死の先に待っていた新たな世界
第12話


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 王都トリスタニアに着いたのは夜明け前だった。
 夜中のトリスタニアに眠りついており、明かりがついている場所はほとんど無かった。
 ノルンはすぐに戻るという事で、ルイズに預けて、留守番である。
 ちなみに何かあった場合は、テレパシーが出来るらしく、それで会話は出来るようだ。
 俺はライトの魔法で周囲を照らしながら、馬を歩かせて王城へと向かった。
 王城に着くと、そこに魔法衛士隊が城門を守っている。
 確か、グリフォン隊、ヒポグリフ隊、マンティコア隊の三部隊がローテーションで守っていたのを思い出す。
 俺はその城門に出向くと、馬を下りた。
「こんな夜更けに何奴!」
 城門を守っていた二人の兵士が俺にレイピア型の杖を向けてきた。
 こんな時間に来れば警戒するのも当然だが、俺の話は通っていないのだろうか?
 マザリーニ枢機卿から貰った手紙を懐から取り出すと、兵士に見せる。
「私は、ヴァルガード領、ヴァルガード侯爵の子息。アレス・ジルアス・ド・ヴァルガード。
 マザリーニ枢機卿から、本日行われる会議への出席を要請されて参りました」
 兵士は俺が見せる手紙を手に取ると偽物ではないか確認をする。
 短い文章ではあるが、直筆に王宮の印が押されている代物だ。
 兵士はそれを見ると、俺に敬礼をする。
「失礼しました。アレス様はマザリーニ枢機卿から手厚く出迎えるように申し付けられております。
 部屋が一室用意されています。中の者に案内をさせましょう」
 先程とは打って変わって対応が丁寧になる。
 さすが魔法衛士隊、例え話が通っていても警戒は怠らない姿勢は素晴らしい。
「ありがとうございます」
 一礼すると、城門の横にある衛兵や魔法衛士隊が使う通用口から中に入った。
 部屋まで案内されると、俺は朝起こしに来ることになっているらしく、俺はそのまま寝ることにした。
 翌朝、俺は王宮のメイドに起こされた。
 顔を洗い、身だしなみを整えると、俺はある部屋に通された。
 トリスティン王家の食卓だった。
 豪華なテーブルにいくつかの料理が置かれている。
「アレス君、良く来てくれた。まずは朝食としようじゃないか」
 そういうのはマザリーニ枢機卿だ。
 マリアンヌ皇后、それと昔ルイズと共に一緒に遊んでいたアンリエッタ王女もいる。
 紫掛かった綺麗な髪に、まさに国の花と言うに相応しい可憐な容姿だ。
 もっとも、微笑んでいればの話で、少々不機嫌なようだ。
「マザリーニ枢機卿、これは?」
「何、昼から始まる会議前に、少し話をしておきたくてな。
 皇后殿下、アンリエッタ殿下にも出席していただいて話を聞いてもらおうと思っているのだよ」
 なるほど、会議前の打ち合わせをここでするというのか。
 しかし、これは相当なVIP待遇だと思った。
 父さんが侯爵家とは言え、俺自身は何も爵位がない。
 だというのにも関わらず、直接呼ばれるとなると、かなりの待遇だろう。
「それでは失礼します」
 そういうと俺も席に着いた。
 話がしやすいように、全員近くでまとまっている。
「王女様にお会いするのは、お久しぶりですね」
「ええ。ルイズは元気にしてるかしら?」
 ややとげがある言われ方である。
 それもそのはず、俺は何かと王宮に出入りをして意見を述べる機会がある。
 そして、アンリエッタより二つ年上ではあるものの、十代でかなりの実績を収めているのだ。
 ただ王女としているアンリエッタとは違う。
 そのため、何かとマリアンヌ皇后様が、アンリエッタと俺を比較すると聞いたことがあった。
 知り合いでなければ、険悪にはならなかっただろう。
「ルイズは元気ですよ」
「あなたがいつも一緒にいるから、わたくしはあまりルイズとは遊べなくてつまらない幼少を過ごしたわ」
「これ、アンリエッタ」
「すみません」
 アンリエッタは謝るも、俺に向ける視線は冷たかった。
「さて、アレス君。君を呼んだのは他でもない。
 昼からある会議に出席して話を聞いてもらいたいのだ。
 戦況が悪化しているのは知っているかな?」
「一応は」
「それの対策を立てているのだが、今一つまとまりが無い。
 一部の貴族が自分の手柄だけを考えていたり、面倒ごとはごめんと言うやからなどがおってな」
 そもそもトリスティン自体が戦争しているわけじゃない。
 アルビオンとの軍事同盟を組んでいる以上、他国の支援だ。
 それでも、万が一に備えてタルブ周辺は強化をしているが。
 他国の戦争において、手柄を立てて名声を上げようというもの、面倒ごとを国内に持ち込みたくないものなどの思惑から話はまとまらないのだろう。
「アレスには、その会議の内容を率直に申し上げてもらいたいの」
 そういうのはマリアンヌ皇后だ。
 つまり、会議の評価をしろと言うのだろうか?
「口は出さなくてもいいのですか?」
「今日は話を聞くだけでよい。ヴァリエール公爵や、君のお父上も来る予定だ。
 君の意見はその二人に聞いてもらい、後日反映しようと思うのだ」
「なるほど」
 若者が出しゃばったところで、聞く耳を持たないというわけだ。
 それなら聞き手に徹して穴を探していた方がいい。
「そう言うことなら、わかりました」
「そうか。すまんな。
 どうも政治が絡むと利害に対して敏感な輩が多くてな」
「仕方ありません。それが貴族です」
 その言葉に、全員が苦い顔をするのだった。
 食事が終わり、時間が来るまで俺は自由になった。
 そのため、王宮のバルコニーで俺はお茶を飲んでいた。
 このバルコニーは客人用なため、王宮に用事があるものなら誰でも使用できた。
 何人かの貴族が、俺と同じくお茶を飲んでいる。
 そこへ、アンリエッタはやって来た。
「隣、よろしくて?」
 その言葉に俺は、首を傾げながら答える。
「どうぞ、椅子は空いていますので」
 そう言って俺は立ち上がり、椅子を引いた。
 一応の社交辞令である。
「何ゆえ、私のところへ? 私は王女様に恨まれています。罵られることや、疎まれることがあっても隣に来られることなど、ないと存じていましたが」
「別にいいですよ。硬い言葉を使わなくても、今はただのアンリエッタです」
 意外だった。
 昔、まだルイズとアンリエッタが花畑を駆けずり回っていたころは、確かに俺は硬い言葉を使っては居なかった。
 ルイズと同等に接していたのだから。
 しかし、今は昔とわけが違う。
「申し訳ありません。周りの目がありますゆえ、勘弁願いたいのですが」
「ならば、わたくしの部屋に」
 今度こそ、俺は耳を疑った。
 さっきまで俺を睨みつけるような人が、どういう風の吹き回しでアンリエッタの部屋へ行かなければならないんだ?
「失礼ですが、どうして私に? ご自分の部屋に私を招くということがどういうことか存じてはいないのですか?」
 王女が、若い男を部屋に入れる。
 それは、もし理由があるにしても褒められる行為ではない。
 王族でなく貴族の娘であっても、それは同じだ。
「知っていますよ? はしたない事くらい。これは王女としての命令です」
 命令と来たか。
 こうなると断るに断れない。
「分かりました。お供します」
 何となく、嫌な予感だけを感じて、俺はアンリエッタの部屋に着いて行った。
 アンリエッタの部屋は小奇麗な部屋だった。
 いわゆる派手好きな貴族とは違い、嫌味の無い気持ちのいい部屋だった。
 俺は部屋に通されると、椅子を勧められる。
 その椅子に座りながら俺は聞いた。
「どうして私をここに呼ばれたのですか?」
「もう、人はいないわ。普通に話したらどう?」
 砕けたしゃべりに驚きながら、俺は小さいため息と共に話す。
「アンリエッタ。君はどうして僕なんかを呼んだんだい?」
「わたしだって、あなたを招き入れるなんて真似したくなかったわ。わたしからルイズを奪った人だもの」
 不機嫌な表情で俺に言う。
 しかし、不機嫌な顔でさえ、絵になるのだから大した美貌だ。
「なら、どうして?」
「……。ルイズは、あなたを好きなのよね?」
「ま、まあ。僕とルイズは婚約済みだから。卒業したら正式に結婚することになってるよ」
「あなたは? あなたはルイズをどう思うの?」
「好き、いや愛していると言うのが正しいね」
 彼女の心も守りたいと誓った。
 誓った以上、好きだ何て感情的な表現ではない。
 覚悟を持った愛である。
「そう……」
 アンリエッタはやや俯きながら答えた。
 何がいいたいのだろうか?
 わざわざ俺にこれを言わせるためではないはず。
 まるで、俺を例としてあげただけに感じる。
 アンリエッタが恋をしているのか?
 まさか……。
 いや、そんな馬鹿な。
 それは無いだろう?
 アンリエッタはトリスティンの王女だぞ。
 だが、もしそうだとすると相手はまさか……。
「まさかとは思うんだけど」
 思い出すのはラグドリアン湖で開かれたパーティーだ。
 トリスティンが派兵したのに伴っての交流だったと記憶してる。
 一時的にレコンキスタを押し返してた時期だ。
 俺はヴァルガード家の長男として父さんと共に出席していた。
 ルイズも出席していて確か、アンリエッタの影武者のようなことをしてたのを覚えてる。
 姫様が夜に抜け出して散歩したいからと言っていたが。
 十四歳になっても、アンリエッタはおてんばだったからな。
 アルビオンのウェールズ皇太子も前線には出ていない頃でパーティに参加してたのは遠目で覚えている。
 そして決まった時間になると姿を消していたのを思い出していた。
 ルイズが影武者をする時間帯とウェールズ皇太子がいなくなる時刻はほぼ一致しているんだ。
「ウェールズ皇太子と恋仲なのかい?」
 だから俺はいきなり確信を付いた問いをする。
 見て分かるほどの同様をアンリエッタは見せた。
「な、なぜわかったの!」
 おいおい、本当か?
 これはかなり不味いんじゃないのか?
 同盟を組んでいるにしても表立って公表は出来まい。
「男の感ってことにしておいて? けど、そうだとすると僕に相談するのは筋違いじゃないか?
 僕は君に恨まれてるんだ。
 この場でルイズの事で俺が責められても文句が言えない立場だしね。
 そんな嫌味嫌う人間に、どうして相談なんて?」
「別にあなたをそこまで嫌った覚えはないわ。
 確かにルイズの事は、わたしには寂しいことだったけど。
 あなたくらいですもの、はっきりと不快だったら不快だと言える人は。
 少しは気を許してるのよ。あなたには」
 そして、少しはわたしの事も見てくれればいいのに、最後はそう小さく言って顔を赤らめた。
 好意をもたれていたのだろうか?
 ずっと、嫌われていると思っていたのだが。
「その割には僕に結構冷たかったんだけど?」
「当たり前じゃない。表立って気を許せる人はあなたくらいよ?
 ちょっとした嫉妬と、ストレス解消に付き合ってもらってもいいじゃない?」
 冗談じゃない。
 そんな理由で、俺は王宮で顔を合わすたびに嫌味を言われ続けていたのか?
 結構胃が痛かったんだがな……。
「まあ、それはもういいけど。で、やっぱり三年前に密会をしてたのかい?」
「そ、そこまで知ってるの?」
 頬を赤らめて、悪戯がばれたような顔をする。
 ああ、この子はやっぱり恋する少女なんだなと思った。
 王族に生まれさえしなければ、もう少し自由な恋愛が楽しめただろうに。
「勘違いしないで貰いたいんだけど、君とウェールズ皇太子がそういう関係だと思ったのはさっきだからね?
 あの時いつも決まった時間にいなくなるウェールズ皇太子に、同じ時間帯にルイズが君の影武者なんてするとなると、考えられることはそう多くないさ」
「たったそれだけで……? あなたの頭の速さにはいつも舌を巻くわ」
「慣れだよ。で、ウェールズ皇太子と何かあったのかい?」
「誰にも言わないで頂戴? ウェールズ様に、愛を誓ってほしいと三年前に言って誓ってもらえなかったの。
 それでも、いつか人の目を憚らず一緒に湖を歩けるようになると、誓ってくれたわ。
 最近、アルビオンとの会議が多くなって、つい先日久しぶりにお会いしたのよ。
 その場では会話は出来なかったけど、また夜に密会したわ。
 変わらず、いいえ、昔よりも凛々しくなったウェールズ様にわたしは言ったの。
 前線に立たないでほしい、と。
 ウェールズ様さえ良ければトリスティンで兵を増やすから、その指揮を後方で取って欲しい、と。
 でも、ウェールズ様は首を立てには振ってくれなかったわ。
 前線で戦う義務があるって言って。
 アレス、あなたはルイズに戦わないでって言われたらどうするの?」
 類は友を呼ぶとは言う。
 ルイズの友人でもあるアンリエッタも、またルイズと同じ悩みを持っていたのだろう。
 本当なら俺に相談することじゃないと思う。
 ルイズが適任のはずなのだが。
 奇しくも、俺がすでに答えを出している状態でこの質問をされるとは。
「僕は、ルイズに強くなってと言うよ。
 戦いに出ないわけには行かないからね。
 すでに、国の命令で多くの貴族が傭兵が、大切な人を残して戦っているんだ。
 僕だけ、ルイズと一緒にいたからって拒否なんて出来ないよ?
 それに、戦いに出れば死ぬ事だってある。
 知ってるでしょ? 僕が死にかけたことがあるのは?
 だからルイズには強くなって、言うしかないんだ。
 僕が死んで、嘆き悲しんで、後を追われたら悲しいから。
 それに、幸せは心の強さで決まると思うんだ。
 強くなってさえくれれば、僕を思い出にして生きて行ってくれるはずだからね」
 アンリエッタの白いドレスにしわが出来る。
 服を握っていた。
「殿方はいいわね。そういうことを言って。
 残される人はどうするの?
 ルイズだって、あなたじゃないと生きていけないかも知れないわ。
 それでも戦いに行くの?」
「行くよ。ルイズには乗り越えてもらうしかないからね」
「そう……。やっぱり殿方は勝手ね。そうやって自分の意志を通すのは殿方の特権だわ」
 ふて腐れるように言うアンリエッタ。
 アンリエッタの求めていた答えとは、結局正反対だったんだろう。
 だから、俺はアンリエッタにこういった。
 無責任かも知れないけど、今のアンリエッタには一番いいだろう。
「だったら、アンリエッタ。君も前線に出たらどうだい?
 君の水の魔法は優秀だ。
 ウェールズ皇太子のサポートについたらいいんじゃないかい?」
「え? そ、そんなこと周りが許さないに決まってるわ」
「意志を通すのは、人の特権だよ。
 君が強く望めばいい。
 そして、向こうの王子が戦っているのに、どうして王女が城でのんきに過ごさなければならない理屈があるのんだって言えばいいんじゃない?」
「アレス、あなた……」
「それに、そうなればウェールズ皇太子も前線から引かざるを得ないかもしれないよ?
 自分が愛する人が、前線に出てくる。
 しかもそれが、自分が前線から引かないせいだとすれば考えざるを得ないんじゃないのかな?」
「出来るの? そんなこと?」
「出来るか、どうかはわからない。でも、やってみる価値はあるんじゃないかな?」
 俺は挑戦的な笑みを浮かべてアンリエッタを見た。
 どうだ?
 やるか?
 それとも怖いか?
 そう言った感情をぶつけてみた。
「いいわ。それは面白いわね。わたし、やってみるわ。
 ふふふ、アレスありがとう。
 やっぱり、あなたはわたし達のいいお兄さんね?」
 その笑顔は俺が知ってるおてんば娘の笑顔だった。
 アンリエッタと話をしているうちに、会議の時間がやって来た。
 アンリエッタと共に会議室へと向かう。
 会議室の中に入ると主要な貴族が一同に介している。
 俺は後ろの方に、アンリエッタはマザリーニ枢機卿とマリアンヌ皇后殿下の隣に座った。
 会議が始まった。
 内容は、主に二つ。
 現状の情勢と、今後の対応についてだ。
 現状は正直芳しくない。
 ニューカッスル城を本陣に、砦をいくつか設けて敵の動きを止めている。
 しかし、徐々に砦が落とされていて、現在ニューカッスル城の三十キロ手前まで攻められていた。
 今後の対応として、挙げられていたのは総力戦及び万一に備えてのタルブ地域への戦力集中させた決戦が上げられていた。
 総力戦だと、国内の兵力の大半を投入することになり、周辺国への守備が薄くなることがデメリットだ。
 タルブに戦力を集中させるにも相手は空から来る以上、制空権を確保する必要がありアルビオンの艦隊に勝つには船の性能が弱かった。
 戦略の変更も声が上がるも、良い案が浮ばない。
 そのうち、論点がずれて行き、そもそも同盟を組んでメリットがあったのかなどの話しまで上がってきた。
 内容が愚痴と化して来た辺りから俺は話を聞いていなかった。
 話していた内容から、現在出せる戦力とアルビオンの戦力を考えて出来ることを考えてみる。
 現在、砦が複数存在するために戦力は分散されて守りにも攻めるにも人が足りないことがわかった。
 総戦力は、アルビオン、トリスティン連合軍が二万。
 対してレコン・キスタは四万だった。
 倍近い戦力差、普通なら負けてしまうのだが、当初行っていた戦力を集中した先方に変えればまだ勝機はあると考えた。
 守る砦の数を減らして、尚且つ主要な砦は死守する。
 後は情報を上手く使って相手を混乱させられれば、少しは押し返せるはず。
「いい加減にしなさい!」
 そこで俺の思考は止まった。
 アンリエッタが怒鳴ったからだ。
 普段、怒鳴ることがないアンリエッタが怒鳴ったことで他の貴族は驚いて押し黙った。
「今は、今後の対応を考えているのです! それを同盟をするべきではなかっただの、今からでも全軍を撤退させるだの、恥ずかしくないんですか!」
「しかし、姫様」
「黙りなさい!」
 一人の貴族が声を上げるが、アンリエッタの一喝で会議の場は完全に静かになった。
「戦場では今も多くの命が失われているのです! アルビオンに至っては皇太子自らが指揮を執り現場の士気を上げていると聞きます。
 それなのに、ここにいる貴方達は何ですか!
 自分の事ばかりで、なすりつけ。派兵でも少しでも名誉を我が物にしようと言う画策ばかりではありませんか!
 決まらないのなら、わたくしが軍を率いて前線に出ます」
 奇しくも、俺が進言したことをここでアンリエッタは宣言した。
 当然、それは無茶だと、戦場に出た事がないのに指揮が取れないだの声が上がる。
 しかし、それを治めたのはマザリーニ枢機卿だった。
「指揮が執れずとも、周りの将軍がサポートすれば良い事ではありませんか。
 確かに、今の現状では士気も盛り下がり、戦いに勢いがないのも確か。
 すでに疲れが溜まっている兵士も多い。
 そこに姫様が出陣して前線に赴けば、それだけで士気が上がるもの。
 姫様の治療魔法は非常に優秀なのは皆も知っての通り。
 姫様自らが治療に回るだけで、兵に力が沸くでしょう。
 姫様のお命に関わることが無いように、十分に配慮すれば場合によっては戦況も変わるのではありませんか」
 俺は感心した。
 アドバイスはウェールズ皇太子を引かせるためのものだったが、アンリエッタは話が進まないこの現状を打破しようと自らが立ち上がった。
 どんなプロジェクトでもそうだが、リーダーに勢いがあるチームはどんな困難もやり遂げてしまう。
 そして、サポート役も優秀なら問題はないだろう。
「それならば、サポートは私達が付きましょう」 
 そう言って立ち上がったのはヴァリエール公爵と父さんだった。
「ヴァリエール公爵、ヴァルガード侯爵」
「ならば、私らも姫様のサポートにつきますぞ!」
「私もだ!」
 そう言って一人、また一人と立ち上がっていく。
 リーダーの覚悟が、周りのものに決意をさせていく。
 この人になら付いていくぞと。
 俺のアドバイスが、意外な方向で動いた。
 アンリエッタが、俺を見つけると笑顔を向けてきた。その笑顔は、決意みなぎる力強さに溢れていた。
「細かい作戦は、ヴァリエール公爵、ヴァルガード侯爵を交えて行います。
 会議は終了。
 これにて解散」
 こうして会議は終わるのだった。