死の先に待っていた新たな世界
第11話


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 学院長室に、やや重い空気が漂っていた。
 内容が内容だけに、軽く話せる話題と言うわけにはいかない。
 オールド・オスマンは考えるそぶりを見せると、俺にこう言った。
「実は、昼間の決闘じゃが、ワシらも遠見で見ていての。
 あの動きは、普通の平民ではありえなかった。
 コルベール君が、ミス・ヴァリエールの使い魔がガンダールヴだと言っておったのじゃが、君の見解はどうかね?」
 あの決闘は覗かれていたらしい。
 俺達は最初から止めるつもりだったが、どうもオールド・オスマンはサイトの力を見たかったようだ。
「覗きとは趣味が悪いですよ?」
「いや、すまんの。好奇心の方が勝ってしもうたわ」
 苦笑いするオールド・オスマンに小さくため息をする。
「で、ガンダールヴかどうかでしたね。私もルイズのことでずっと虚無を調べてきました。
 結論からすれば、ガンダーヴルで間違いありません。
 ルイズが虚無だと報告に来る決定的な証拠でした」
「そうじゃったか。
 しかし、そうなるとあの二人の力は周りに知られるわけにはいかんの」
「その辺は大丈夫です。
 ルイズは周りに、単に系統に目覚めなかったと言えばいいのです。
 また、サイト君に関してはルーンの力で十分通るでしょう。
 事実、ルーンの力なので」
 オールド・オスマンは小さいため息を付きながらこう返した。
「昔から先手先手を打つ子供だとは思っていたがの、ここまで来ると大したものだ」
「不安要素は出来るだけ消すに限ります」
 仕事の時の習慣だが、これは日常生活でさえ役に立つ。
 危機管理能力も、普段から不安要素を消す努力をすることで養われるものだ。
「ワシに会いに来たのは、ミス・ヴァリエールとその使い魔に関する待遇についてかの?」
「ええ。今までと変わらず、また王室から何かを聞かれても知らず存じずを通して頂ければと。
 私がわざわざ言うまでもないと思いますが」
「そうじゃな」
 オールド・オスマンは目の前にある本を操りであるページまで捲る。
 ガンダールヴのルーンについて書かれているページの様だ。
「コルベール君が探し出したものじゃ。
 あやつは切れ者じゃからな。自分で、しかも短時間でここまで来たわい」
 さすがコルベール先生と言う所だろう。
 あの人は好奇心と言う点ではハルケギニアでも珍しい方だ。
「そうですか。
 それで、コルベール先生には何と?」
「この事は内密にすると言う事にしておる」
「ありがたいです。
 それと、サイト君についても言っておかなければならないことがあります」
「何かの?」
「彼は異世界から来た人間です」
 その言葉に、オールド・オスマンの表情が険しくなった。
「それは誠か?」
「ええ。彼が持っていた機械がありますが、機械技術の発達したゲルマニアでさえあと数百年は掛かるような技術で作られていました」
 ノートパソコンのことだ。
 まだ見せてもらっていないが、あれを作るとなるとこの世界ではまだ無理だろう。
 半導体技術以前に、真空管を使ったコンピューターの開発さえありえない。
 口から出任せだが、大きく間違ってはいないのは確かのはず。
「なんと! そんな異世界からガンダールヴとして呼び出されたというのかね!」
 驚く、オールド・オスマン。
 何かを考えそぶりをする。
 思い当たることがあるのだろうか?
「破壊の杖と言う名を聞いたことあるかの?」
「噂程度ですが、何でもドラゴンさえ仕留める杖だとか」
「それじゃが、ワシの私物での。
 三十年前にワシがワイバーンに襲われたときに助けてくれた者が使っておった。
 たった一撃でワイバーンを倒してしまっての。
 その者がこういっていたのじゃ。
 ここはどこだ? 元の世界に帰りたい。とな」
 元の世界に帰りたい?
 この発言は非常に重要だ。
 自分の居る場所が、異世界に居るとわかるのはそれなりの知識がある人間でないとわからない。
 言い方は悪いが知識の無い人間は少なくとも世界と言う言葉は使わないはずだ。
「サイト君が、同じ世界の人間である可能性が高い。
 そう仰りたいのですね?」
 今の話の流れからすると、それを言いたいのだろう。
 俺の確認に、頷いて続ける。
「うむ。今度、サイト君を連れて、破壊の杖を見せてみてはくれんかの?」
「わかりました。
 それで同じ世界から来たとして返す方法に心当たりはありますか?」
 実はこれが一番重要だ。
 さっきの話だと、どうもオールド・オスマンを助けた人間は元の世界に帰れたとは思えない。
 オールド・オスマンの応えも俺が予想した通りのものだった。
「ないの」
 やはり。
 この世界はどうも、勝手に呼び出すしか考えが無いらしい。
 もっとも幻獣などを使い魔にするとなると、送り返すも何もないからな。
「わかりました。最後になりますが、近日中にアカデミーへ出向く予定があります。
 なので、その間、二人をお願いしたいのですがよろしいですか?」
「わかった。
 ワシで出来る範囲内で二人の助けになろう」
 そこまで話すと、俺は頭を下げた。
 出来れば、何も起きないのがいいのだが。
 
 学院長室を出たのは夕方だった。
 授業は完全に終わっている。
「ノルンを迎えに行くかな?」
 確か、朝からずっとフレイムといたはずだ。
 授業が終わっているし、キュルケもフレイムと合流していればノルンは俺を待つしかない。
 俺は使い魔が待つ広場へと足を向けた。
 広場にはまだ、何匹か使い魔がいた。
 中には、眠っているものもいる。
 その中に、ノルンはいた。
「ノルン」
 呼ぶと、振り向いて俺を確認した。
 それから、ふわふわと浮びながら俺の肩に乗る。
「マスター、待ちくたびれたんだけど? 何してたの?」
「学院長に会っていたんだ。ごめんね?」
「ああ、朝言っていたわね。帰ってきてたの?」
「そう。呼ばれたから会ってたんだ」
「昨日の件ね? あたしはあまり関係ないから興味はそんなにないけど」
 ノルンにとってはマスターは俺だし、俺に関わることじゃなければそれ程興味はわかないのだろう。
「そう言えば、フレイムとはどうだった?」
「フレイムって結構優しいのよ。フレイムのマスターに似たのかもね」
 その言葉を聞いて、俺は感心した。
 フレイムのマスター、キュルケは見た目は派手で、男遊びも凄まじいが、その内面はかなり優しいものがある。
 それは、年下の友人タバサと接する時の彼女がそうなのだ。
 俺も何度か、彼女達と行動をしたことがあるから分かるが、基本的にタバサの意見を尊重し、引いちゃいけない時はしっかりとタバサに言い聞かせていたのだ。
 お姉さん的な役割をキュルケはタバサにしていた。
 思いやりの無い人間には到底不可能な行動だ。
「ノルンはいい友達が出来て良かったね」
「ええ」
 俺は友人の内面を、使い魔から見抜いたノルンが誇らしかった。
 その後、俺とノルンは夕食を終えて、自室に戻る。
 ルイズとサイトにはタイミングが合わなかったのか、見かけなかった。
 自室に戻った俺は、まずやるべきことをまとめた。
 一つ目、ヴァリエール家への報告。
 これは今日、オールド・オスマンに報告したのとやることは大して変わらない。
 また、近々アカデミーにエレオノールに会うことにしているため、それで済ませてしまおう。
 二つ目、ハルケギニアと地球とのワープ法の確立だ。
 これは、そう簡単には出来ない。
 まずは瞬間移動的な魔法の研究から始める必要がある。
 安請け合いしてしまったが、五年、十年単位で研究が必要だろう。
 当分は、ある二点への転送魔法の開発に力を入れるつもりだ。
 三つ目、使い魔の契約解除法。
 これはサイトが地球に帰れることになった場合に必要になるだろう。
 まあ、ルーンが刻まれたままでも不都合はないだろうが、やはり主人が近くに居ないのに使い魔でいる必要はないのだ。
「まあ、こんなとこか?」
 これらを紙に書きながら、俺は言った。
 その時、窓に一羽の鷲が止まった。
 王宮の連絡用の鷲である。
「俺に、か?」
 窓を開けてると、鷲が部屋の中に入ってきた。
 ノルンが、やや警戒をしながら鷲を見る。
「王宮からの使いだよ」
 俺がそう言ってやると、ノルンは警戒を解いて鷲に近づく。
「立派ね。あなた」
 ノルンがそう言うと、鷲は翼を広げて応える。
 なかなか素直な鷲だ。
 俺は鷲の脚に括りついた手紙を外す。
 それを広げて内容を目に通した。
“明後日、王宮にて会議あり。来られたし。マザリーニ”
 そう書かれていた。
 マザリーニ枢機卿から直々とはな。
 何か悪い知らせなのだろう。
「一応、返信がいるな」
 簡単に返信の文章を書くと、再び鷲の足に括りつけた。
「頼むよ」
 鷲が翼を広げて応える。
 本当に賢い。
 鷲を自分の左手に乗せて窓を開けると、そのまま飛び立つ。
 鷲は優雅に翼を広げると一度旋回した後、夜の空に消えていった。
「マスター、何だったの?」
 肩に乗って話しかけてくる。
「王宮に呼ばれた。明後日、王宮に会議があるらしい」
 何も無ければいいと思っていたが、そうも行かないようだな。
 二年に進級する前後から、雲行きが怪しくなっていたし。
「そう言えば、マスター」
「なんだい?」
「マスターってたまに俺って言うけど、そっちが本当のマスター?」
 ああ、そう言えば一人でいたりすると、どうも俺という言い方をするんだよな。
 人に聞かれている可能性が少ないと、どうも素に戻るらしい。
 と、考えるとこっちが本当の俺だな。
「きっとそうだな。俺は、アレスであると同時に、前世の記憶も引き継いでる。昨日、聞いてたんだよな?」
「ええ。でも、変なものね。マスターが俺という時はこう、偉そうな感じ。僕の時は優しく導く感じ」
「どっちも俺だからな。
 本来はこう論理的に考えるくせがあるから、このしゃべり方はやや冷たさを感じるんだ」
「確かにね。でも、あたしとして今のマスターの方が素敵」
「ありがとう」
 女の子から素敵と言われるのは悪くないな。
 少し照れる。
「でも、みんなの前だと僕になるんでしょ?」
「意識はしているんだが、今の俺はアレス以前の俺。みんなの前ではあくまでアレスしての俺だからな」
 区別する必要はないんだが、一応、俺も貴族の端くれ。
 それ相応の態度と言葉使いの方が何かと周りの信用は得やすい。
 人間と言うのは不思議で誠意を持って当たれば誠意が返ってくる。
 逆に不誠実には不誠実が返ってくるのだ。
 他人とは自分の鏡ともいる。
「マスター」
「なんだ?」
「あたしと居る時は、そのしゃべり方なのは気を許してるから? 
 あ、でも朝はそうでもなかったわね」
「朝は、誰が聞いているかわからないからな。
 ノルンはある意味運命共同体だ。気を許すも何も、俺の一部みたいな感じさ。
 だから、ノルンは俺の大切なパートナーだ」
 ルイズはどちらかと言えば、支えたい子だ。
 本当にパートナーと言うなら対等な関係が一番。そういった意味だとノルンがその関係になる。
 俺の言葉にノルンが驚いたように見上げる。
 そして嬉しそうに言うのだ。
「あたし、マスターに召還されて良かった」
 ノルンの言葉は、俺にとっても嬉しい言葉だった。
   
 翌日の昼休み。
 俺はルイズの部屋に居た。
 サイトは居ない、この時間は厨房で賄いを受けているのだ。
 俺とルイズは食堂で簡単に食事を済ませて、ここに来ている。
 ルイズは椅子に座わり、俺はベッドに腰掛けて対面していた。
「それで、話って何かな?」
 ルイズがやや思いつめた表情で俺をここに連れてきたのだ。
 それが何なのかは聞いても、部屋に来てからと言われていた。
「卒業まで、あと二年よね」
「そうだよ」
「戦争が、激化しているって昨日、お父様から手紙が来たわ」
 昨日の鷲は王宮からだが、ルイズにも別の形で来ていたのか。
 しかも、戦争が激化しているとはっきり。
 それで思いつめているのはどうしてだ?
「お父様の軍団も参加することになったの」
 ヴァリエール公爵も参戦か。
 それは確かに思いつめるのも無理は無い。
「アレス。あなたがヴァルガード家の軍を率いているのは知ってるわ。
 お父様は、あなたの家の力も借りることになるって言ってた」
 明日、王宮で会議があるのは知ってる。
 ほとんど、予想はついてたいが、ルイズの言葉で確定した。
 たぶん、俺も前線に出ることになるんだろう。
「ルイズ」
 昨日の事を告げようと名前を呼んだ時だった。
 突然、ルイズが抱きついて来て、反動で俺はベッドに押し倒される感じになる。
「アレス、戦争に行かないで!」
 俺の胸に縋り付きながらの悲痛な叫びだった。
 昨日ルイズの元に届いたという手紙が、不安にさせるのだろう。
 抱きつくルイズを優しく抱き返すと優しく言う。
「ルイズ、僕を案ずる君の気持ちは嬉しいよ」
「もう、あんな思いはしたくないの。お願い、もし参戦して欲しいと言われても断って!」
「それは、出来ないよ」
 ルイズは俺から体を離すとしっかりと俺の目を見つめる。
 目には涙が溜めているが表情は明らかに怒っていた。
「どうして! あなたが行く必要はないわ!」
 ゆっくりと体を起こすと落ち着いて話す。
「僕はヴァルガードの将軍だよ? 軍をまとめているんだ」
 ルイズを蔑ろにするつもりは毛頭ない。
 しかし、俺はルイズを守るのと同時に、ヴァルガード家の長男としての責任がある。
 責任を放棄することはさすがに出来ない。
「アルビオンで苦しんでいる人たちや家の名誉のためにも、戦いに参加はしないわけには行かないんだ」
「嫌! 前にも言ったわ。貴族なんかじゃなくてもいいって、わたしはあなたが居ればいいの!
 名誉なんていらない。
 わがままも言わない。
 ただ、あなたと一緒に居られればそれでいいの!」
「ルイズ……」
 彼女の悲痛な叫びに失敗したと思った。
 ルイズを導いていたつもりだが、強くなっていたと思っていたが、やはり不安は消えない。
 結果としてより俺への依存度が高くなったと感じた。
「アレス。わたしは弱いわ。あなた無しじゃ生きていけない。
 強くなるって言ったけど、無理よ。
 あなたを失ったら、わたしどうすればいいの?」
 泣きながら捨てられた子猫のように見つめてくる。
 怒りより不安の方が強い。
「戦争に行かなくても、いつかは死ぬよ? もしかしたら事故で死ぬかも知れない。
 人を助けて死ぬかも知れないんだ。
 ルイズ、昔に言ったよね? 僕に頼っていいけど、僕に依存しちゃダメだって」
「うん。でも、わたしはアレスが居たからここまで来れたの。
 サイトの事を受け入れられたのだってアレスのおかげよ?
 アレスが居なかったら、わたしはサイトを胡散臭い平民と思っていたわ。
 サイトの事、面倒見ようと思えたのもアレスが今までわたしに優しくしてくれたから。
 わたし、アレスが居たからこうしていられる」
 胸に手を当てながら静かに語る。
 この世界では俺はイレギュラーな存在だ。
 俺でなかったら他の人間では確かにルイズをここまで導くのは難しかっただろうと思う。
 事実として俺がいたからと言う部分は否定出来ないが、本質は違うと思った。
「それは違うよ?
 きっかけは僕かも知れない。
 僕はルイズに優しくしたし、支えもした。
 だけど、それを他人に出来るようにとまでは言っていないし、そう教えたこともない?
 僕が僕の考えを単にルイズに教えただけ。
 だからルイズが自分で考えた結果で行動したんだよ?。
 誰から言われたのではなく、ルイズ自身の意思で。
 自分が弱いと認められるのは自分が弱いと認めるだけの強さを身に着けたからなんだ。
 君は知らぬうちに大きくなってる。
 僕さえ気が付かないうちにね?
 僕が……いつか、いなくなっても大丈夫さ」
 最後の言葉はいうか迷った。
 別にまだ死ぬと決まったわけじゃない。
 それに、俺だってサイトのことやルイズのことを考えたら戦場に行っても死ぬわけには行かないんだ。
 もっとも、まだ俺が参戦すると決まったわけじゃない。
 でも、丁度いい機会だから、敢えて現実を見るように仕向けた。
 ルイズには辛い現実を突きつける事になったと思う。
 たぶん、こんなに言っても聞かないことに嘆くだろうな。
 今は俺がいるから、俺が居なくなった時が怖いと思う。
 だけど、俺が本当に居なくなった場合、俺はルイズが自分で思っているほど弱くはないと踏んでいた。
 依存度は高い。
 しばらくは悲しみに老けるだろう。
 しかし、ルイズはきっと立ち直ると思っていた。
 そうじゃなければ、癒し手のルイズなんて名は生まれなかっただろう。
 自分の意思で動くという事を覚えたからこそなのだから。
「どうしても、行くの?」
 でも、一つだけ安心させて上げていいかな。
「ルイズ、実は肝心なことを忘れていないないかい?」
「え?」
「まだ戦場に出向くと決まったわけじゃないんだけど?」
 そう。
 まだ俺は正式に言われたわけじゃない。
 ヴァリエール公爵は、ルイズに自分が戦場に出向くことになったことと、ヴァルガード家に協力を要請したことくらいしか書かれていないはず。
 名指しで俺を連れて行くとは言われていないのだ。
「あ……」
 ルイズも気が付いたらしい。
 俺も言い方が、まずかったのは事実だ。
 戦場に行くようなことを言っていたから。
「でも、もし依頼されたら行くけどね」
「やっぱり……」
「ごめん。こればかりは、ね。
 それにルイズだけじゃないよ。こういう思いをするのは。
 他の貴族だって恋人を残して戦場に行っている人だっているはずさ。
 今は僕がいるけど、他の人はすでに寂しい思いをしている人だっている。
 だから、僕だけ行かないのはフェアじゃないよ」
 今、アルビオンには一万のトリスティン兵がいる。
 この中には恋人を残して来た兵士だっているはずだ。
 恋人どころか、大切な人たちを残して。
「僕もルイズを残していくのは辛いよ? でも、責任を果たさないと行けないときはあるんだ。 分かってくれるね?」
 ルイズは一度きつく瞳を閉じる。
 少しの間そうして、目を開けると穏やかに言った。
「わかったわ。だけど、一つだけお願いを聞いてくれる?
 そのお願いを聞いてくれるなら、わたし、もうわがまま言わないわ」
「何かな?」
 次の言葉は俺にとって衝撃的だった。
 ルイズがそれだけ思いつめていたのだと分かった。
「わたしを……。わたしを抱いて下さい。
 アレスが愛していると言う証を、わたしに下さい」
「ル……イズ」
 俺は以前、言ったことがあった。
 結婚するまで、そういうのは無しだよって。
 だが、ルイズの顔は真剣そのものだった。
「アレス。それだけでいいの。それでわたしは、覚悟を決めるから」
 そう言うと、ルイズはマントを外した。
 床にマントが落ちるのが、妙にゆっくりに感じる。
 それからシャツに手を掛けた。
 一つ、一つ。
 震える手でシャツのボタンを外していく。
 ルイズの震える手に俺は右手をそっと添えた。
「ルイズ。怖いんじゃないの? こんな事辞めよう。
 結婚したらでも遅くないんだよ?」
「アレスが居なくなったら、結婚はなくなるわ。
 お願い。せめて、こういう形でわたしに覚悟をさせてほしいの。
 ケジメを付けさせて欲しいの」
 潤んだ瞳で、俺の目を射抜く。
 覚悟を持っているのが、嫌でも分かった。
 俺は、どうしようもない奴だと思う。
 女の子に、こうさせるなんて最低だと思った。
 だから、俺はルイズの手から自分の手を離して、顔を優しく撫でる。
「だったら、せめて優しくはじめよう」
 ルイズの頭を優しく自分の方に引き寄せると彼女の唇に自分の唇を重ねる。
 ルイズもそれに応えて、しばらくの間お互いを感じあった。
 
 午後の授業はサボった。
 ルイズの望みをかなえるために、俺も全力で応えた。
 俺の左腕を枕にしてルイズが甘えるように寝ている。
「アレス」
 猫が喉を鳴らすような甘えた声で俺を呼ぶルイズ。
 幸せに満たされた表情だ。
「今、幸せ。アレスと一緒になれて本当に幸せよ」
 幸せ、か。
 しかし、今ルイズが感じている幸せは、一瞬で崩壊する幸せだ。
 華やかにして、切なくも散っていく桜の花と同じだ。
 ルイズに感じて欲しいのは、なにものにも負けない強さなのに、だ。
 だが、俺もこの時だけはルイズにその儚い華やかな幸せを感じていてもらいたい。
「ルイズが幸せだと、僕も嬉しいよ」
 右手でルイズの髪を撫でる。
 ルイズはそれに身を任せるように目を閉じる。
 願わくば、俺が居なくてもルイズが強く生きていけることを。
 俺はそれを強く祈らずには居られなかった。