死の先に待っていた新たな世界
第10話


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 ルイズが暗い表情になるのを見て、サイトが不思議そうに尋ねる。
「虚無って何なんだよ? 伝説だってのはルイズに聞いたけどさ」
「そのままさ。伝説の系統なんだよ」
「じゃあ、何で暗い顔をするんだ?」
 現代の日本に住んでいて、尚且つゲームとかする人間なら分かるだろう。
 伝説っての存在となれば自分が特別なように感じると。
 憧れに近いものがある。
「現実的に言おうか? 地球出身だからわかると思うけど、核の怖さは知ってるよね?」
「ああ、あれはとんでもない代物だ」
「例えば、それが自分の自由意志で発射ボタンが押せるとしたらどう?」
「……。そういうことか?」
「虚無ってのは未知の力なんだ。もしかしたら世界を破滅に導くかもしれない。そんな力、自分にあったら怖いでしょ?」
「ああ」
 伝説の存在が自分となれば立場が今までと変わる。
 宝くじでさえ当たったがために人生が狂う場合があるのだ。
 とりわけ、伝説の存在で強力な力だったら尚怖い。
 下手をすると自分の心一つで世界を左右出来るようなものなら更に怖い。
「あと、もしそんな力があると知られたら、周りが黙ってる?」
「黙らないな」
「そうだよ。ルイズ、君が落ち込んでる理由は、そうだよね?」
「ええ。今までは、かもしれない、程度だったから。
 彼が伝説の使い魔なら確定したのと同じだもの。
 これからわたしの周りがどう変わるか考えると怖いわ」
 サイトもわかったらしい。
 自分のルーンを見て青ざめていた。
「な、なあ。そうすると俺もやばいってことか?」
「知られればね? だから、二人とも系統の話になっても知らないで通してね?
 言うなら僕を通して欲しいんだ。
 ちゃんとした説明がないとみんなが怖がるからね」
 そう言えば、昼間、モンモランシーとギーシュに仄めかしたな。
 あとでフォローを入れておこう。
「ルイズ、君は今まで通りにしていればいい。僕がフォローをするから」
 俺はルイズの側に行くと、肩に手を当てて言った。
「うん」
「力は正しく使えば、怖いものはないから。怖がらないでね」
 ルイズは小さく頷く。
 まだ、不安は取れないだろう。
「それと、サイト君」
「なんだ?」
「帰るまでの間でいいから、彼女を支えてあげてくれないか?」
「アレスだったよな? お前、婚約者なんだろ? 俺が支えて良いのか?」
「当然僕も支えるよ。ただ僕はヴァルガード家の後取りとしての立場もあるんだ。
 君は来たばかりだから知らないと思うけど、実は戦争中でね?
 僕も戦場に出るかも知れないんだ」
 その言葉にサイトが驚いたように言う。
「戦場って、お前、まだ学生じゃないか!」
「ヴァルガード家では将軍だよ。これでも四年前から軍備を整えてるんだ」
「んな、馬鹿な。四年前って、アレスは今いくつだよ?」
「十九歳」
「十五歳で軍備を整えてるだって? おかしいだろ、それ?」
 それはそうだろう。
 この世界でも十五歳で将軍はありえない。
 まあ、それにはからくりがあるわけなんだけど。
「前世の記憶だよ。知識と経験だけならすでに五十年分あるんだ」
 その発言にサイトとルイズがあっと声を漏らす。
「じゃあ、なんだ? 見た目は子供、頭脳は大人ってやつ?」
「名探偵じゃないよ? まあ、でもそういうこと。
 僕は前世でプロジェクトリーダーをしていたから人の上に立つ事にも慣れててね。
 それに組織って言うのは目的があってそれに向かっていく人たちを束ねるのが組織なんだ。
 軍隊も会社も目的は存在するからその目的に合わせた事をすれば概ね、どんな組織でもやって行けるものだよ」
「なるほどなー」
「アレスが大人びてるのって、そういうことだったのね?」
 合点言ったと言うようにルイズが言う。
 確かに言葉遣い等は出来るだけ柔らかくしてたから年相応に出来たけど、考え方や態度まではその年代に近づけるのは難しかった。
 大人びてると思われて当然でもある。
「そうだよ。ルイズ。実は想像すると面白いんだけど、君とは七歳から付き合いだよね?」
「ええ」
「僕は前世では二十九歳だった。で、君と会ったのは……」
 俺は、三十九歳のおじさんが七歳の女の子と遊んでいたのと、四十二歳で十歳の女の子と婚約したというのを話した。
 すると、サイトがロリコンとか言って笑っていたが。
「まあ、ともかく僕は知識と経験なら豊富なんだ。で、それを披露したからこの歳で将軍なんだよ」
「理屈はわかった」
 サイトも納得したようだ。
「そうだ、一つ気になったんだけど左手どうかしてるのか?」
 その言葉にルイズが反応を示す。
 辛そうな表情だ。あの時のことを思い出しているらしい。
「これは五年前に、今戦地になってるアルビオンって国へ情報収集の任務を行ってる時の傷だよ。
 襲撃されて交戦している時に左手が貫かれてね、その後使い物にならなくなって切り落としたんだ」
 そう言って、俺は左手を見せた。
 左手は手首から先が無い。
 そして、皮の様なものを巻いている。
 実は、これはあの杖代わりの手袋と同じものになってるんだ。
 杖が無くても常時、魔法が使えるって訳である。
「なんだよ、それ」
 サイトは信じられないという表情で、俺と左手を見る。
「僕に出来ることだったから、任務を引き受けたんだ。これは予期せぬトラブルだったんだよ」
「俺、とんでもない場所に来ちまったんだな」
 サイトは不安を隠しきれない。
 未知なる場所で、知り合った人間の過去を知った。
 それが普通の子供なら耐えられないようなものだ。
「滅多にこんなことはないよ。僕がたまたまこうなっただけさ。交通事故だと思えば良いよ」
 実際、戦争になれば腕を切り落とす、足が無くなる、そういったことが日常茶飯事になるが。
「ま、そういうことだからさ。それに使い魔のすることの三つ目は聞いたでしょ?」
「主人を守ることだよな?」
「そう。だから、ルイズのこと頼みたいんだ」
「まあ、どうせ帰るまで何も出来ないんだ。
 いいぜ、まあ伝説の力もあるし何とかなるだろ。
 あ、そう言えば、俺、アレスに敬語で話したほうがいいのか?
 一応、年上だし、前世のまで含めれば大先輩だ」
「ああ、それなら普通にしててよ。僕は気にしないし。
 それに、今はアレス・ジルアス・ド・ヴァルガード。十九歳なんだから」
「わかったよ」
「さて、それじゃ、話はここまで。二人とも、もう部屋に戻りなよ」
 そういうと、サイトは再びあっ、と声を上げる。
「な、なあ。俺ってルイズの部屋に居ていいのか? 一応、俺男なんだけど?」
 ルイズの方をちらりと見ながら俺に尋ねる。
 俺は一応、婚約者だから気を遣ってくれるんだろう。
「あ、そうか……。ルイズはどう?」
「わたしは……、変なことしないなら構わないわ。それに仮にも使い魔だし、しっかりと守ってもらわないと」
「と、言うことだから、大丈夫だよ。あ、でも、サイト君」
「なんだ?」
 そういうと俺は笑顔で、でも目だけはしっかりとサイトを見て言う。
「ルイズは一応、君を信用して言っているから、裏切っちゃダメだよ?」
「あ、ああ。わかったよ」
 サイトは身震いをしながら、そう応えてくれるのだった。
 翌日。
 俺は学院長室へ向かっていた。
 教室ではない。
「マスター、どこ行くの? 教室はそっちじゃないでしょ?」
 肩に乗ってるノルンが尋ねる。
「学院長室」
「学院長室? 学院長ってここのお偉いさんでしょ?」
「そうだよ」
「昨日の婚約者のこと?」
「聞いてたんだ?」
「あんだけ騒いでたらね。あそこで起きても話に入れないから寝てたけど」
 確かに起きて来て話に入っても退屈になるだけだろう。
 ノルンはその辺の要領は良いみたいだ。
 会話をしているうちに学院長室に着く。
 部屋をノックすると少ししてドアが開いた。
「どちら様?」
 出て来たのは緑色の髪の女性だった。
 確か、一年次の終わり頃にオールドオスマンの秘書として雇われた人らしい。
 名前は、ロングビルだったか。
「アレス・ジルアス・ド・ヴァルガードです。学院長に大事な話があって来ました。
 学院長はいますか?」
「いいえ。オールド・オスマン学院長は朝から王都へ公務で出ています」
 学院長は公務で王都か。
 まあ、急ぐ話じゃないからいいか。
「伝言があれば伝えておきますよ」
「そうですか……。それではこう伝えてください。
 七年前の件、進展がありました。
 それで分かるはずです」
 いくら学院長秘書でも、固有名詞は使えない。
 いかにオールドオスマンが雇った人間でも信用に足るとは限らないからな。
「七年前? どういうことですか?」
 こう探りを入れてくる辺り、余計に話せない。
「いえ。オールドオスマンと個人的に相談していることがありまして」
「そうですか。伝えておきます」
 俺はお願いしますと言うと、学院長室を後にする。
 学院長に会えないなら、授業に参加するべきだろう。
 今度は教室へと向かうことにする。
「マスター、もしかして授業サボるつもりだったの?」
「サボるなんて、人聞きが悪いね。報告しようと思っただけだよ」
 虚無の話になれば、授業どころじゃなかっただろうけど。
 急ぐ話ではないものの、オールドオスマンに伝えるのは早い方がいい。
 そう思って報告しに行ったわけだ。
「へえー アレスがサボりね」
 後ろから声が聞こえ、俺は振り向いた。
「ミス・キュルケ」
「だから、いつもミスはいらないって言ってるじゃない?」
 そこにいたのはキュルケだった。
 足元には昨日、召還したサラマンダーがいる。
 サラマンダーは結構、上位の幻獣だったな。
「それが、あなたの使い魔ね。昨日もみたけど可愛い」
「ありがとう。あなたのサラマンダーも、立派じゃない」
「あら、分かる?」
 ノルンの言葉に嬉しそうなキュルケ。
 確かに、立派である。
「君の使い魔は、なんて言うんだい?」
「フレイムよ」
「あたしは、ノルン。よろしくね、フレイム」
 ノルンは肩から離れると、フレイムの前に浮かんで自己紹介をする。
 フレイムも嬉しいのか、尻尾の炎の勢いがいい。
 そして、なにやら話始めるノルンとフレイム。
「ノルン、これから授業だし僕たちは教室に行くから」
「あ、それじゃ、あたしはフレイムと広場で待ってるわね。いこ、フレイム」
 フレイムはノルンを乗せて広場へと行く。
 結構、気が合うようだな。
 しかし、フェアリーとサラマンダーの組み合わせか……。
 なかなか無い光景だ。
「あ、そうそう、アレス。ルイズの使い魔って人間だったじゃない? あの子の属性ってなんなのかしらね?」
 キュルケが首をかしげながらそう言った。
 使い魔の召還で自分の系統が決まるのだ。
「あなたは、フェアリーじゃない? 風の系統ってアレスが自分で言ってたけど。
 で、わたしはサラマンダーを召還したから火の系統。
 タバサはウィンドドラゴンで風。
 モンモランシーはカエルで水。
 ギーシュはジャイアントモールで土よ?
 でも、ルイズは人間。未だに系統魔法も使えないし、どうなってるの? まさかとは思うけど」
「キュルケ、それ以上は言わないでくれないかな?」
 今、虚無と言おうとしていた。
 彼女もメイジとしては優秀な部類に入る。
 頭もかなりいい方だ。つまり、四大系統に属さないなら、虚無と思っても間違いじゃない。
「まさか、本当に?」
「確かめようがないでしょ? それに、未知の系統ってこともありえるんじゃないかな?
 それに、仮にキュルケが言おうとしていた系統として、下手に聞かれたらルイズ達が危ないよ?」
 今、周りを見て小声で言う。
 キュルケもことの大きさがわかったらしく、頷いて応えた。
「未だ、系統に目覚めず。その程度に考えていてもらえないかな?」
「ええ、いいわ」
 そこでちょうど教室へと着く。
「じゃあ、この話は終わりで」
 教室に入ると、俺はルイズの隣に座った。
 婚約者ということもあって、いつも俺はルイズの傍にいる。
 今日は、その隣にサイトが床に座っていた。
「アレス。おはよう」
「おはよう、ルイズ」
「ねえ、どこに行ってたの? 朝食が終わったらどっか行っちゃったじゃない」
「学院長室にね。例の件で」
「あ……。そうだったの」
 ルイズはそういうと少しだけ俯く。
 だけど、それはわずかなこと、すぐに顔を上げてやや怒った口調でこういった。
「キュルケと一緒に教室に入ってきたのはどうして?」
 どちらかというとこっちがメインのようだ。
「こっちに来るときに一緒になっただけだよ。何も無いから安心して、ね?」
 そういうと俺はルイズの顔をそっと撫でた。
 ルイズは顔を真っ赤にして、顔をそらす。
「み、みんながいるところよ? 少しは自重して」
「君の機嫌が悪いと授業も受け辛いからね?」
「も、もう」
 先生はその直後にやって来て授業が始まるのだった。
 事件が起きたのは、俺がルイズと昼食をしている時だった。
 サイトは平民の使用人たちと食事をしていて、一緒ではなかったのだ。
 俺らが食事を終える頃に、メイドのシエスタがルイズを呼びに来た。
「ルイズ様、大変です! サイトさんが!」
 その叫びに、ルイズはすぐさまシエスタの方に駆け寄る。俺もその後を追った。
「サイトがどうしたの!」
「申し訳ありません。わたしのせいなんです。
 わたしが、少し余所見をした時に貴族の方とぶつかってしまって、絡まれてしまったのですがそれをサイトさんが庇ってくれて。
 でも、そしたらサイトさんが生意気だってことでヴェストリの広場に連れて行かれました」
「なんですって!」
 ルイズを良く思っていない連中だろうか?
 面と向かって言えないから、都合よくシエスタを庇ったサイトをリンチにするつもりだろう。
「相手は何人だい?」
「あまり、良く覚えていませんが、三人くらいだったかと」
 メイジ三人で平民を嬲りものにするつもりか?
 プライドばかりでかいやつらだ。
「ルイズ、行くよ」
「ええ!」
 急いでヴェストリの広場へと向かった。
 ヴェストリの広場に広がる光景は、見る人間が見れば異様だっただろう。
 戦っているのは貴族と平民。
 魔法は乱れ飛んでいるが、未だに決着が付いていないようだ。
 静かだった。
 野次馬たちさえ、声を出すのを忘れてその戦いに見入っていたのだ。
 火、水、風の魔法が入り乱れる中、その者は右に左にと避けている。
 もちろん、左右に避けているのはサイトだ。
「心配してきたけど、ルーンの力をうまく使っているじゃないか」
 そう、サイトは俺が上げたナイフを持ってルーンの力を引き出していたのだ。
 今朝、食事の時にルーンの力を試してみたとは言っていた。
「あれが、あのルーンの力なの?」
 ルイズは驚いたようにサイトを見ていた。
「くそ! 何だ、こいつ!」
「当たらない!」
 サイトに向けて魔法を使っている生徒は三人いた。
 全員、ラインクラスであるようだが、サイトを捉えられずにいる。
 ちなみに二人が地面に倒れているから、実際には五人で嬲るつもりだったらしい。
「ファイアーボール!」
「エアーニードル!」
 二つの魔法が、サイトを挟むように放たれるが、どちらもサイトは当たる前に動いていた。
 ファイアーボールが地面に着弾して、燃えがる。
 サイトは、一人の生徒に前に一瞬で近づいた。
「うわ!」
 その生徒は怯えるように驚く。
 サイトはそんなのもお構いなく、鳩尾に拳を叩きいれた。
 ナイフは使っていないようである。
「残りはもう、二人だな。まだやるか?」
「僕たちの負けだよ」
 その宣言と共に、周りが歓声を上げた。
「凄いぞ! 平民が五人のメイジ相手に勝ったぞ!」
「癒してのルイズの使い魔らしいぞ!」
 その歓声に、駆けつけていたルイズも注目を浴びる。
 ルイズは照れながらも、サイトの方に近づいていった。
「アレス」
 その声に横を向くと、モンモランシーとギーシュがいた。
「二人とも見てたんだ?」
「ええ。ルイズの使い魔が、五人の生徒と決闘よ? 最初は止めに入ろうと思ったんだけど……」
「瞬く間に、二人の生徒を倒してしまってね。思わず見入ってしまったのだよ」
 なるほど、二人とも止めに入ろうとしてくれてたのか。
 ルイズは友人に恵まれている。
 普通なら、貴族に歯向かった生意気な平民として見られるのが一般だ。
「それにしても、彼の強さはなんなのかね?」
「分からないけど、ルーンの力なのは確かだよ。昨日、僕の部屋に二人が尋ねて来てね。
 そこで、丸腰だと何かと物騒だから、彼にナイフをあげたんだ。
 その時に、ルーンが光ってね」
「そうなの? でも、どうしてアレスはナイフなんて持ってたの? メイジは杖があれば十分じゃない?」
 モンモランシーが不思議そうに俺を見る。
 普通は、メイジが杖以外の武器を持つのはありえないからだ。
「護身用。昔、任務で負傷したときに、杖がないと無力だってのが嫌ってほど思い知らされたからね」
「あ……。左手の」
 モンモランシーがバツが悪そうに言うと、ごめんと謝ってくる。
 俺も別にと言って流した。
 二人に以前、左手が無いことにどうしてか尋ねられて話したのだ。
 その時、ちょっと大げさに話して、二人に同情させてしまったのだ。
「しかし、例えルーンの力とは言え、彼らは上級生だ。全員ラインのメイジ。決闘が始まってから十分と経ってないのに倒してしまうとは……」
 ギーシュは土のドットメイジだ。
 さっきの五人と戦って、勝てはしなくてもいい勝負が出来る。
 それをサイトはガンダーヴルの力とはいえ、素手だけで勝ったのだ。
「彼の戦いは賞賛に値するよ」
 自分の友人の使い魔の強さに、純粋に感心している。
 ルイズとサイトが人ごみを掻き分けて俺の方へとやってきた。
「サイト君、お見事だったよ」
「いや、昨日、お前にナイフをもらってルーンの力を試しておけって言われなかったらまずかった」
「僕はきっかけを与えたに過ぎないよ。それより、庇っただけで決闘かい?」
 俺がそういうとサイトは嫌な顔をしながら、こういった。
「あいつら、俺のことはともかくルイズをゼロとか呼びやがったんだ。
 系統魔法の使えない無能だぞ?
 しかもアレスをゼロの腰ぎんちゃく。
 俺の事なら我慢できるけどよ、呼び出した責任を感じて、親切にしてくれるルイズと、帰る方法を探してくれるっていうアレスを悪く言われるのが我慢できなかったんだ」
 右の拳を握って明らかな怒りを見せる。
 サイトは、シエスタを庇っただけじゃない。
 俺とルイズのことを考えてくれたんだ。嬉しいことをしてくれる。
「サイト君、ありがとう。僕たちのことで怒ってくれるのは嬉しいよ」
「あ、いや、悔しかったからな」
 俺がお礼を言うと、頬をかきながら照れたように言う。
「でも、サイト。お願いだから無理はしないで? わたしはゼロって言われ慣れているし、アレスも。
 怒ってくれたのは嬉しいけど、それで怪我したらダメだからね?
 ちゃんと、元にいた場所に帰るのに死んじゃったら元も子もないわ」
 そう言って俺を一瞬だけチラリと見た。
 一度は死に掛けた俺だ。
 そのことがあってからはルイズは大切な人を失う怖さを知っている。
 サイトが大切かどうかは別にして、自分が呼び出した使い魔が死んだり怪我をするのはやはり嫌なのだ。
「わかったよ」
 サイトも心配してもらったのが嬉しいのか素直に頷いた。
 さて、そろそろ退散しないと、騒ぎが大きくて堪らない。
「次の授業もあるし、教室に行こう!」
「賛成!」 
 周りに集まり始めている野次馬をかき分けながら、俺たちは教室へと向かうのだった。
 午後の授業をしている時だった。
 教室にロングビルが入ってきた。
「ヴァルガードさんはいますか? 学院長がお呼びですよ」
 その言葉で教室にいた全生徒が俺を見る。
「アレス、何かしたのか!」
「お前でも悪さはするんだな!」
「アレスがあんた達みたいな野蛮なことするわけないじゃない!」
 周りは大騒ぎである。
 学院長も何も、授業中に呼ばなくても。
「僕は昔にオールド・オスマン学院長にある相談をしててね。今朝、伝言を頼んでおいたんだ」
 そう言って立ち上がる。
 ルイズを見ると、少し硬い顔をしていた。
「サイト君」
「なんだ?」
「ルイズをよろしくね」
「え? あ、ああ」
 俺はそういうと騒ぐ周りを気にせずに、ロングビルに着いて行ったのだ。
 廊下をロングビルと歩いていると、彼女が話しかけてきた。
「確か、あなたは創造の二つ名を持っていましたわよね?」
「え? ええ。良くご存知で」
「有名ですよ? ティーンエイジャーで武器の改良と、新魔法の開発すると」
 それなりに名は通っているらしい。
 あまり自分の二つ名には興味がなかった。
 自分が何て言われているか、それを気にしていても仕方が無いと言うのが理由だ。
「好奇心が旺盛なだけです」
「いえいえ。それより、新魔法ですが何でもかなり強力とか?」
 ライト・ブラストなら使い手次第で戦艦を落とせる。
 それをそのまま話していい気がしないため、俺はこう言った。
「大岩くらいなら容易で打ち抜くくらいには」 
 その言葉を言うと、ロングビルが驚いたような顔をした。
 そして何かを考えるようにして、言う。
「それだと、城壁とか崩せてしまうのでは?」
「まあ、使い手次第でですが、可能でしょう」
「なるほど……。今度私にも魔法を教えて貰えますか?」
「いいですが、なぜです?」
 城壁を破ると聞いて、何かを考えるそぶりをしていた。
 その上で教えてほしいとなると、どうも怪しい。
「実は、私、落ち貴族なんですの。その時大切な人たちを助ける力があれば、と後悔してまして。
 オールド・オスマンに拾われてこうして学院に勤めさせていただいています。
 もしまた、大切な人たちが奪われたりしたらと考えると、怖いのです。
 だから、戦う力がほしいと感じていまして」
 そこまで言うと、言葉を区切り、俺の目を見てきた。
 俺もその目を見つめ返す。
 真剣そのものだ。だが、その目には何か黒いものが感じる。
 もしかしたら、それが守れなかったと言う後悔の念なのかも知れない。 
「二つ、約束してくれるなら教えます」
「約束ですか?」
 不思議そうに俺に尋ねてきた。
 まさか約束なんて言い出すとは思わなかったのだろう。
「一つ。僕が教える力を決して悪用しないこと。
 一つ。守るために力は使ってください。
 復讐などには使わないでください。
 それが、守れるならお教えします」
 その言葉に驚いたように、目を開いていた。
 それから何かを考えるように目を閉じて、次に開いたときは強い意志の目をもって俺を見る。
「その約束、守ります」
「分かりました。放課後、僕は図書室か、自室にいます。好きな時に尋ねて来てください」
 そういうと、ロングビルは頷いた。
 俺はそれを確認すると、同じく頷いて見せる。
 その時、ちょうど学院長室に着いたのだった。
 軽くノックされて中から返事が返ってくる。
 ロングビルが失礼しますとドアを開けて中に入る。
 俺は一応入り口で待つ形になった。
 学院長室の中にはコルベール先生がいた。何か話していたのだろう。
「オールド・オスマン。ヴァルガードさんをお連れしました」
 ロングビルの声に二人は会話を止める。
「おお、ありがとう。ミス・ロングビル。
 アレス君、さあこちらに来たまえ」
 オールドオスマンに促されて俺は一礼すると、学院長室の中の方に進む。
 コルベール先生に会釈をすると、オールドオスマンの前に立つ。
「オールド・オスマン学院長、二人で話をしてもいいでしょうか?」
「そうじゃな。すまんが、コルベール君、ミス・ロングビル。二人とも席を外してくれんかの?」
「? わかりました」
「オールド・オスマン。それでは失礼します」
 ロングビルとコルベールは学院長室から出て行く。
「念のためにサイレントを掛けます」
 学院長が頷くのを確認して、部屋にサイレントを掛ける
 サイレントを確認して、オールド・オスマンは口を開いた。
「ミス・ヴァリエールの件だと思うのじゃが、彼女は虚無。そう報告にしに来たのじゃな?」
 俺はその言葉に強く頷くのだった。