死の先に待っていた新たな世界
第1話


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 俺がアレス・ジルアス・ド・ヴァルガードとして生を受けて早十二年がたった。
 言葉がしゃべれる様になり、文字が書けるようになると、俺はこの世界の書物を読み漁った。
 前世での三十年の経験と知識、こちらの世界での新たな常識と知識体系、文化体系の違いが面白い。
 特に、魔法に関しては衝撃的だった。
 ここハルケギニアには魔法の文化があり、工業、農業などは魔法で行ってしまう。そのせいで逆に科学は全く進歩しておらず六千年もの歴史があるのに中世ヨーロッパ並である。
 貴族の文化も中世ヨーロッパに似たり寄ったりだったが、俺は現代人。彼らの考え方が好きにはなれなかった。
 前世ではプログラマーをしていた俺は、とにかく魔法の研究には力を入れた。
 まるで新しい言語を覚えたように、それはとにかく面白い。
 言語が分かれば、あとはいろいろと試してみる。
 どんな技術であれ、元の技術から新しいものを作る試みは面白いものだ。
 魔法は俺にとって、新しい玩具を買ったときの子供の感覚を呼び起こしてくれていた。
 ここで両親について少し話そう。
 父はグレイア。二つ名が“風神”。
 風のスクウェアメイジだ。その風は神の如く、時には優しく、時には激しく、そして全てを無に返すほど力を持っている。
 烈風の名で一部、知られているカリーヌ夫人と勝るとも劣らないと言われるほどだ。
 金髪で、長身。そして誰もが安らぐ優しさと、強さを兼ね揃える。
 爵位は第二位の侯爵だ。
 またラ・ヴァリエール公爵とは戦友の中にある。
 そのためラ・ヴァリエール公爵家と交流があり二人の友情から政治的にも対等な関係となっていた。
 政治以外でも軍事に手腕を発揮している。
 母、エレナ。二つ名は”水の女神”。
 水のトライアングルメイジで、その治癒魔法はトライアングルメイジでは随一。
 治療に際する、人体の知識に富むため、適切な処置が出来るのでも名が知られている。
 また、女神の名が付くほど人間が出来ており、トリスティンでは異端視されるが平民への理解が深い。
 その影響があってか、ヴァルガード領の平民は他の領の平民より扱いが良い。
 彼女の髪は水の名と同じく、青い。
 間違いなく美人の部類にはいり、パーティなどの時には注目を浴びる。
 一説では元々隣国ガリア王家の血筋であり権力抗争に負けて三百年前に、トリスティンへ亡命。この地の貴族と血を交えたと言うが真実は定かではない。
 こんな名門中の名門に生まれた俺である。
 血筋とは恐ろしいもので、俺の魔法の才能はすぐに開花した。
 七歳で父親と同じ風の系統でメイジとして目覚めると、すぐさま九歳でライン、十一歳でトライアングルとなった。
 スクウェアメイジになるのも時間の問題とも言われている。
 まさに名実ともに良血の血統に恵まれた。
 俺の容姿は父親譲りだった。
 見た目も父親そっくりで、唯一瞳だけはエメラルドの色をしていた。
 ちなみに母親はエメラルド、父は髪の毛と同じ金。
 瞳だけは母親譲りである。
 さて、この世界で生きて十二年になるが、俺はある少女と出会った。
 ヴァリエール公爵家の三女、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。
 桃色の髪に、少しきつい瞳でありながら、優しさと儚さを持つ少女。
 歳は三歳下なのだが、とてもいい子だ。
 この手の女の子は将来とても綺麗なるのは間違いないだろう。
 俺が彼女に初めてあったのは十歳の時だった。
 両親が友人ということもあり、俺は父、これからは父さんと呼ぶことにしよう。父さんに連れられてヴァリエール家に遊びにいったのが最初である。
 お姉さん二人は印象的だった。あの二人は対極に位置するんじゃないかと思うほどである。
 それでも俺はルイズが一番気になっていた。
 歳が近いのもあったが一番興味があったのは、彼女の魔法が爆発するということだった。
 十歳になる頃にはありとあらゆる魔法書を読み漁った俺に、衝撃を与えたものだった。
 何より、失敗した時の、彼女の悔しそうで悲しいそうな顔が忘れられなかったのが、一番である。
 好奇心が人一倍旺盛なのと、新たな研究として俺は彼女の爆発の原因を調べることにした。
 
 その日も俺はヴァリエール家を訪れた。
 ヴァルガード家から馬で二時間ほどの場所がヴァリエール家である。
 もっとも、俺は魔法の鍛錬も含めて、いつもレビテーションを使って来ていた。
 魔力の効率が良く、その気になればフライと同等な速度で飛べる。
 ヴァリエール家の前に降り立つと、衛兵にあいさつをする。
「アレス・ジルアス・ド・ヴァルガードです。ルイズお嬢様に会いに来ました」
「アレス様、お待ちしておりました。どうぞ、お入り下さい」
 門が開けられると、衛兵に一礼して玄関に向かって飛んで行く。
 玄関まで来ると、ルイズが迎えのために出て来ていた。
 桃色の髪に、同じ色の服を着ている。
「アレス様、お待ちしておりましたわ」
 スカートを少しつまんで礼儀正しくお辞儀をしてくれた。
 俺も応えるように胸に手を当てて軽くお辞儀をする。
「こんにちわ。ルイズ」
「ふふふ。アレス様、楽しみにしてました」
 ルイズは俺の手を取ると、急かすように庭へと連れて行く。
 俺はルイズの爆発の原因を調べるに当たって彼女と過ごす時間を増やしていた。
 だからだと思うが、かなり気に入られていた。
 研究の一環で彼女には爆発の制御を試みるようにと言っていた。
 俺が二年間、爆発の原因を調べた結果、可能性の一つとして“虚無”が上げられたからだ。
 これは俺も推測の域を脱していないが確信に近いものを感じている。
 この世界では虚無は伝説の系統。
 それに触れるのは恐れ多いためか虚無については文献で調べられることは少ない。
 逆を返せばそれだけ虚無と言う力が未知であり、誰も虚無を正しく知らないことになる。
 文献にない爆発と言う現象のおげで確信に近いのだ。
 まあ、仮にそうだとして力の制御は出来たほうがいいに越したことはないとも思っている。
 庭に着くと、俺は芝生に小石を置いて、椅子に座わる。
「さて、今日は小石を最小限の力で内部から爆発させてみよう」
「はい」
 そういうと、ルイズは杖を構えて俺が置いた小石に向かって魔法を使った。
「バースト!」
 杖を突き出して、ルイズが魔法を唱える。
 ちなみに、バーストは俺の考えたルイズ専用のコモンスペルである。
 コモンスペルは、イメージが大切なのだ。
 イメージさえ出来れば口語でも発動できる。だからこそコモンスペルと言われるのである。
 ルイズの魔法は全て爆発してしまう。
 だったら最初から爆発をイメージしたコモンスペルを用意するのが妥当だと考えたのだ。
 ルイズが唱えた魔法で、親指大の小石が音を立てて破裂する。
 必要以上の爆発は起きない。あくまで小石を内部から爆発させただけだ。
「もう、随分と細かい制御が出来るようになったね。ルイズ」
「アレス様のおかげです」
 そういうとにっこりと笑うルイズ。
 最初のうちは、彼女は魔法が爆発だけということに、劣等感を抱いていた。
 ただ俺が魔法の無い世界での三十年からすれば、何もせずに爆発させるのは脅威である。
 そして、どの魔法書も爆発させる魔法は存在しない。
 だから俺はこう言ったのだ。
「アレス様が、『これはルイズだけの魔法だ』と言ってくれたからです」
 それだ。
 俺が行き着いた可能性が“虚無”なら、この爆発という現象はルイズしか起こせない。
 世界広しと言えど、単純な爆発を起こす魔法はないのだ。
 火のメイジでさえ、土と風の複合した魔法でなら似たような現象が起こせるが、それでもトライアングルクラス以上の力が必要である。
 それに威力だってルイズの何気なく魔法使って、爆発させた威力には勝らないのだ。
 まだ系統魔法に目覚めないルイズが、同等の魔法が難なく使えるのは脅威としかいいようがなかった。
「ルイズ。僕はね、事実を言っただけなんだ。この爆発だけは誰にも真似が出来ない。これは事実だよ」
 試しに、ルイズの両親にも進言したことがあった。
 ルイズを無能と落胆していたラ・ヴァリエール公爵とカリーヌ婦人。この二人にルイズと同じ威力の爆発の魔法が使えるか? と。
 最初は子供が何を馬鹿なと笑っていた。
 ルイズの爆発を起こすのにトライアングル以上のメイジでないと出来ないことを言うと、真顔で確かにと考えを改めてくれた。
 系統魔法が使えないのには何か理由があると説き、俺に任せてもらえるように言ったのである。
 もっとも出来るものならやってみるがいい、と笑われたが。
「アレス、来てたのね」
 その声で振り返る。
 そこには金髪の長身の女性が立っていた。
 ルイズの姉、エレオノールだ。
 確かルイズとは十一歳離れていて、今は二十歳の女性である。
 やや釣りあがった目は母親譲り、そして金髪は彼女の父親譲り。
 ルイズと違い、優秀で、確か昨年からアカデミーに入っていた。
「ミス・エレオノール。お邪魔しています」
 俺は立ち上がると、エレオノールに一礼をする。
「ちびルイズの方はどうなの?」
 エレオノールはルイズの魔法が使えないことに、何とかしたいと思っている一人だ。
 それだけに、彼女の魔法の制御にとても興味があるらしい。
「とても順調です。今、小石を内部から爆発させることをさせたところです。ルイズ、小石を持ってきて」
「あ、はい」
 ルイズは、今爆発させた小石を持ってこさせる。
 それをテーブルの上に置くと、それをエレオノールに見せた。
「……。とんでもないものね。あなたの魔法は」
 エレオノールは小石を手にとって見ている。
「どういうことですか? お姉さま」
「こんなこと、どんなメイジでだって出来ないってことよ。いいこと? 普通、小石を内部から破裂させるなんて芸当はスクウェアメイジでも出来ないの」
 小石の断面を見ながら、答えるエレオノール。
 それもそうだ。
 大体の魔法は外からの影響を与える魔法がほとんどだ。
 唯一、錬金は物質を変化させることは出来るが爆発させると言うものじゃない。
「わたしって凄いということでしょうか?」
「そうね。こんな魔法でも使い方によっては有効的ってとこかしら? アレス、あとで少し時間もらえるわね?」
「あとで、ですよ?」
「ふん、子供のくせに生意気ね。でも、いいわ。時間が出来たらわたしの部屋に来なさい」
「わかりました」
 そう言うと、エレオノールはやや複雑そうな顔をしながら去っていく。
 その後、ルイズに力の制御の練習が終わると、一緒にお茶を飲む。
 こっちのお茶は紅茶だ。
 どうも、食文化もヨーロッパに近いらしい。
 俺は紅茶を一口飲んで、テーブルに置く。
「アレス様」
 ルイズが、俺の方をやや顔を赤くしながら見ている。
 なんだろうか?
「どうしたんだい?」
「えっと……。お父様からお話があったんです。将来、わたしをヴァルガード家に出すと」
「え? ヴァルガード家に?」
 確か、以前ルイズからワルド子爵と婚約しているという話を聞いたことがあった。
 ワルド子爵は、ヴァルガード家の近くである。俺も何度かあったがとてもいい人だ。
 優しく、強く、そして何よりも礼儀正しい。
 その彼と婚約していたはずなのだが?
「はい。何でもワルド様との婚約はお酒の席で正式なものじゃないからって仰ってました」
「でも、どうしてヴァルガード家に? その話が本当ならルイズとは将来結婚することになるんだけど?」
「わ、わたしが……アレス様の事が好きだと言ったからです。そしたら少し考えられてから、ヴァルガード家に出す方がいいかもしれないと」
 これは何と言ったらいいんだろうか?
 まあ、俺もこの子のことは嫌いじゃないが、貴族はどうもこの手の話が早い。
「ルイズは、僕のこと好きなんだ?」
「はい。ア、アレス様はどうでしょうか? アレス様が望まれないなら、わたし……」
「好きだよ」
 取り分け他に好きな女性もいない。
 妹みたいな存在だけど、将来が楽しみな子であるのも間違いない。
 何よりもそこまで好かれてて断る理由があろうか?
 俺の言葉を聞くと、ルイズは花のような笑顔を見せる。
「嬉しいです! わたし、アレス様とならずっと一緒にいたいと思ってました」
「僕も、ルイズにそこまで思われていて嬉しいよ」
 正直、九歳の子供に好きと言われても精神年齢がすでに四十を超えているからな……
 まあ、見た目は大丈夫だろう。
 三歳差なんて、貴族の世界からしたらむしろかなり理想的だ。
 普通なら十歳くらい歳の差があってもおかしくないのだから。
「後で、アレス様に贈り物がありますので、受け取ってくださいね」
「それは楽しみに待ってるよ」
 その贈り物を貰った時は俺は何ともコメントに困ったものだった。
 贈り物はマフラーだったのだが、どうも彼女は編み物など細かい作業は苦手のようだ。
 何せ、マフラーと言うよりは、毛糸が絡まった帯にしか見えなかったのだから。
 それでも、俺が首に巻いてお礼を言うと、とても喜んでくれたが。