ったらしいから寝ててと言ってある。
「全く、急な話だったからアカデミーを出るのに手間が掛かったわよ」
「すみません。姉さん」
 結婚するに当たって、エレオノールからは姉と呼ぶように言われていた。
 何でも義弟にそう呼ばれてみたいらしい。
「いいわ。可愛い義弟が呼んでくれたのだから、ね?」
 意味ありげに笑うエレオノールが、やや怖い。
 やや冷や汗を垂らしつつ、彼女の意識を別の方に向けることにした。
「姉さんに来てもらったのは他でもありません。
 ルイズの使い魔が伝説のガンダールヴでした」
「なんですって!」
 俺の方に乗り出すような形で椅子から立ち上がった。
 虚無関係の話になれば、急に呼び出した怒りも吹き飛ぶ。
 ヴァリエール家の中でも、カトレアとは別の角度からルイズを心配しているエレオノールだからこそだ。
「つまり、ルイズは虚無ってことになるのね?」
「はい。未だ何がきっかけに覚醒するか分からないのですが、使い魔がガンダールヴとなれば虚無の担い手であるのは確実です」
「参ったわ。結局、十歳だった頃のあなたの予想が的中したわけね」
 椅子に力なく座りなおすエレオノール。
「まあ、どの系統の魔法も爆発してしまっては、考えられる選択岐はほとんどありませんでしたから。
 考えられるのは未知の系統、もしくは虚無しかないんです。
 始祖ブリミルと同じ系統だと言うのが恐れ多いと考える大人でないからこその考えでしたよ」
 もっとも始祖ブリミルも人間だろうに。
 ある意味、同じ人間を恐れることがあるが、神のように崇めるのは間違っている。
 第一、なぜブリミル教なる教えが出来るのか、不思議でならない。
 至らぬ弟子が始祖を神格化したのがそもそもの間違いだろう。
 神格化は人間に冷静な判断を奪う。
 本来であれば爆発が虚無の担い手と言う立証も、ちゃんと出来ただろうに。
「全く、恐れ多いこと。あなたはすでに爵位を持って家を頂いてもおかしくない歳でしょう?
 いつまでも子供のようにしてはいては臣下に示しが付かなくてよ?」
「いいえ。常に論理的思考と言うのは必要なことです。
 そうで無ければ、ブリミルのために犠牲になりなさいと言われて平気に自分の命を粗末にしてしまいます。
 信じることは必要ですが、妄信的になるのは単なる愚か者でしょう」
 信じるものは救われる。
 そんな子供だまし、信じるわけにも行かない。
 信じているから救われるのではなく、信じて行動する中で未来を切り開くのが本来の宗教の役割だ。
 最も学問としての考え方で信仰の有用性は説かれてはいる。
 事実、信仰を通し、祈ると言う行為によって信じる力を一点に収束し自分本来の力を発揮出来る。
 これはアメリカの深層心理学者が、すでに立証済みだ。
 自分自身を信じられない人間が、自分の力を発揮することなど不可能としか言いようが無い。
 その自分を信じるのに使うフィルターのようなものだ。
 本来の宗教とはそういう自分自身の力を最大限に発揮するものと言う説を唱える学者が増えている。
 神のためにと言って自分の命を粗末にするのは単なる馬鹿のお手本でしかない。
 それをこの世界で説明しても誰も聞きはしないだろうが。
「始祖ブリミルが聞いたら、なんて言うのでしょうね?
 まあ、それはいいわ。
 ルイズが虚無と分かった以上、次にすることは決まっているわね」
「はい。虚無の覚醒の手段を見つけて、それの封印。もしくは覚醒自体を防ぐことです」
 その言葉に、エレオノールも頷いた。
 なぜ、覚醒の手段を封印、もしくは覚醒を防ぐ必要があるのか?
 それは力の悪用を防ぐためである。
 ルイズは今現在、コモンスペルは不自由なく扱える。
 また、日常生活においてはコモンスペルがあれば問題ない。
 何より、秘薬の研究の道を進んでいるのだ。今更、虚無の力なんて要らないし、本人も望んじゃいない。
「これに関してはわたしの方で調べておいたわ。
 かなり古い文献の上に、古代語で書かれていたから少し解読に時間が掛かったけどね。
 一応、二千年前の文献だから多分、信憑性はあるわね」
「なるほど、さすがは姉さんです。
 やはり最初に姉さんに相談して正解でした」
「ふふふ、嬉しいこと言ってくれるわね。
 そうよ、わたしに掛かれば相手が始祖ブリミルの文献だろうと調べ上げて見せるわ!」
 余程、骨が折れたんだろうな。
 凄い、誇りを感じる。
「それで、その内容はどうでした?」
「虚無の力が目覚めるには三つの条件があったわ。
 最初は使い魔の召還。これはもうすでに終わっているわね。
 次に各王家が管理する始祖の秘法と王家のルビー。これらがそろって初めて虚無の覚醒が行われることになるわ」
 封印を解くような感じだな。
 ロールプレイングゲームでは在り来たりだ。
 どちらにせよ覚醒させるわけには行かない。
「トリスティンは水のルビーと始祖の祈祷書がありますね?
 つまりこれらがルイズの手元に行かなければいいわけですか」
「そうよ。そして、始祖の祈祷書だけなら王家の人間の結婚式で手にする可能性があるわ。
 トリスティンでの結婚式はどのように行われるかは知ってるわね?」
「はい。巫女が始祖の祈祷書を持って詞を詠うだったと思います。
 なるほど、ルイズがその巫女に選ばれるとなると祈祷書を手にしてしまうと?
 まあ、周りに知られなければ手元には揃う確率は低いですね」 
「油断は大敵よ? ヴァリエール家は公爵家なのよ。王族との関わりも多いわ。
 まあ、この事を知る人物は限られるでしょうから大丈夫でしょうけど、警戒は怠らないことね」
「わかりました。
 虚無の件はこれで終わりです。実は相談があと二つばかりありまして」
「何? この際だから聞いておくわ」
「ありがとうございます。
 一つはルイズの使い魔のことです。
 ガンダールヴであるのはもう言いましたが、実は少々問題がありまして」
「何があるの?」
「彼は異世界の人間です。しかもハルケギニアでは到底及ばない高度な技術を持った世界の人間です」
「それは本当なの?」
 意外にエレオノールは、冷静だった。
 ここでそんな馬鹿なというかと思ったのだが。
「はい。事実、彼の所持品の中にはこちらの世界で後、数百年は製造不可能な道具を持っていました」
 言っておくが、まだ俺はサイトのノートパソコンを弄っていない。
 暇があったらゲームでもやらせてもらおうかと思っていたんだが、そんな余裕はこの一週間無かった。
「そう……」
「驚かないんですか?」
「場違いな工芸品って知ってるかしら?」
「ええ。何でも使用用途が全く分からない代物だとか?」
「大まかは合ってるわ。でも、それだけじゃないのよ。
 場違いな工芸品は、その技術、精度、どれを取ってもハルケギニアでの製造は不可能なものばかりなの。
 これがどういうことかお分かり?」
「伝説の使い魔どころか、その道具すら異世界からやってくると?」
「そういうことね」
「それなら、話は早いですね。
 実は、その彼を出来れば元の世界に送り届けたいんです」
「は? 何を言っているの? 使い魔は死ぬまで主人と一緒でしょうが」
 今度は意味が分からないと、言った風に言われてしまった。
 やはりサモン・サーヴァントの特性がそう思わせるんだろう。
「姉さん、もし姉さんが勝手に召還されて、今日から使い魔だって言われて納得できますか?」
「出来ないわね」
「そうですよね? それと同じです。
 彼は異世界から来たとは言え、向こうに家族を残してきています。
 何でも、彼は向こうの世界で平民だったとは言え、僕達と同じく学院に通い、その後家族のため働く未来があったといっていました」
 そんなこと、言ってはいない。
 口から出任せである。同情を引くことで、何とか協力を取り付ける必要があるのだ。
 エレオノールも何かを考えている。
 無理やりに連れてこられたようなものだから、少しは罪悪感が沸くだろう。
「送り返すにしても、サモン・サーヴァントで呼び出しても送り返すことは出来ないわよ?」
 とりあえず、送り返すことには賛成らしい。
 ここからが本番だ。
「姉さん、サモン・サーヴァントは系統魔法じゃないですよね?」
「コモンスペルね」
「そうです。メイジなら誰でも使えるコモンスペルなんです。
 そのコモンスペルが世界の壁さえ、越える。この事に興味はわきませんか?」
 エレオノールは良くも悪くも研究者だ。
 研究課題は難題な方がいい。
 事実、俺の言葉にエレオノールは押し黙った。
「始祖ブリミルが開発したとは言え、たかがコモンスペルが系統魔法でも成し得ない異次元の扉を開くことが出来るんです。
 研究次第では、その逆を、もしくは異次元の扉を開け放つことが出来る魔法が作れると思いませんか?」
「ふふふ。アレス、わたしにそれをやれって言うわけね?
 研究魂に火を付けようって言うのね?」
 乗ってきた。
 エレオノールくらい優秀なメイジなら、この話に飛びつかないわけがないと思っていたのだ。
「はい。実は、僕は既にその研究を始めています。
 これが僕が考えている。異世界への扉の開き方の仮説をまとめたレポートです」
 そう言って俺は懐から紙を数枚綴ったレポートを取り出した。
 寝る時間を割いて、ワームホールの概念をまとめたものだ。
 もっとも数式は分からない。あくまで概念だけになる。
「このわたしより先に研究を始めるなんて、いい度胸ね」
「この方が姉さんも燃えませんか? 義弟に負けたとなれば、姉の威厳にも関わります」
「ホント、ルイズなんかに渡すのが惜しいわね。
 このわたしに研究で勝負を挑むなんてトリスティン広しと言え、あなたくらいよ」
 そうは言うが嬉しそうなエレオノール。
 最近、張り合いが無くて詰まらなかったのだろう
「姉さんは、僕の憧れですからね。常に追いつくのを意識していますよ」
 これは嘘じゃない。
 開発の仕事をしていた俺にしてみれば、エレオノールの実力には憧れる。
 この世界においての実力なら折り紙付だ。
「言うじゃない? ヴァリエール家に来たときは特別に夜の相手を許すわよ?」
「ね、姉さん、それは公爵様に知られたら僕はただじゃすみませんよ?」
「わたしが守ってあげてもよろしくてよ?」
 俺は、ある意味踏んではいけない地雷を踏んだのかも知れない。
 あまり思わせぶりな発言はこれから控えないと。
「あ、あとですね。その異次元の扉を開く前に、実験的にある二点を結ぶ魔法を開発が必要になります。
 例えば、自分の部屋から直接玄関への扉を開くとか。
 そういう魔法が作れると、異次元の扉を開く鍵になると思うんです」
「転移魔法ってとこかしらね?
 その魔法ならこっちでも研究中よ。ただ二点を結ぶという考え方はなかったわね」
「さっきのレポートにその考えもあります。
 僕の方でも研究を進めますが、姉さんに協力してもらった方が早いと思いまして」
「いい心がけね。わかったわ。
 可愛い義弟のためですもの、力になってあげるわ」
「すみません。よろしくお願いします」
「ええ。いつでもわたしのところにいらっしゃい。相手を勤めさせてあげるわ」
 男としては非常にそそられることだが、遠慮しておきたいところかも知れない。
 浮気などしたら、ルイズはともかくカリーヌ夫人が黙って居なさそうだ。
 俺はエレオノールの言葉に、ただ苦笑するしかなかった。
 その後、エレオノールは戦場に行くというルイズに言いたい事がある、と言ってルイズに会いに行った。
 夜も更けてきたのだが、叩き起こすつもりだろうか?
 
 トリスティン北部のタルブ領。
 ワインが名産地のここに、現在一万の兵力が常時待機している。
 他に、ゲルマニアに接するヴァリエール領に一万。
 ガリアに接する貴族の領に一万。
 それぞれ常時部隊が展開していた。
 そして、今回、アルビオンに派兵する数は二千だった。
 あくまで、今回の戦いは残存兵力を有効活用することだ。
 アンリエッタ連隊は、その先頭に立つことになっている。
 俺の部隊は、ヴァルガード家の私軍の一大隊だ。
 メイジの数は二百と少ないが、全員、俺仕込の新魔法の有効利用が出来るだけの技量がある。
 残り四百は平民からの徴兵だが、彼らはヴァルガード家の正規兵だ。
 こちらも俺仕込で育て上げている。
 前衛部隊が百五十。後衛部隊は二百五十だ。
 前衛には分離式ハルバード、手投げ弾を二つ装備させている。腕にはショートソードを仕込んだ防具があり、万一ハルバードを失っても戦う術はある。
 分離式ハルバードは分解すればブロードソードになる。近接戦になったら簡単に分離できるように作った。
 手投げ弾は後退用だ。逃げる際に使って追っ手が追いつけないように使う。
 あとは俺が作った興奮剤で身体能力の向上と、気力の上昇で突っ込ませる。ちなみに興奮剤の副作用は軽い倦怠感くらいだ。二、三時間休めば治る程度にしてある。
 後衛部隊は携帯出来る連式弓とショートソードを装備、矢が二十本入ったカートリッジが五個持ち歩ける。
 あとは大型の移動式連式弓もあり、射程はだいたい五百メートル。こちらは汎用性を持たせて、連式弓のカートリッジをそのままセットして使えるのだ。
 今回は残念ながら持っていくことは出来ない。
 タルブ第三駐屯地。
 アルビオンへの派兵を行うための駐屯地だ。
 トリスティン空軍の三分の一がここにある。
 ここに、アンリエッタ連隊は集結していた。
 第一大隊から第五大隊がそれぞれ戦艦に荷を積めている。
 俺はノルン、ルイズ、サイトと共に、司令部に来ていた。
 ノルンは例によって俺の肩の上である。
 司令部と言ってもアンリエッタと、ヴァリエール公爵、父さんがいるだけだ。
 簡易的なテント張りの司令部なのだ。すぐにアルビオンへ行くので問題はない。
「姫様、お久しぶりです」
 ルイズは司令部に入ると、アンリエッタの前でひざまついた。
 そんなルイズに、アンリエッタが近づくとやんわりと立たせる。
「ルイズ、久しぶりね。本当に久しぶり。元気にしていたかしら?」
 嬉しそうな表情でルイズの手を取るアンリエッタ。
 ルイズも、その手を握り返して言う。
「はい、姫様。わたくしは学院で元気にしておりました」
「ああ、貴女に会えるなんて思いませんでしたわ。貴女のお父上から戦いに参加させると聞いたときは心臓が飛び出るかと思いましたもの」
 俺は父さんに聞いたとき、思わず叫んでしまった。
 アンリエッタも似たようだったんだろう。
「ヴァリエール公爵、ヴァルガード侯爵。久しぶりにルイズと話がしたいので、下がって頂けますか?」
「わかりました。ルイズ、くれぐれも姫殿下に失礼が無いように」
「はい、お父様」
 ヴァリエール公爵と父さんがそれぞれ出て行った。
「僕達も出ようか?」
「いいえ。アレスと、ルイズの使い魔さんは残ってください」
「わかったよ」
 俺とサイトは二人から一歩下がったところに居る。
 ちなみにすでにサイトがルイズの使い魔だと言うのはアンリエッタには報告済みだ。
「お二人もお座りになって? ルイズも」
 俺達は椅子に勧められて座る。
 即席の司令部のため、あまりいい椅子ではないが立ちっぱなしよりかはいい。
「なあなあ、アレス」
 小声で俺に話しかけてくるサイト。
「なに?」
「なんで、お前、姫さんにタメ語使ってんだ?」
「アンリエッタはルイズと幼馴染で、昔は良く遊びに行っていたんだ。
 最初は僕も敬語だったんだけど、お友達だから固い言葉は使わないで欲しいって言われて、それ以来はこうしてルイズと同じように扱ってるんだよ」
 もっとも、この前まで思いっきり敬語で話していたんだが。
 あれは王宮だったし、俺自身アンリエッタに目の敵にされていると思っていたからな。
 誤解と分かれば昔のように接しないと返って反感を買ってしまう。
「ふーん。お前って何でもありって感じだよな」
「そうでもないよ」
 生まれがたまたま公爵家と親睦があったからだ。
 これが遠い他の貴族として生まれていたら、ルイズと知り合ってもほぼ他人だっただろう。
 そうなればアンリエッタとこうして話すことはまずあり得なかった。
「使い魔さん」
「はい! お、俺ですか?」
 急に呼ばれて緊張するサイト。
 相手は一国の王女だ。緊張するなと言う方が無茶だろう。
「ええ。何でもルイズが馬鹿にされた時に怒ったとか。しかも五人のメイジ相手に引けを取らないどころか圧倒したと言うじゃないですか?」
「あ、あれはルーンの力で俺の力じゃないんです」
「それでも姫様、彼はとても頼りになるんですよ」
 ルイズは何か嬉しそうに言う。
 いい使い魔としてサイトも活躍しているのだろう。
「アレスがいない間、落ち込むわたしを励ましてくれたりして」
「それ、あたしも励ましたわ」
 ノルンが俺の肩から乗り出して言う。
 自分の活躍もアピールしたいらしい。
「あら、そのフェアリーさんは? アレスの使い魔さん?」
「そうよ。ノルンって言うの。マスターが付けてくれたのよ」
 そう言えば、前回はノルンを置いてきていたな。
 紹介してなかったんだ。
「可愛らしいわ。アレスはどう? 意地悪されたりしないかしら?」
「アンリエッタ。それはどういう意味だい?」
「あら、忘れたのかしら? 幼い頃、ルイズともどもわたしの事をからかったりして」
 いつの話だ。
 だいたいあの頃はまだ、子供だろうに。俺はすでに中身が三十超えたおじさんだったが。
「子供の戯言でしょ? いつまで気にしてるのさ」
「忘れるものですか。アンリエッタはお姫様って感じより、おてんば娘って感じだってからかったじゃない。
 わたしだって女の子だもの。あれは傷ついたわ」
 そう言って、むくれた様にそっぽを向くアンリエッタ。
 あんたは子供か?
「マスターは優しいわよ。ちょっと二面性を持ってるけど、物事を良く考えるしカッコいいわ」
「ノルンには優しいのね? わたしはちょっと意地悪されるわ」
 そう言ってルイズが俺を少し睨んでくる。
 いや、意地悪って意地悪はしていないはずなのだが?
「やっぱりそうだわ。わたし達に何かうらみでもあるの?」
 おいおい、アンリエッタにルイズ。
 俺はいつも言い聞かせているだけじゃないか。
 からかったのは小さい頃だし。
「アレスって、結構女泣かしだよな?」
「サイト君まで、何を言うんだい」
「マスター、女泣かせっていうのは確かにあってるかも知れないわ」
 ノ、ノルンまで。
 俺は四対一で責められた。
 途中から、アンリエッタとルイズに一方的な鬱憤晴らしと言うべき仕打ちを受ける。
「僕が、悪かったよ。だから、もう勘弁してくれないか?」
 俺はなぜか椅子の上で正座をして謝っていた。
 ルイズに、やれ女の子に期待を持たせる、やれ誰にも優しいから勘違いされてるだの、やれ自分が婚約者だと学院内で公言して置かないと女の子が近寄って大変だと言われた。
 アンリエッタには、やれルイズを奪ってわたしに寂しい思いをさせた、やれわたしが嫌味を言うからって馬鹿丁寧な敬語で卑屈になるわ、やれ誤解が解けたと思ったら今度は遠慮がないだの言いたい放題だった。
「そうね、粗方アレスへの不満は言えたし、もういいかしら? ルイズはどう?」
「わたしも同じです。普段、アレスに言えない鬱憤が言えたのですっきりしましたわ」
 そういう二人はとてもすっきりとしたいい笑顔だった。
 俺の生気をほとんど奪ったんじゃないかくらいに感じる。
「さ、さすがにちょっと可哀想だったな」
「ど、同感」
 サイトとノルンはかなり退き気味でこそこそと話をしていた。
 もちろん俺に聞こえていたが。
「そう言えば、このタルブには竜の羽衣と言うものがあるのはご存知?
 何でも纏ったものは空を飛ぶといわれているそうだわ」
「竜の羽衣?」
 そんなものがあるのか?
 空を飛べるとなると、かなりの脅威だが、実際に飛んでいる人間がいなから嘘だろう。
「噂だと言う事だけど、ルイズ、一緒に見てみないかしら?」
「いいですわ、姫様。アレスとサイトも行きましょう」
「ちょっと、遊びに来ているわけじゃないんだよ?」
 これから戦列を整えるというのに何を言っているんだ。
「少しだけよ、アレス。わたしはいつも王宮にいるばかり、あまり外に出られないのよ?」
「姫様の願いを聞いてあげて、アレス」
 そこまで大げさなものか?
 まあ、今は戦艦に荷を積んでいる最中だ。
 戦列を整えるにも、その作業が済んでからとなっているし。
 仕方ない。
「分かったよ。場所は分かるのかい?」
「ええ。一応聞いているわ」
 そういうアンリエッタはこうワクワクしている感じだった。
 だから、俺は昔言ったんだ。
 おてんば娘だって。
「やれやれ、か。サイト君、ノルンも行こう」
「お、おう」
「うん」
 俺達は司令部を後にすると、その竜の羽衣とやらが祭ってある場所へと行くのだった。
 そこで、俺とサイトは、驚愕的なものを見ることになる。